こうしたアンケート結果を受け、龍谷大学が提唱するのが「片想い上司」と「仮面部下」という呼称である。片想い上司は、「部下を理解したいが、考えていることが分からず、価値観が合わないとあきらめつつも、反応の薄い部下に困惑し、部下に対して“踏み込みづらさ”を感じている」人物像。そして仮面部下は、「ワークライフバランスを重視し、マイペース。反応が薄いと誤解されがちだが、実は気配りの意識は高い。ノリやテンポの合わない上司に“話しづらさ”を感じている」という人物像だ。
“前向きなあきらめ”がコミュニケーションを建設的に
心理学部の水口 政人教授(※2023年度就任予定)は、「組織の良好な関係構築には、良質なコミュニケーションが不可欠です。質を高めるためにまず『人間に対するスタンス』を考えることが大事。性格心理学では、性格は『遺伝』と『環境』によって決まるとされていますが、どちらもいまさら変えようがありません。ですので、相手の言動が『正しい』かどうかを判断するのではなく、『相手がそう発言をするのも必然だ』と『全肯定』するスタンスが大切です。まず『あきらめる』ことで、イライラから解放され、これからの『環境』に目を向けられるのです。『あきらめ』をバージョンアップして、「前向きなあきらめ」にすると見込みがあると言えます(抜粋)」とコメントしている。
要約するなら、相手を正否で判断してストレスを抱えるよりも、前向きに“あきらめる”方が、建設的なコミュニケーションが取れる環境に近づくという考え方だ。ビジネスシーンだけでなく、プライベートシーンにも当てはめられそうなコンセプトである。
「近年の働き方改革、社内教育やメディアの影響もあり、特に上司において『理想の上司像』が刷り込まれている印象を受けます。調査でも、自身が理解する『理想像』を定量で回答し、正直な気持ちが『自由回答』に表れているようです。心理学では『認知的不協和』と言いますが、人は上手くいかないことがあると『自分以外に原因がある』と思いがちです。 本当の気持ちを抑えている組織では、困ったことが起こった時に『上司が〇〇だから、部下が〇〇だから』と、他者や周囲の環境のせいにして、改善も人任せになってしまい、生産性も高まっていきません。
上司も部下もお互いに好意的な状態であると、自己開示をすることが多くなり、心理的安全性が高い組織になるという研究 がたくさんあります。心理的安全性が高い組織は生産性が高まり、結果が出ている組織では構成員の行動や態度も前向きになっていくといった好循環が生まれます。心理学的なアプローチを実践してもらい、上司と部下の関係性が良くなっていくことを期待しています。(抜粋/水口政人教授)
「あきらめる」という言葉にはネガティブな意味合いで捉えられがちだが、「上司・部下と価値観が合わないことをあきらめている」という考えも、実は組織を円滑化する潤滑油になっているとも捉えられる。心理学的なアプローチを日頃のコミュニケーションに取り入れ、片想い上司、仮面部下、それぞれが、“前向きなあきらめ”で、価値観の違いを受け入れることは、心地よい関係性を作るための第一歩なのかもしれない。
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