今回のひとこと
「DX における最後のピースとして足りなかったのがプロセスマイニング。そして、今年は、日本のData Execution元年になる。プロセスマイニングとData Executionによって、日本を元気にしたい」
サイレントキラーとは?
プロセスマイニングのCelonisが、日本における事業拡大に踏み出した。
Celonisが打ち出すプロセスマイニングは、あらゆるところに点在するイベントログを業務システムから抽出し、業務プロセスを可視化することで、事実に基づいて、問題を診断できるものだ。
Celonisの村瀬将思社長は、「プロセスそのものを、レントゲン写真のように写しだし、非効率性を発見する能力がプロセスマイニング」と説明。「人間は病気が見つかると、治療するために、多くの時間と費用がかかる。しかし、仮に毎日レントゲンを撮影し、病気がすぐに発見できれば、大事には至らず、すぐに薬を処方して治療することができる。プロセスマイニングは、それと同じで、毎日レントゲン撮影をして、悪いところをダッシュボード上に可視化し、すぐに見つけることができる。その結果、ビジネスが健康になる」と比喩する。
Celonisのプロセスマイニングによって、次のようなことがわかるという。例えば、企業の購買発注明細書の「購買発注明細送付」から「入庫の記録」のプロセスに至るデータを分析すると、直接到達する正規のプロセスと、「注文確認書の受け取り」といった業務を経たプロセス、そして、「価格変更」を経た3つのプロセスが存在することがデータからわかる。Celonisでは、これをグラフィカルに表示し、それぞれのプロセスの件数や比率、それに関わる平均日数などを表示できる。
それぞれのプロセスを比較してみると、価格変更を除く2つのプロセスはいずれも8~9営業日でプロセスが完了しているのに対して、価格変更のプロセスは17営業日かかっていることがわかる。さらに、価格変更のプロセスを詳細に見てみると、タッチレスレートが22%に留まり、ほかのプロセスに比べて自動化が進んでいないことも浮き彫りになる。
また、価格変更が、規則性があるものならば、マスターそのものを変更したり、価格変更のプロセスを自動化するといった解決策をとればいいが、イレギュラーな価格変更が相次いでいるのであれば、そのプロセスそのものが適切なものであるかどうかを確認する必要がある。
また、プロセスを広く可視化していくと、今度は、請求書を記録してから購買処理をするといったように、業務の順番が逆となり、コンプライアンス上、問題がある処理が行われていることがわかる場合もある。このときにも、ダッシュボードから、このプロセスがどれぐらいの比率を占めているのか、どこの組織で行われているのか、誰が担当しているのかといったことも抽出できる。さらに、拠点ごとのプロセスを比較することも可能であり、同じ業務プロセスでも拠点によって自動化の導入率に差があり、それが業務のスピードの差につながっていることなども可視化できる。
こうした問題抽出や比較を視覚的に行ったり、アラームをもとに問題点を指摘したりすることで課題解決や改善につなげることができるのだ。
村瀬社長は、こうした業務プロセスの可視化の重要性を示しながら、「システムの複雑性が、業務におけるサイレントキラーを生み出している。それを解決するのがプロセスマイニングになる」と位置づける。
サイレントキラーとは、医療分野で使われる言葉であり、高血圧をはじめとする生活習慣病など、初期段階には自覚症状がないものの、そのまま放置すると健康を阻害し、合併症などを引き起こして、死に至る可能性があることを指している。
業務におけるサイレントキラーとは、ひとつひとつの課題が、小さな影響に留まっているものの、そのまま放置しておくと、それらが絡み合って企業全体に大きな影響を及ぼすことになりかねないという状況を指すといっていいだろう。システムや業務が複雑化すればするほど、業務のサイレントキラーが見つけにくくなり、見つかったときには手に負えないほどの課題に膨れ上がっていることにもなりかねない。
村瀬社長は、「部門間のサイロ化や、サイロに最適化したシステムによって、さらに複雑性が生まれ、ビジネスパフォーマンスの低下を生んでいる。これが業務におけるサイレントキラーになっている」とし、「組織のパフォーマンスの低下や生産性の低下は、運用コストの増加につながったり、新規ビジネスを創出する機会の損失につながったりしている。その結果、従業員の高い離職率につながることもある。さらに、こうした無駄な活動は、無駄なエネルギーの消費やCO2排出量の増加にもつながる」と指摘する。
業務のサイレントキラーを見つけだすには、レントゲンの役割を果たすプロセスマイニングが不可欠というわけだ。
業務プロセスの可視化、ボトルネックの発見のために
Celonisの特徴は、既存システムの大幅な改修を行わずにプロセスマイニングの導入が可能であり、業務システムからイベントログを抽出し、レントゲンのようにして業務プロセスを可視化。ボトルネックを見つけることである。そして、それとともに、もうひとつの車輪を担うのが、2020年から提供を開始した「Celonis Execution Management System (EMS)」である。EMSは、Celonisが掲げるData Executionを実現するソリューションだ。
プロセスの可視化をベースに、そこから発見したボトルネックを解決するための業務の自動実行管理を行うことができるのが特徴で、データをもとにした分析、戦略や計画の立案、管理、アクション、自動化に至るまで、実行管理のあらゆる側面を支援することができる。
また、EMSでは、100以上のプロセスコネクタにより、SAPやSalesforce、ServiceNowなどの各種システムからデータを収集。500以上の事前構築済みアプリを提供し、900以上の外部サービスとの統合が可能になる。
Celonisの村瀬社長は、「EMSが自律的に改善を提案して、インサイトを自動的に実行することができる。既存のテクノロジーをオーケストレーションし、人々が到達したことのないレベルのパフォーマンスを供給し、それによって業務のサイレントキラーを解消することができる」とする。
本物のDXとは何か?
Celonisは、2011年にドイツ・ミュンヘンで創業した。プロセスマイニングの生みの親であるウィル・ファン・デル・アールスト博士のアイデアをもとに、ミュンヘン工科大学の学生たちが立ち上げた企業で、アールスト博士は、Celonisのチーフサイエンティストに就任している。
ミュンヘンと米ニューヨークに本社を置き、世界13カ国16拠点で事業を展開。プロセスマイニング市場におけるシェアは60%以上で、ABBやアストラゼネカ、ボッシュ、デル・テクノロジーズ、シーメンス、Uber、ドイツテレコムなど、2000社以上への導入実績を持つ。ARRの成長率は5期連続で倍増しており、企業価値評価額は1兆2000億円以上になっているという。
日本法人の設立は2019年2月で、本社直轄のリージョンとなっている。これまでに、ブラザー工業や横河電機、日立システムズ、ミスミ、ソフトバンク、豊田通商、富士通などがCelonisを採用している。
村瀬社長は、2021年12月にCelonisの社長に就任。それ以前は、ServiceNowの社長として、同社の日本市場での成長を牽引。その実績が買われ、日本での成長戦略に手腕を発揮することになる。
すでに、過去3カ月間で社員を倍増。サービスプロバイダー(システムインテグレータ)や通信事業者、製造業、金融業を最初の市場ターゲットにあげ、既存顧客に対しては、社内に新設したCustomer Value Groupによる提案を加速。同組織に所属するCustomer Value ManagerやCustomer Value Architectが、顧客のKPIの設定や、それに向けた取り組み支援などを行う。
さらに、パートナーとの協業体制を強化。グローバルでのTitaniumパートナーであるアクセンチュアやIBM、PlatinumパートナーであるPwCやデロイトトーマツ、グローバルアライアンスパートナーであるEYやKPMGなどのほか、国内では、リセール&デリバリーパートナーとして、アビームコンサルティング、CTC、日立システムズ、クレスコ、トランスコスモス、コベルコシステムが展開。新たにNTTデータが参加することになった。また、国内デリバリーパートナーでは、システムサポートが新たに参加し、国内11社の体制となる。
「国内での戦略的パートナーシップの強化を進め、ジョイントビジネスプランを共同で策定したり、パートナー企業の社内にCelonis事業本部の設置を働きかけたりすることになる」と語る。パートナーにおけるCelonisコンサルタントの育成にも取り組み、現在、400人のCelonisコンサルタント資格者を今年度末までに1000人に増加させる計画だ。
そのほか、ユーザー企業の経営層の情報交換の場として、CxO Clubを設置。定期的な会合を行い、経営の観点からの情報交換の場を提供するほか、CeloUG(Celonisユーザーグループ)を新設し、4月22日には、発足記念全体大会を開催することも発表した。ここではCelonisユーザー同士の情報交換、利用技術の向上、分科会活動などを行うという。KDDIおよびパナソニックが発足時の理事に任命されている。第1回の全体大会では、約100人の参加を予定している。
村瀬社長は「日本の企業が、デジタルツールを導入しても、トランスフォーメーションできないのは、データを使えていないためである。そして、データが使えていない理由は、プロセスマイニングを活用していないからである」と指摘。「Celonisは、プロセスマイニングとData Executionを通じて、人々と社会のパフォーマンスを無限大に開放し、日本企業の競争力強化と持続可能な社会形成に貢献することを、日本におけるミッションに掲げた。DX における最後のピースとして足りなかったのがプロセスマイニング。そして、今年は、日本のData Execution元年になる。日本の企業が、プロセスマイニングとData Executionを通じて、データを使って、業務を自動実行し、自動管理する世界に入っていくことになる。プロセスマイニングとData Executionによって、日本の企業のDXを促進し、持続可能な日本の社会の実現を目指し、日本を元気にしたい」と語る。
プロセスマイニングとData Executionによって、日本の企業のDXを「本物」にすることができるか。Celonisの動きがポイントのひとつになるかもしれない。
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