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モーツァルト・モメンタムの第2弾にして完結盤、ミック・ジャガー新録ほか、麻倉怜士推薦盤

2022年05月24日 17時00分更新

 評論家・麻倉怜士先生による、今月もぜひ聴いておきたい“ハイレゾ音源”集。おすすめ度に応じて「特薦」「推薦」のマークもつけています。優秀録音をまとめていますので、e-onkyo musicなどハイレゾ配信サイトをチェックして、ぜひ体験してみてください!!

この連載で紹介した曲がラジオで聴けます!

 高音質衛星デジタル音楽放送、ミュージックバード(124チャンネル「The Audio」)にて、「麻倉怜士のハイレゾ真剣勝負」が放送中。毎週、日曜日の午前11時からの2時間番組だ。第一日曜日が初回で、残りの日曜日に再放送を行うというシークエンスで、毎月放送する。

収録風景

『Mozart Momentum - 1786』
Leif Ove Andsnes, Mahler Chamber Orchestra

特選

 ノルウェーの名ピアニスト、レイフ・オヴェ・アンスネスとマーラー・チェンバー・オーケストラによるプロジェクト「モーツァルト・モメンタム」の第2作にして、完結編。前作はピアノ協奏曲第20、21、22番とピアノ四重奏曲ト短調、幻想曲ハ短調のカプリングだった。今回も第1弾同様、世界的な新型コロナの流行ゆえに、予定された演奏会のキャンセルを余儀なくされたが幸い、コロナ下のウィーン・ムジークフェラインでセッション録音が実現。光と影とも言うべき対照的な作風のピアノ協奏曲第23番と第24番を両端に置き、中に室内楽2編、ピアノ・ソロのためのロンド、コンサート・アリアを挟むという構成だ。

 実に爽やかで、伸びがクリヤー、透明な質感が横溢する演奏であり、音だ。ピアノ協奏曲第23番は冒頭のイ長調の爽やかな前奏から、レトリックで言えばまさに空間そのものから音が発するような自然な音場、音色が聴けた。レイフ・オヴェ・アンスネスの飾らない、ナチュラルそのもののピアニズムも、音場にごく自然な音像を描く。センターに大きく位置するが、オーケストラとのバランスは好適だ。ソノリティも自然で豊か、響きも適切で、明瞭度も高い。楽章ごとの「明」「暗」「明」の対比の音楽的な描き分けも見事だ。2020年2月21日~25日、ドイツ・ブレーメンのゼンデザールと、2021年11月15~18日、ウィーンのムジークフェラインザールで録音。

FLAC:96kHZ/24bit
Sony Classical、e-onkyo music

『Strange Game[From The ATV+ Original Series]』
Mick Jagger

特選

 78歳の大ミック・ジャガーが、イギリスの諜報部、MI5の落ちこぼれ部隊の活躍を描いたドラマ『窓際のスパイ』に提供した新曲。NMEJAPANによると、この“Strange Game”はミック・ジャガーが映画音楽の作曲家ダニエル・ペンバートンと共作した楽曲。ダニエルはこう語っている。「ミック・ジャガーとのコラボレーションには、今までのキャリアの中でも特別な興奮を覚えた。ほかに例のない、とてもユニークなテーマ曲を作れたと思うし、世界中の皆さんに聴いてもらうのが待ちきれない気持ちだ」。

 凄い。まったく歳を感じさせない力感に溢れ、キレ味が鋭い、そして皮肉力も横溢する、魅力のヴォーカルだ。ちょっと哀愁を帯びた(窓際族だからね)旋律もいいし、ミック・ジャガーを音像的に、輪郭的にフューチャーした録音も、はっきり、くっきり。ベースの大体積な偉容な低音が、全体を引き締めている。メタリックな質感も最高。

FLAC:48kHz/24bit
Polyor Records、e-onkyo music

『チャイコフスキー:交響曲第4番』
ロンドン交響楽団、カール・ベーム

特選

 カール・ベームのチャイコフスキーとはたいへん珍しい。1977年にロンドン交響楽団の名誉会長に推されたベームが、そのお礼に演奏・録音したチャイコフスキーの後期三大交響曲からの一曲だ。ベームのチャイコフスキーは、これ以外にはORFEORレーベルのチェコ・フィルとの交響曲第4番ライブのみだから、貴重だ。ベームは1980年以降の録音では、晩年の影が忍び寄っているが、83歳の1977年12月録音の本作は生命力が横溢している。過度なロマンティシズムに耽溺せず、基本的にスクウェアな古典的な様式で進む。でも、ここぞというところは表現意欲が驚くほど爆発するのである。第2楽章のオーボエソロの感情感と美しさは特筆もの。第3楽章は過度に表情づけに走らず、クリーンだ。第4楽章の輝かしさ、溌剌感もベームさん、やったね。カラヤンのような演出型とも、ロシアの爆裂型とも違う、古典的なチャイコフスキーである。

 音はさすがのDSDリマスタリング。音色が艶艶し、音場の深み、空気の澄み方など、ライブネス係数が高い。1977年12月、ロンドンはウォルサムストウ・タウン・ホールで録音。アナログ録音オリジナル・マスターから独Emil Berliner Studiosで2021年12月に制作したDSDマスター。

DSF:2.8MHz/1bit
Universal Music LLC、e-onkyo music

『SUCCESSION(feat. 森山威男)』
KYOTO JAZZ SEXTET、森山威男

推薦

 音楽プロデューサー、沖野 修也が主宰するアコースティック・ジャズ・ユニット、KYOTO JAZZ SEXTETのサードアルバム。ジャズ・ドラムの最高峰、森山威男をフィーチャーしている。STUDIO Dedeの吉川昭仁氏のアナログ録音・マスタリングだ。

 「1.Forest Mode(feat. 森山威男)」は定型リズムとベースパターンに乗って、金管のハーモニーが躍動。沖野修也書き下ろしの新曲「3.Father Forest(feat. 森山威男)」はノリがシャープで、トランペットの突き抜けも快感的。アナログ録音らしい腰の強さと、緻密さ、こってりとした音調が美質だ 平戸祐介のピアノソロも厚いバンドサウンドを背景にしても、フューチャー感が確実。迫力と前進力が逞しい。森山威男の華麗なドラムソロも映える。

FLAC:96kHz/24bit、MQA:96kHz/24bit
Universal Music LLC、e-onkyo music

『Beethoven: Diabelli Variations』
Mitsuko Uchida

推薦

 ベートーヴェン晩年の大作「ディアベッリ変奏曲」を、内田光子は2013年からリサイタルのメイン曲として演奏している。いまや内田光子の重要なレパートリーの一つだ。、内田光子の一音一音に魂を吹き込み、ディテールからひとつひとつ積み上げ、大伽藍を構築していく構成的なピアニズムが圧倒的だ。ベートーヴェンの明確で、リジッドな曲構成が明瞭に識れる。ピアノのダイレクトさと、それを修飾する適度な響きの合わせ技は、ライブ的でもあり、内田のピアノの剛感を味わうのに適したソノリティだ。2021年10月、サフォーク、スネイプ・モルティングス・コンサートホールで録音。

FLAC:192kHz/24bit、MQA:192kHz/24bit
Decca Music Group Ltd.、e-onkyo music

『The Parable Of The Poet』
Joel Ross

推薦

 Joel Rossはシカゴ出身、ニューヨークで活躍するヴィブラフォン奏者。「1.PRAYER」は、まさに倍音の饗宴。協和する倍音群と不協和(唸り)の倍音群のミックスが、体にも耳にも快感を与えてくれる。冒頭はヴィブラフォンソロだが、次ぎにバンドメンバーが加わると、トランペット、トロンボーン、サクソフォーンの金管群との音色の融合度が高く、その合奏感はとても心地好い。「7.BENEDICTION」のピアノを中心にした異種楽器のハーモニーの分厚さ、グロッシーさ、音場密度の高みは感動的だ。

FLAC:96kHz/24bit、MQA:96kHz/24bit
Blue Note Records、e-onkyo music

『Grigory Sokolov at Esterházy Palace[Live]』
Grigory Sokolov

推薦

 グリゴリー・リプマノヴィチ・ソコロフはロシアのベテラン・ピアニストのハイドンゆかりの場所でのライブ作品だ。ウィーンとハンガリー国境の中間にあるアイゼンシュタットには、ハイドンが楽長として30年以上務めたエステルハージ家がある。そのハイドンが日常的に演奏していた、まさにそのホールでハイドンのソナタ3曲、シューベルトの即興曲D935とアンコール集を録音した。

 それだけでも有り難みがあるが実際、素晴らしい演奏だ。ハイドンの32番ソナタは典雅にして、躍動的。音が踊っている。どんなに速いパッセージでもレガートでも、一音一音が明確に立つ精緻なタッチの魅力が、ライブなのに、ひじょうにクリヤーに伝わってくる。大きな音像にて、精密な鍵盤感が高解像度で聴ける。会場の拡がる響きはとても自然で、量もウエルバランスしている。シューベルトの即興曲D935はクリヤーにして、過度にロマンティックに耽溺しない清潔さがすがすがしい。2018年8月10日、オーストリア、アイゼンシュタット、エステルハージ宮殿、ハイドン・ホール(ライヴ)。

FLAC:96kHz/24bit、MQA:96kHz/24bit
Deutsche Grammophone(DG)、e-onkyo music

『Jacob's Ladder』
Brad Mehldau, Alex DeTurk, John Davis, Paul Pouwer

推薦

 人気ジャズ・ピアニスト、ブラッド・メルドーの最新作。プログレッシヴ・ロックと神への探求をテーマにしている。タイトルは旧約聖書のヤコブが旅の途中で野宿し、そこで、天使が天に届くはしごを上り下りする夢を見る「天国へと通じる梯子」だ。「1.maybe as his skies are wide    」は女性ヴォーカルがmaybe as his skies are wideと繰り返し歌うバックで、ピアノ、ベース、ドラムスがそれぞれの世界を繰り広げる。その異種的な合奏感、重層感が印象的。タイトルチューンの「9.Jacob's Ladder, Pt. I: Liturgy」は使徒ヤコブの天まで届く梯子の物語が女性、男声、子供の声で優しく語られる。

 「10.Jacob's Ladder, Pt. II: Song」は3楽章形式の大作。KORG MS-20シンセサイザーの分厚い和音で始まり、スタインウエイが印象的な短いアルペジォ、フレーズを挿し込む。女声が民謡風のメロディを歌い、それが昇天していく。シンセの和音が終わると、スーパーマリオのような浮き立つ人工的な機械音でリズムが躍動し続ける。それにピアノの高音が絡む。次ぎにスタインウエイでのピアノソロが加わる。まだまだスーパーマリオのような弾むベース(ムーグ・シンセサイザー)が続く。

FLAC:96kHz/24bit、MQA Studio 96kHz/24bit
Nonesuch、e-onkyo music

『ワン・ポイント リアル・ハイレゾ384KHz 2022』
ヴァリアス・アーティスト

推薦

 日本が誇るクラシック専門の高音質レーベル「マイスター・ミュージック」の傑作コンピレーションだ。マイスターミュージック作品は「直接音か、響きか」の二択ではなく、「直接音も、響きも」である。ひじょうにクリヤーで緻密なアンビエントの中に、ひじょうに明瞭で、明確な音像が立ち、細部まで解像している。しかも、単に細かい部分をはっきり出すという即物的な解像力ではなく、音楽性を涵養するための必要な音情報がたいへん多いのが、マイスターミュージック作品の美質だ。

 それを実現するのがワンポイント・ステレオマイクでの録音、そして特殊な銅を使用したオール・ハンド・メイドの大型マイク「エテルナ・ムジカ(永遠の音楽)」だ。ワンポイント・ステレオマイクはマルチマイクのような位相ずれがなく、正しくホールに拡散する倍音を収録できる。それは周波数帯域は8Hz ~ 200KHzの「エテルナ・ムジカ」で録音する。
 マイスターミュージック作品の素晴らしさが分かるのがNHK交響楽団首席奏者を32年間務め、現在ソリストとして活躍、各音楽大学で後進の指導に当たるチェリスト、木越洋の「1.J.S. バッハ プレリュード無伴奏チェロ組曲 第1番」。ホールトーンがひじょうにリッチであるのと同時に、楽器から発せられるダイレクト音もたいへん明瞭だ。クラシック音楽は楽器からの直接音と、そこから発した演奏会場の響きとの融合を味わうアコースティックな芸術であることが、強く再認識される録音だ。

FLAC:96kHz/24bit、WAV:384kHz/24bit
マイスターミュージック、e-onkyo music

『LOVE ALL SERVE ALL』
藤井 風

推薦

 「きらり」がストリーミング累計2億回再生を突破したことで話題のシンガーソングライター、藤井 風。その「1.きらり」には、しっかりとした音楽性が感じられる。明確で刻まれるベースのリズムに乗って。躍動的な旋律の世界が繰り広げられる。ポップな香りだ。「2.まつり」はコード進行の半音的なパターンが耳になじみ、ソフトにしてしっかりとした体積感と輪郭を持つヴォーカルも快適だ。「6.ガーデン」はオーガニックな声質が耳にすうっと入ってくる、ダブルトラックによる声の厚みが心地好い。

FLAC:96kHz/24bit、MQA:48kHz/24bit
Universal Music LLC、e-onkyo music

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