NTT NGNにおけるIPv6インターネット接続を実現するIPoEの啓蒙に務めてきたIPoE協議会。昨年末には「IPv6 IPoE 10周年記念ミーティング~IPoE温故知新~」のイベントを無事成功させたが、改めてIPoE協議会設立の背景やその役割について話を聞いた。
鳴かず飛ばずだったIPv6インターネット 浮上のきっかけは2015年開始の光コラボ
大谷:まずはIPoE協議会設立までの流れを教えてください。
石田:そもそもの話はIPoEの開始にさかのぼります。2011年にIPv4アドレスのIANA在庫が枯渇し、IPv4のアドレスは事実上なくなり、IPv6にスムーズに移行するだろうという見込みがありました。当時はグーグルとかもIPv6にあまり関心がなかったはずですが、そのうちコンテンツ事業者もIPv6対応していくだろうと考えていました。
同じ時期にNTT NGNでIPoE・PPPoE方式によるIPv6インターネット接続が始まり、イベントでも話したようにすったもんだはあったものの、VNEというネットワーク接続事業者を介することで、ISPはある意味大きな負担を負わずにIPv6インターネットをエンドユーザーに提供できるスキームがスタートしました。ISPもそこそこの規模の事業者が集まったので、順調に成長すれば大丈夫だろうという見込みがありました。
でも、これが今から振り返れば甘かったんです。始めてみたら、正直鳴かず飛ばずというか、低迷する期間がけっこう長かった。IPv4 over IPv6を始めることでようやく増加するはするのですが、とはいえIPv6のインターネット接続は長らくマイナーな存在でした。
大谷:転機はいつだったんでしょうか?
石田:大きな転機になったのは、モバイル回線とFTTHをバンドルする光コラボが2015年に開始されたことです。モバイル回線の切り替えにあわせて、自宅のFTTHの切り替えが促進されるようになり、IPv6を提供するISPやISPに回線を卸すVNEも増えてきました。
外山:あと、ユーザー動向から言うと、グーグルがYouTubeを中心にIPv6でサービスを提供するようになったのは大きいですね。やはり人気のコンテンツですし、いまもトラフィック面でかなりの割合を締めています。
石田:しかし、事業者ならびにユーザー数が増えた結果として、PPPoEとIPoEとの扱いに差があるのではないかということで、総務省の主催する研究会で問題になったんです。
PPPoEとIPoEの扱いをめぐり、設立されたIPoE協議会
大谷:従来のブロードバンド回線はPPPoEでIPv4アドレスを割り当てていましたが、NTT NGNではIPoE方式でIPv6を割り当てていますよね。この両者の扱いの違いについて、もう少し説明してください。
外山:IPoEベースのIPv6でインターネットを利用すると、VNEがトラフィックを予想して帯域を増設するため混んでおらずストレスなく利用できます。インターネット接続が快適という噂がユーザーに拡がり、IPoEのIPv6を選択するエンドユーザーも増え、石田さんの話の通り、IPoEを卸売するVNEやIPoEを提供するISPも増えます。
しかし、PPPoEベースのインターネット接続は、NTTの網終端装置の増設基準の関係で、必要な帯域を確保できず混雑していました。トラフィックが小さかったときはあまり問題なかったのですが、IPv6サービスが増えるとともに、網終端装置を増設できないPPPoEと拡張性を持ったIPoEの差がはっきりしてきました。
IPoEでサービスを提供する事業者はともかく、PPPoEベースのサービスを提供している中小規模・地方のISPからすると納得いかなかったんだと思うんです。総務省の研究会にその議題が持ち込まれ、NTTに対してサービスを平等に提供してほしいという話になりました。
大谷:ただ、基本はNTT NGNでの設備の話ですよね。
石田:とはいえ、われわれも説明や認知が足りなかったことを反省しましたので、IPoEを正しく理解してもらうために2018年にできたのが「NGN IPoE協議会」です。当初は任意団体でスタートしたのですが、その後、活動を進める中で法人格をとったほうがよいと考え、一般社団法人にしました。
鶴巻:方向性に関しては、石田さん、外山さんの話の通りなのですが、結局IPoE事業者の考えや方向性を決める場所が今までなかったというのが一番だと思います。総務省から見れば、既存のJAPIAやテレコムサービス協会に話は通るだろうと思っていたのに、先ほどのようなトピックが出てしまったので、やはりIPoE事業者として情報を発信するところが必要と考えたのがIPoE協議会発足の一番のモチベーションだと思っています。
大谷:なるほど。そういう意味では、総務省に問題が持ち込まれた結果、生まれたグループではあるということですね。
石田:立ち上げがある意味「泥縄的」だったかというと、それは否定できないと思います。とはいえ、以前からミッシングリンクはあるなあとは考えていて、NTT東西さんと個別にやりとりすることはあったのですが、IPoE事業者全体として考える場所はなかったんです。その意味で、IPoE事業者でグループを作り、NTT東西とやりとりしたり、たとえば消費者団体などの対外的に情報発信することはやはり重要だったんです。
外山:われわれがインターネットに関わり始めた時期も古いし、どちらかというとビジネス系というより、エンジニアリング系のメンバー。だから、技術的な議論をしたいという思いもありました。
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