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スバル初のEV「ソルテラ」はEVになっても得意なもの・価値は同じ!

2022年03月12日 12時00分更新

 スバルのEVである「ソルテラ(SOLTERRA)」のプロトタイプ試乗会へ参加することができました。そこで体験した「ソルテラ」の乗り味や特徴を紹介します。

トヨタとスバルが一つのチームを作って開発

 ソルテラは、スバルとトヨタによる共同開発で生まれたEVです。トヨタ版のEVは「bZ4X」という名称になります。トヨタとスバルは、これまで共同開発を「86」と「BRZ」で行なってきました。「86」「BRZ」のときは、トヨタが商品企画とデザインを、スバルが開発と生産を、というような分業体制でした。それに対して、今回の「ソルテラ」と「bZ4X」は体制が異なります。2社から同じように商品企画、デザイン、設計、実験、生産技術の人員を出して、ひとつの共同開発プロジェクトチームを作り、そこでひとつのチームとしてクルマを開発したそうです。そのため、開発は喧々諤々の議論を経て行なわれたとか。その中から、新たなEV専用のプラットフォームがゼロベースから開発されました。

 「ソルテラ」の寸法は、全長4690×全幅1860×全高1650㎜。車両重量がFWD(前輪駆動車)で1930㎏~、AWDが2020㎏~。最高出力がFWDで150kW(約204馬力)、AWDで160kW(約218馬力)。搭載バッテリーは71.4kWhで、一充電走行距離(WLTCモード)はFWDで530km前後、AWDで460km前後と発表されています。サイズ的には、スバルの「フォレスター」と近いのですけれど、背が低く、SUVクーペ風のデザインとなっています。

 スバルとトヨタの外観の違いは主にフロント周りで、「ソルテラ」はスバル車に共通の六角形(ヘキサゴン)のグリルが備えられています。また、オーバーフェンダーの色が艶消しブラックになっているのも違いです。スバルはトヨタよりも、よりオフロードっぽい意匠が採用されています。

 共同開発されたプラットドームは、フロント部分と真ん中、リヤ部の3分割構造になっており、基本的にフロントとリヤにモーター、真ん中に電池を搭載するようになっています。3分割とすることで、ホイールベースを変更したり、リヤのモーターを省いたFWDにしたりすることが可能となっています。真ん中の電池部分は、水冷の冷却・昇温システムが採用され、電池をベストな状態に保てるように工夫されています。

 また、衝突時の安全性を確保するために非常に強固な構造となっており、それが運動性能にも良い効果を発揮しているとか。先進運転支援システムは、「アイサイト」ではなく、「トヨタ・セーフティ・センスⅢ」を採用。アイサイトではないのは、モーター駆動との相性で言えば、トヨタのシステムの方が経験豊富というのが理由のようです。

“スバルらしさ”が感じられる運転席

 そんな「ソルテラ」ですが、驚いたのは、運転席に座ったときの印象です。なんだか、とても“スバルっぽい”と感じられたのです。実際のところ、インテリア・デザインは、非常に斬新なもの。ステアリングは小さく、メーターはその上に位置します。まるで最近のプジョーのようなレイアウトです。しかも、どういうわけかメーターは、囲いもないのに映り込みもなく、すっきりと見やすいのです。そして、Aピラーが細く、サイドミラーの前、つまりクルマの斜め前の死角が小さく、振り返ったときにクルマの斜めも見やすいようにCピラーの後ろに窓が存在しています。とにかく視界が良いんですね。そして、スバル車の特長のひとつが、この視界の良さにあります。

 また、「ソルテラ」には、ステアリングに回生ブレーキを4段階に調整するパドルシフト、パワートレインの出力を「パワー/ノーマル/エコ」の3つに切り替えるドライブモード、アクセルペダルひとつで停止ギリギリまでコントロールできるSペダル・ドライブ、オフロード走行向けのXモードが備わっています。そして、これらの機能それぞれに、別の物理スイッチが用意されています。簡単に言えば、スイッチが多いんですね。これもある種、スバルっぽい部分です。そして、ヒーターがフロントシートとステアリングだけでなく、後席にも用意されているのも、寒いところが得意なスバルらしい部分ではないでしょうか。

圧巻の雪道での安定・安心した走り

 今回の試乗会のコースは、もともと自転車用に作られたミニサーキットのようなところ。そこに雪が降って、完全に雪に埋もれた周回路が試乗コースとして用意されていました。狭くクネクネと曲がった雪道です。ところが、そんな道でも「ソルテラ」(AWD仕様)を走らせてみれば、まったく怖くもなく、イージーそのもの。アンダーもオーバーも出ずに、狙った通りのラインでコーナーを抜けることができました。速度域が低いため、ドライブモードで「パワー」を選ぶと、すぐに速度オーバーになってしまいます。逆に、4段階の回生ブレーキの調整よりも、さらに強い回生ブレーキが使えるSペダル・ドライブで走ると、さらにコントローラブルに走れます。アクセルを緩めるだけで、4輪による回生ブレーキがしっかりと効くので、その分、前輪に荷重がかかってハンドルの効きもアップ。さらに狙った通りにクルマの向きが変わります。電池を床下に敷き詰めたため、重心が低いため、ロールが小さく、ロールスピードも遅いので、フラットな乗り味となっています。

 また、4輪中の1輪が浮いてしまうようなコブ路面を模したコースも試しましたが、ここも安心感たっぷりで走り抜けることができます。Xモードにすれば、アクセル操作をシステムに任せて、運転手はハンドル操作に集中することもできます。ツルツルに凍ったコブでしたが、それでも「ソルテラ」はいとも簡単にクリアします。

 ちなみに、「ソルテラ」は前輪と後輪は別々のモーターで駆動されています。プロペラシャフトがないため、物理的にはバラバラに動きます。でも、前後がバラバラに動くと、これまであったプロペラシャフトのある四輪駆動車とは、運転したフィーリングが変わってしまいます。そのところを開発者に話を聞いたところ「従来のプロペラシャフト付きの四駆とフィーリングが変わらないように注意しました。前後モーターは、自由度が大きいので、逆に難しいところです」とのこと。もちろん、今回の試乗ではそうした違和感が一切ありませんでした。バラバラに動く前後のモーターを緻密に制御して、前後を上手にシンクロさせているというわけです。

“先進のEV”ではなく“高性能な四輪駆動車”

 今回の試乗は、雪道のクローズドコースという、限定的なシーンでした。ここで感じることができたのは「ソルテラ」のごく一部に限られます。それでも端々に感じられたのは「スバルらしさ」であり、「四輪駆動車としての高い実力」です。それが、視界の良さや多彩な機能と多くのボタン、そして安心感溢れる雪道での走りでした。

 トヨタとスバルが共同開発したEVということで、どれだけ先進的なEVになるのだろうと思っていましたが、乗ってみれば意外や、EVというところではなく、クルマの基本となる四輪駆動車という部分に強い印象を得ることになったのです。もちろん、狭い雪道での試乗ということで、そうした側面が強調されたという理由もあるでしょう。でも、ドライ路面の街中を走るだけでは気づくことのできない、「ソルテラ」の隠れた一面を感じることができたのも、こうしたシーンでの試乗会ならではのこと。万一、大雪に見舞われても「ソルテラ」なら大丈夫ということ。これも他のスバル車に共通する部分ではないでしょうか。

 結局、EVを作ってもスバルはスバルということ。この強い個性がスバリストという熱狂的なファンを生む理由なのでしょうね。

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筆者紹介:鈴木ケンイチ

 

 1966年9月15日生まれ。茨城県出身。国学院大学卒。大学卒業後に一般誌/女性誌/PR誌/書籍を制作する編集プロダクションに勤務。28歳で独立。徐々に自動車関連のフィールドへ。2003年にJAF公式戦ワンメイクレース(マツダ・ロードスター・パーティレース)に参戦。新車紹介から人物取材、メカニカルなレポートまで幅広く対応。見えにくい、エンジニアリングやコンセプト、魅力などを“分かりやすく”“深く”説明することをモットーにする。

 最近は新技術や環境関係に注目。年間3~4回の海外モーターショー取材を実施。毎月1回のSA/PAの食べ歩き取材を10年ほど継続中。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員 自動車技術会会員 環境社会検定試験(ECO検定)。


 
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