オープンイノベーションの面白さ
難しさが詰めこまれた1時間のセッション
アスキーは2021年11月19日(金)、ビジネスカンファレンスイベント「IoT H/W BIZ DAY 2021」内にて、JOIC協力セッション「フロントランナーが語るオープンイノベーションの次世代フェーズ」をオンラインで配信。株式会社InnoProviZation 代表取締役社長 残間光太郎氏をモデレーターとして、富士フイルムホールディングス株式会社 Open Innovation Hub館長 小島健嗣氏(登壇時)、東急株式会社 フューチャー・デザイン・ラボ 課長補佐 福井崇博氏(登壇時)がオープンイノベーションの成功ノウハウや今後のあるべき姿、次世代フェーズに必要なポイントを熱く語り合った。
「イノベーションは面白い」
生き生きとしたフロントランナーたち
東急株式会社は「東急アライアンスプラットフォーム(TAP)」という取り組みを行っている。コンセプトは「共に、世界が憧れる街づくりを」。2015年に「東急アクセラレートプログラム」として活動を開始し、東急グループの幅広い事業領域を生かしてPoCや事業共創を行ってきた。2018年からアクセラレートプログラムからの進化を図り、随時時応募を受け付けて毎月選考を実施。検討が整い次第随時PoCを行なうことで、事業共創の質と速度を向上させている。サービスのプロタイプを持った企業であれば、上場企業でも対応可能なのが特徴の一つであり、24時間365日応募受付中とのことだ。
「東急グループの誰もがオープンイノベーションという選択肢を持って実行できる状態を作る事によって、スタートアップや事業共創の機会を最大化していくことを目指している」と福井氏は話し、一過性のものではなく真の意味でオープンイノベーションが定着した企業グループを目指している。
残間氏は、バリューチェーンリストを作成することで、事業部でのニーズをナイストゥーハブからマストハブにシフトする取り組みに注目し、「(オープンイノベーションを成功させるためには)自分達の強みと他社の強みを掛け合わせる必要がある。バリューチェーンリストで洗い出しをした後、どのようにうまく外の人を見つけて組み合わせているのか?」と質問した。
その答えとして、「(中の人間に関しては)バリューチェーンリストの作成だけでなく、何が優先なのかを把握することと、優先課題を教えてもらえる信頼関係を普段から作ることが必要」と福井氏は話す。「大企業では、何を言うかよりも誰が言うかが大事」と、少しずつでも事業部の役に立ち、大事な話をしてもらうことができる関係性の構築が重要だと説いた。
外部に向けては、「自分達に相談すれば、効率よく効果的に検討ができるのだという認知が必要。上手くいかなかった時も丁寧にフィードバックを行なう」と話し、そのような往復運動を繰り返すことによって成功する事例が生まれるようになったと自らの経験を振り返った。
それと同時に「仕組みだけを作って待っているだけでは駄目」と福井氏。「優れたスタートアップに大企業が選ばれる時代に突入している。優先すべきものは自分から取りにいく必要がある」と話した。
富士フイルムはもともと、映画のフィルムを国産化するために作られた会社であった。しかしフィルムカメラと映画フィルムの衰退に伴い、社名から「写真」を取り第2の創業を行なうことになる。デジタルカメラやスマートフォンなどの台頭によって、一般の人はわざわざカメラやフィルムを買う事が少なくなり、フィルムの需要は数パーセントにまで下がった。
こうして主力事業が無くなってしまい、企業として存続するためには新しい事業を起こさねばならない状況に直面する。 「社会課題に対して自分達がどう貢献できるのか、考えざるを得なくなった」と小島氏は振り返る。自分達の強みは何なのかを考えて技術を棚おろしし、12個のコア技術を定義した。その強みを生かしてコラボレーティブなイノベーションを試みている。 「新しい価値を、ワクワクするような仕組みで色々な人と一緒にやっていきたい」と、生き生きとした表情で語った。
残間氏は実際に共創を行なった事例に対し、「どのように外部の人達と出会い、組み合わせていったのか。想定を超えている出会いのように思える」と話すと、小島氏は「それが面白いんです!」と笑顔を見せた。 「最初は付き合いのある会社のCTOクラスを呼び、社外の講演会などで出会うことからスタートした」と小島氏。しかし、すぐに短期的な成果を上げることは難しいケースが多かった。
そこでまず既存事業の顧客を呼ぶようになり、それだけでも新しいアイディアのヒントを得られるようになったという。そして講演会社内外へのアピールなどを重ねていくにつれて新たな出会いが産まれ、ヤマハ発動機など全く付き合いのなかった業界・業種の会社も積極的に呼ぶようになり、もともと業界内でも付き合いのあった、一部事業では競合関係にある会社とも共創を行なうようになっていった。
「それぞれのやり方で仮説を立てていくが、仮説通りにいかない時もある。全く知らない事を教えてもらえることが醍醐味だ。世の中にないものを提供できる面白さは、皆が味わって欲しい」小島氏は熱く語った。残間氏は「思いもよらない事に出会えるのはとても大事」だとうなずき、福井氏も「オープンイノベーションは楽しい」と賛同した。
「応援する文化」が大事
社内の理解を深める重要性とは
残間氏は「既存の顧客と共創してくためには、事業部の理解を得る必要がある」と話す。
「事業部にとって『やってよかった』という経験をしてもらわないと続かない」と福井氏は述べる。「事業部の課題を把握した上で、事業部の担当者に『これは必要だ』と思ってもらえる事が重要」と認識した上で、成果発表会で事業部の担当者に登壇してもらうなど、スポットライトを当てる仕組み作りを行なっている。
イノベーション案件は中長期的な視点で見るものがほとんどで、小島氏は「新規ビジネスを創る事は時間がかかる。すぐに成果がでないことは課題の1つでもあるので、既存の事業にも役立ててもらう。短期的な成果と中長期的な可能性の両輪を経営層に説明していくことが大事」と訴えた。 残間氏の「時間がかかるというが、どれくらい辛抱したのか」という質問に対して、小島氏は「いまだに辛抱している」と苦笑。社会課題を解決する事が目標だが、やはりこれも時間がかかる。「世の中にある課題を解決しようとしている所に入っていき、それを翻訳して社内の事業にどう役立つかをストーリー化していきたい」と語り、「社会課題の翻訳役を目指す」と宣言した。
TAPの目標にある通り福井氏は「グループの誰もがオープンイノベーションをできるようにしていく」宣言をしている。「コロナ禍でコミュニケーションの仕方が変わって来たのはチャンス」だと話し、ピッチ動画を録画して公開するなどTAP参画メンバーだけにとどまらず、事業共創機会を増やす活動をしている。 「いきなりグループ全員ができるようにはならない。既にやっている人を見つけてスポットライトを当て、やりたい人を支援していく」と、こういった活動がある事を社内に周知する必要性を示した。
反して小島氏は「全員がイノベーターになる必要はない」と持論を展開した上で「イノベーションを起こすのは常に必要だと言う意識は全員が持つ必要がある」と訴えた。
スタートアップ向け
オープンイノベーション成功の秘訣
ここまでは大企業向の話がメインであったが、スタートアップ向けの話に移る。 オープンイノベーション成功の秘訣について小島氏は「大企業はアセットが沢山あるのに気付けない。スタートアップから見ると大企業は宝の山だが、そういったものがあると知らなかったという話も聞く」と述べた上でお互いが狭い専門性の中で物事を見ていると指摘。
「大企業には近付きにくいかもしれないが、僕たち(大企業側)としては使ってもらいたいと思っている」と接点を増やしていくことが重要だと小島氏。自身が館長を務めるOpen Innovation Hubを紹介し、他のコミュニティに入って行く必要性を訴えた。
福井氏は大企業とうまく物事を進めるコツとして大企業とスタートアップは時間の感覚が異なることに触れ「細かいコミュニケーション一つとっても、例えば、いつまでに返事をもらえるのかを聞いた方がいい。イノベーションの機会を創る前提はオペレーションで成り立っている。着実なオペレーション遂行を」と具体的なアドバイスを贈り、これには他のメンバーも大きくうなずいた。
オープンイノベーションを「企業のOS」に
「オープンイノベーションを行なうことは当たり前になってきているが、これからはどうなっていくべきか」という残間氏の問いかけに対して「自分の利益ではなく、課題を解決しあうためにお互いがリスペクトし合うことが大事」と小島氏は語り、「社会課題を解決する方向へ向かいたい」と希望を話した。 福井氏は「まだ当たり前ではない。オープンイノベーション担当以外でも、当たり前に選択肢に入る=企業のOSとして備わっている所が生き残っていく」と自社の当り前化フェーズに触れながら展望を語った。
セッションの最後に、イノベーターに向けたメッセージが送られた。小島氏は「好奇心を持ち、一人ではなく色々な人を巻きこんで行いましょう」と激励。福井氏は「この業界は色々な人がGIVEし合う所がいい文化。一緒に高め合いましょう」と呼びかけて、セッションは終了した。
オープンイノベーションのヒントが沢山見受けられた今回のセッション。フロントランナーの生き生きとした表情が印象的だった。オープンイノベーションのこれからに期待していきたい。
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