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IPv6 IPoE 10周年記念ミーティングの締めは豪華メンバーのパネル

コンテンツ、アクセス格差、集合住宅 IPv6普及に向けた次の課題

2022年04月12日 11時30分更新

NTTドコモがシングルスタックに振り切った背景とは

 江崎氏から紹介され、「江崎先生から今日の登壇の理由、まだ納得してないんですが(笑)」と一声を挙げたNTTドコモの伊藤氏は、同社がIPv6のシングルスタックに振り切った背景を説明した。

 まずは歴史を振り返る。NTTドコモがIPv6に関わったのは、2010年のLTE導入時で、IPv6対応のサービスはなかったが、コアネットワークはIPv6対応していた。2011年にISPサービスである「mopera U」でIPv6対応を行なったが、設定はあくまでユーザー側だったという。2014年のVoLTE導入時に初めて端末側にIPv6アドレスを付与した。

NTTドコモとIPv6の歴史

 伊藤氏が江崎氏と出会ったのはその翌年。IPv6研究会で「なぜモバイルはv6をやらんのだ?」とご指導いただいた伊藤氏は、その場で実行期限を宣言。2017年にSPモードのIPv6対応を行ない、ユーザーが意識しない形でIPv6を使える環境を整えることにした。その後、設備更改のたびに進める予定だったIPv6対応だが、なかなか進まなかったというのが実態だった。伊藤氏はその背景に「IPv6デュアルスタックの課題」があったという。

 NTTドコモでは、プライベートアドレスを用いたネットワーク(PDN)を内部的に複数構築しており、2017年の段階ではそのうちの1つのネットワークをIPv4とIPv6のデュアルスタックで構築していた。当然、こうしたデュアルスタックのネットワークをその後もどんどん拡大していく予定だったが、納期やコストが厳しい中、「石橋を叩いて壊すくらい」(伊藤氏)工数のかかるテストや検証を進めなければならなかった。

 そして、デュアルスタックの場合、このテストや検証を、IPv4とIPv6でそれぞれやらなければならない。これに対して伊藤氏は、「この先いつまでこの(デュアルスタックの)構成を続けるのか?」と現場のメンバーに問いかけたという。「もう、そろそろIPv6オンリーではダメなのか。端末もモバイルコアもレディになっているのであれば、エンドツーエンドでIPv6だけにすれば、デュアルスタックでの検証の手間は要らなくなるのではないかと聞いてみました」(伊藤氏)。

デュアルスタック構成の課題

 発破をかけられたメンバーは、「なぜこのタイミングで?」と猛反対していた社内メンバーを説得に回ったという。「5Gも控えており、このタイミングに一気にやってしまおうと考えた」とのことで、過剰とも言える検証やテストも減らしていく割り切りもあわせて提案。ワーキングループの立ち上げ時には反対の声もようやく収まった。具体的には端末のIPバージョンに応じてPDNを選択することにし、アドレス変換はスマートフォンが対応する「NAT64/DNS64&464XLAT」を採用することにしたという。

 NTTドコモにとって、IPv6のシングルスタック化は設計という面でもメリットがあるという。今までのデュアルスタックではユーザー用のアドレスが不足するたびにシステム用のアドレスを捻出してきたため、アドレス帯がぐちゃぐちゃになっていた。もちろん、アドレスが足りなくなり、新たなPDNを構築する場合はもちろんこうしたことが起こらないように設計するのだが、やっぱりぐちゃぐちゃになってしまう。一方、IPv6の場合はユーザー用のアドレスが不足しないため、システム用のアドレスと混ざることなく、設計もきれいになるというメリットがある。

 あわせてレガシーな業務からの改革も提案した。IPv4/IPv6が混ざった環境では毎回設計し直していたが、IPv6のシングルスタック化が実現した暁には、設計は定型化して個別設計はなしに、設定も運用も自動化することにした。あわせて、自動化を前提に社内システムもデジタル化した。

シングルスタック化のメリット

ユーザー用のアドレスが不足するたびにシステム用アドレスを払い出してきた

レガシーな業務からの改革

 ドコモサービスでのIPv6シングルスタックの検証は2019年夏から開始した。Android、iOS、デザリング、ブラウザで合計5000項目の試験を実施。また、利用の多いサービス(アプリ100種類、ブラウザ50種類)でも約1700項目を検証し、各種サービスの開発部門でも詳細な試験を行なった。そして2021年7月から12月(ちょうど同日!)までは開発者に向けた接続試験を実施し、想定していなかった観点での意見やコメントも得られたという。江崎氏は、「最初は傍観していた感じでしたが、現在まででオペレーションフリーのところまで到達した」と評価した。

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