IPv6に起因するゲーム・エンタメ分野での課題について、さまざまな立場で議論してきたワーキンググループ(以下、WG)が、JAIPAの「ゲーム・エンタメNW接続性課題検討WG」になる。主査の松本昇氏(JAIPA理事/シーエスファーム)、副主査の川島正伸氏(NECプラットフォームズ)、佐藤元彦氏(コナミデジタルエンタテインメント)の3人にこれまでの活動やIPv6マイグレーションの問題点について聞いた(以下、敬称略、インタビュアー ASCII編集部 大谷イビサ)。
インターネットの課題は多くの人たちを巻き込まないと解決できない
大谷:まずは主査の松本さんからWG発足の経緯について教えてください。
松本:今回紹介するゲーム・エンタメNW接続性課題検討WGが発足する前の話ですが、とあるルーターメーカーから「ISPで使う用語が各社バラバラで困っている」というお声がJAIPAにあり、JAIPAとしてWGを発足させて、ISPとルーターメーカーで利用する用語を統一したということがありました。WGとしては提言も済ませたのですが、発起人から「この有意義なWG、もう少し続けたいよね」というお話があり、ゲームの分野に進みました。
というのも、2019年当時、IPv6のインターネットでゲームをプレイしている途中に切れてしまうとか、そもそもオンラインプレイに参加できないとか、プレイの遅延が発生するといった事態が起こっていました。決して多くはないのですが、なぜこういうことが起こるのか解明したいという話になり、JAIPAで有志をつのって10人くらいでWGを始めました。これが「ゲーム・エンタメNW接続性課題検討WG」になります。
当時、私はISPのグループに所属していましたが、インターネットの課題ってISPだけでなく、ルーターやコンテンツ、ゲームなどの会社を幅広く巻き込まなければ解決できない。そのためJAIPAの理事会にはかって、今も正式な横断WGとして活動しています。
大谷:続いてルーターベンダーとして参加したNECプラットフォームズの川島さん、WGに参加した経緯を教えてください。
川島:はい。IPv6へのマイグレーション技術であるMAP-EやDS-Liteの普及とともに、IPv4インターネットの劣化はずっと気になっていました。弊社(NECプラットフォームズ)のサポートセンターにもゲームに限らず、IPv6マイグレーション技術を用いた通信の劣化という問題が散見されるようになっていました。ゴールはもちろんフルIPv6化なんですが、IPv6マイグレーション技術を用いたIPv4とIPv6の共存環境でも何かできることないかな?と考えていたところでした。
長らく標準化に関わってきた立場からすると、IPv6マイグレーション技術の普及によってIPv4が劣化することはわかっていました。技術的にはIPv6マイグレーション技術は根本的な解決策ではなはありませんので、最終的にはIPv6に移行してくれと言うしかないんです。だから、最初はIPv6に早く移行するにはどうしたらよいかを議論したいという思いがありました。
大谷:社内だけでは難しい議論ですね。
川島:もちろん、ルーターベンダーとして、ISPやゲームメーカーとはやりとりはしていました。でも、あくまで各社とは個別の情報交換だったので、オープンな場でみなさんとディスカッションできるこのWGはとてもありがたかったです。
大谷:同じく副主査の佐藤さんはコナミというゲーム会社の立場ですね。
佐藤:はい。弊社はゲーム会社としてその年に発売されたルーターを購入したり、借りたりして、自社のゲームの動作を検証しています。また、ネットワークの遅延やNATタイプなどを検出し、ある程度品質の低い環境でもプレイできるようにするようにも努力しています。
ただ、ゲームの実装でなんとかできるのであれば快適なゲームのためにがんばりますが、ネットワークプレイの場合、インターネット自体に起因することも多い。個別の問い合わせに対して、この場合はインターネット接続の契約自体を変えてくださいと言うしかない状況もありました。
大谷:確かにゲームメーカーとしてはいかんともしがたいですね。
佐藤:マイグレーション技術での不具合がこの数年で増えていたことも確かだったんです。われわれもゲームを構成するピアツーピアのやりとりなどはログで見てはいるのですが、IPv6アドレスが増え、マイグレーションのような共存技術が使われるようになって、ネットワークがどう変化したのかも把握していませんでした。もちろんISPやルーターがどういう挙動をしているかも正直ブラックボックスです。こうした情報を知るために、いろいろな方と情報交換をしたいなとは以前から思っていました。
ゲームではこういう実装になっているけど、ISPやルーターではどう処理しているか。こうした情報をお互い持ち寄ることで、よりよいゲームプレイにつながるといいなあと思ったところに、松本さんからお誘いがあったので、参加させてもらいました。LINEが会場だったイベントでたまたま松本さんとお会いして、名刺交換したのがきっかけです。
松本:私が佐藤さんにいきなりメールして参加をお願いしたんですよね。
佐藤:はい(笑)。
週刊アスキーの最新情報を購読しよう