開発者一人ひとりの成長を支援する、ARSプログラムとMicrosoft MVPアワード
「Azure Rock Star」って何だ? 技術コミュニティと向き合うマイクロソフトの2人にじっくり聞いた
日本マイクロソフトが、「Microsoft Azure」関連の技術コミュニティを支援する「Azure Rock Starプログラム」の取り組みを進めている。現在は全国15のコミュニティが参加しており、その顔ぶれも初心者向けコミュニティから、AI、IoTなどの技術特化コミュニティ、ビジネスコミュニティまで多彩だ。
同社が開発者のコミュニティ活動を支援するプログラムとしては、ほかにも「Microsoft MVPアワードプログラム」がある。こちらは開発者個人の技術コミュニティに対する貢献を表彰するもので、国内で現在およそ190名のMVP受賞者がいる。
これらの支援プログラムを通じて、マイクロソフトは開発者や技術コミュニティとどう向き合っているのだろうか。今回はプログラムを担当する2人に、マイクロソフトとしての想いをじっくり聞いてみた。
技術コミュニティの活動を支援する「Azure Rock Starプログラム」とは
Azure Rock Starプログラム(以下、ARS)は、マイクロソフトが2020年6月から展開しているコミュニティ支援プログラムだ。「技術コミュニティで、300名以上のメンバーがいること」「Azureやマイクロソフト テクノロジーのトピックを取り扱っていること」など、いくつかの要件を満たしたコミュニティが参加できる。
ARSに参加した技術コミュニティには、その活動を盛り上げるためのさまざまな支援策が提供される。たとえば、マイクロソフト公式YouTubeチャンネル「クラウドデベロッパーちゃんねる 」を使ったイベント配信、公式Twitterアカウント(@msdevjp)による情報発信支援、全国展開するイベントスペース「Microsoft Base」の優先利用などだ。
こうした各種支援策は、直接コミュニティの声を聞きながら柔軟に検討し、提供していると小田祥平氏は説明する。
「ARSのローンチ(2020年6月)は、ちょうど日本でCOVID-19が流行り始めた時期に重なってしまいました。それまでオフラインでやってきたイベントが開催できず、コミュニティの皆さんも混乱していたので、『配信支援』や『配信ノウハウ提供』といったオンラインイベントの支援策を追加しました。結果的に、多くのサポートが必要なタイミングでそれを提供することができ、コミュニティの皆さんにもうまく使っていただけるものになったと思います」(小田氏)
また参加コミュニティ間の横のつながり、オーガナイザー(主催者)どうしの交流も積極的に支援している。キックオフ会やSlackチャンネルでコミュニティ間の情報交換や意見交流が行われ、ARSをハブとしてお互いのイベントに登壇するといった取り組みも進みつつあるという。
コミュニティを通じて「開発者一人ひとりの成長を支援する」
マイクロソフトでは、ARSを含む開発者支援の取り組みで「開発者として純粋にスキルアップしたい、成長したいと考える個人を支援すること」を目指している。あくまでも「開発者個人」が主役だ。
ただし、マイクロソフトからダイレクトに接点を持てる開発者はどうしても数が限られる。小田氏も「マイクロソフトから見えていない、手が届いていない範囲にも、たくさんの開発者がいます」と語り、開発者個人を直接支援するプログラムのかたちではスケールしないと指摘する。
そこでARSでは、コミュニティ経由で間接的に開発者個人を支援するかたちをとった。それでも、最終的な目標は「参加する開発者一人ひとりの成長」だという。
「まずはコミュニティを通じて、たくさんの開発者と一緒に学び、一緒に楽しんでいく。その中で情報を発信する側にも周り、知識のインプットとアウトプットのサイクルを回すことで、開発者として成長していく――。われわれはARSを通じて、その手助けをすることに取り組んでいます」(小田氏)
ARSには、コミュニティに参加したいと考える開発者が自分の興味や目的に合ったコミュニティを探しやすくする役割もある。マイクロソフトでは非常に多くの製品を提供しており、それぞれに技術コミュニティが存在するため迷ってしまいがちだ。「『まずはここから探してみては?』とアドバイスできるような、コミュニティの一覧があるといいなと考えていました」(小田氏)。
ちなみにARSの立ち上げ前には、マイクロソフトが直接コミュニティを運営するというアイデアも出た。しかし「それはコミュニティの自発性を損なう可能性がある」と小田氏が強く拒否し、そのかたちをとることはなかった。
「わたし自身も、コミュニティに参加するときはマイクロソフト社員の立場ではなく、純粋に一技術者として話を聞きたい、登壇したいと考えています。コミュニティのオーガナイザーの方からご相談いただくときも、まずはコミュニティの一人として支援を考え、そのうえで『マイクロソフトとしてはこういう支援もできます』とお話しするようにしていますね」(小田氏)
ARSという枠組みの外でも技術コミュニティや開発者を支援する
小田氏のもとには日々、さまざまなオーガナイザーからコミュニティ運営についての相談が寄せられる。ARS参加コミュニティに限らず、まだARSの参加要件を満たしていないコミュニティからの相談も多いという。そうした相談にもしっかりと耳を傾け、なにかアドバイスや支援ができないかを探っている。
「どんなコミュニティでも、オーガナイザーの方には『学びたい、楽しみたい、成長したい』という強いモチベーションがあります。ARSに参加しているかどうかで線引きをするのではなく、ひとまず直接お話を聞いて、できるところからご一緒していく。そういうスタンスをとっています」(小田氏)
そのため、ARSの参加要件を満たしているか、ARSへの参加を希望するかどうかにかかわらず、技術コミュニティ運営の困りごとがあれば「気軽にARS事務局まで相談してほしい」と小田氏は呼びかける。
なおARS以外の取り組みとして、YouTubeのクラウドデベロッパーちゃんねるや公式Twitterアカウントなどを使った情報発信も積極的に行っている。「YouTubeでは各コミュニティのイベント配信も行っており、コミュニティ参加前にその雰囲気を知ることができるので、参加に興味のある方にはぜひアクセスしてください」(小田氏)。
Microsoft MVPは目標ではなく「結果として」受賞するもの
続いてMicrosoft MVPアワードプログラム(以下、Microsoft MVP)について、同プログラム担当の森口理絵氏に話を聞いてみよう。
Microsoft MVPアワードは米国で1993年にスタートし、日本でも2000年代前半から展開されてきた、長い歴史を持つプログラムだ。現在はMicrosoft Azureをはじめ、開発系やIT技術者向けの製品やサービスを幅広く網羅する11のマイクロソフト製品技術カテゴリで構成されており、日本にはおよそ190名のMicrosoft MVP受賞者がいる。受賞者には各種製品のサブスクリプションのほか、製品グループとの交流機会、マイクロソフトのイベントでの登壇機会などが提供される。
同プログラムがユニークなのは、「技術コミュニティに良い影響を与えるコミュニティリーダー個人の貢献」に対し、マイクロソフトからの感謝を示すために授与される点だ。一般的な技術認定資格とは異なり、過去1年間の「コミュニティにおける活動内容」が評価対象となる。
「評価で大切にしているポイントは3つです。まずはコミュニティ運営やイベント登壇、書籍やブログの執筆といった『ユーザー目線での実践的な技術情報の発信』。製品やサービスの利用経験に基づく『改善のヒントとなるフィードバックの提供』。そして、多種多様な方がより多くのことをできるようなより良いコミュニティづくりを目指し、こうした技術コミュニティへの貢献を『継続的かつオープンな活動』として行っていることです」(森口氏)
実際にどんな人がMicrosoft MVPを受賞しているのだろうか。森口氏に尋ねると「Microsoft MVPになることが目標ではなく、“結果として”Microsoft MVPになる方が多い」という答えだった。
「自分の好きなこと、好きな技術をみんなに知ってほしいというモチベーションで活動している方、“熱量の高い”方が、周囲に推薦されて受賞するケースが多いですね。Microsoft MVPをゴールと考えるというよりは、好奇心を持って積極的に技術を学んだり、それを他の方に伝えたりすることに楽しさとやりがいを感じられている方が多いです」(森口氏)
新たなMicrosoft MVPの輪を広げていくための取り組み
Microsoft MVPへのエントリーには、現役のMVP受賞者またはマイクロソフト社員からの推薦(他薦)が必要だ。しかし、あらゆるイベントがオンラインに移行してしまった現在、そうした人と新たに出会える機会は少なくなってしまった。そこで現在は森口氏自身が直接、エントリーを考える人の相談に乗っている。昨年は森口氏に直接連絡をとり、アドバイスを受けてMicrosoft MVPを受賞した人もいたという。
「イベント登壇時のスライドに連絡先を入れて、Microsoft MVPに興味がある方はわたしに直接ご相談いただけるようにしています。現在の活動内容をうかがって今後の受賞につながるようアドバイスをしたり、周囲に推薦してくれる人がいなければ近くで活動するMVPの方につないだりすることもあります」(森口氏)
コロナ禍以前はオフラインで開催していた受賞者どうしの交流の場も、現在はオンラインでほぼ毎月行っている。それぞれが開催しているコミュニティイベントについての情報交換、最新技術に関するライトニングトーク(LT)など、「日本のMicrosoft MVPコミュニティ」としてのつながりが保てるように工夫している。
また、新たにMicrosoft MVPを受賞した人とはオンラインで1対1の面談も行っているという。
「この2年間で新たにMicrosoft MVPになられた方は、ほかの受賞者と知り合いになる機会が少ないため、プログラムの内容や特典がよくわからないというケースもあります。またわたし自身も、直接(オフラインで)対面してどんな方なのか、どんな活動をされているのかを詳しく知る機会が持てていないので、カジュアルにお話できるオンラインの場を設けるようにしました」(森口氏)
技術を学ぶことは「楽しい」と多くの人に気づいてもらいたい
小田氏と同じように森口氏も、コミュニティ活動では「同じ技術が好きな人たちとつながり、一緒に楽しみ、共に学んで成長を目指すこと」が何よりも大切だと考えている。「Microsoft MVPだけがすばらしい、というわけではありません。コミュニティで活動される方それぞれにさまざまなコミュニティの楽しみ方がある中で、他のコミュニティリーダーやマイクロソフトとさらに活動を行っていただきたいと思っていただける方には、Microsoft MVPご受賞を選択肢のひとつと捉えていただけたらいいですね」(森口氏)。
ARSとMicrosoft MVPはそれぞれ独立したプログラムだが、実際のARS参加コミュニティではMVP受賞者も多く活躍している。森口氏は「あらゆる人に『AzureコミュニティにはARSがあるぞ!』と認知される存在になってほしい」とARSへの期待を語る。
「Azureコミュニティに興味を持つ開発者が、ARSのサイトで新たなコミュニティを知って参加する。やがては情報発信する側に回り、継続的にコミュニティ活動を楽しんでいく。そして、そのかたわらにはいつもARSがある――。Azureをお使いいただく方の学びを支える存在になることを期待しています」(森口氏)
さらに森口氏は、ARSの役割として「コミュニティとは何か?」を見せていくこともあるのではないか、と指摘した。
「まだコミュニティに参加していない方に、技術コミュニティとはこういうところだよ、こういう魅力があるよ、と伝えることもできるのではないでしょうか。たとえば『参加者の多様性』。年齢や性別を問わず、企業にお勤めの方からフリーランスの方、学生の方と、いろいろなバックグラウンドを持つ人が参加することで、もっと幅広い視点から学べる場になります。ARSを通じてそうした可能性を見せて、いろいろな方に興味を持っていただけるとよいですね」(森口氏)
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今回のインタビュー中、小田氏、森口氏からは繰り返し「一緒に楽しむこと」というキーワードが語られた。まずは技術コミュニティの一員として楽しむことで、コミュニティ活動の継続や改善につながり、さらには開発者個人としても成長していくことができる。つまり、すべてのスタートには「楽しむ」という姿勢がある。
「『技術を楽しく学び、楽しくアウトプットして、開発者として一緒に成長していこう』――。われわれの取り組みは本当に、それだけを考えてやっています」(小田氏)
(提供:日本マイクロソフト)
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