ソニーとLIXILのオープンイノベーション事例
「DOAC」の事例で知る、新鮮なコンセプトの商品を社会実装させるための企業コラボ
この記事は、民間事業者の「オープンイノベーション」の取り組みを推進する、オープンイノベーション・ベンチャー創造協議会(JOIC)との連動企画です。
社外からの技術やノウハウを取り入れ、イノベーティヴなビジネスを創出しようとするコンセプトを「オープンイノベーション」と呼ぶ。
国内でも、大手企業とスタートアップ企業、大手企業同士、企業と大学などの研究機関が組織の枠を超えて連携することで、革新的なプロダクトやサービスが登場する機会が増えてきた。また、アクセラレーションプログラムなどを通じて、協業先の企業や研究チームを発掘しようとする動きも、近年盛んだ。
本連載では、編集部が独自に取材を進めた内容を元に、大手企業のオープンイノベーションに関する取り組みを紹介していく。
LIXILの「DOAC」は、自宅の玄関ドアに取り付けるだけで、自動ドアにできる新しいバリアフリーシステムだ。
スマートフォンやリモコンによる自動開閉に加えて、ドアを軽く押すと自動で開くオートアシスト機能やドアが閉まると自動的に施錠するオートロック機能を備える。
DOACは、ドアノブとクローザー/テンショナーを交換する形式で設置でき、リモコンによる施解錠、開閉を可能にする。ドアが閉まると自動的に施錠するオートロック機能や、リモコンを使わなくても、ドアを軽く押すことでドアが自動で開くオートアシスト機能を備える。
そんなDOACは、住宅設備の大手企業として知られるLIXILがソニーによるスタートアップ創出と事業運営を支援するプログラム「Sony Startup Acceleration Program」のサポートを受けて生まれた製品だ。ソニーと組んで事業開発した狙いはどこにあるのか。株式会社LIXIL ビジネスインキュベーションセンターの今泉 剛氏、大澤 知自氏、ソニーグループ株式会社 Startup Acceleration部門 Open Innovation & Collaboration部小澤 信夫氏に話を聞いた。
――まず、この2社のコラボレーションが実現した経緯を教えてください。
小澤「ソニーでは『Sony Startup Acceleration Program』というスタートアップの創出と事業運営を支援するプロジェクトを2014年に立ち上げています。もともとは社内の新規事業創出のために開始したプログラムですが、2018年からは、社外の新規事業創出も支援する枠組みに進化しました。LIXILさんとは、このSony Startup Acceleration Programをきっかけに、お付き合いがスタートしました」
大澤「LIXILは、2011年に大手住宅設備メーカー5社が統合して生まれた企業です。これまで様々なパートナー企業と協業する機会はありましたが、あくまで既存事業を主体としたモノづくり中心の取り組みでした。一方、DOACの開発は新たな顧客を見つけ出すマーケティングからスタートしており、モノづくりだけではなく、事業開発につなげる目的でソニーさんの新規事業支援プログラムに参加しました」
――なぜ新たな顧客を見つける必要があったのですか?
今泉「LIXILの事業は、住宅建築時に必要な資材や設備を工務店等に卸すことで成り立っています。新築時は工務店の設計士の方が製品を選定してくれますが、リフォームになると、製品を選択するのはユーザーに変わります。今後、新築着工が大きく減少すると予測される中、リフォーム需要の掘り起こしは当社が成長する鍵になると考えています」
――なるほど。ユーザーが主導権を持つリフォーム事業を想定した製品なのですね。
大澤「LIXILでは2019年4月に新規事業開発を目的とした『ビジネスインキュベーションセンター』を立ち上げました。ビジネスインキュベーションセンターは、新たな事業のタネを見つけ、育てていくことをミッションとした組織で、今回のDOACは同センターから生まれた初めての製品です」
今泉「従来、玄関をバリアフリーにリフォームするには、引き戸へ交換する以外に選択肢がなく、いざ交換しようとすると建築に制約があって不可能だったり、大掛かりな工事が必要になったりと、実際には断念せざる得ないケースが多くありました。DOACは、今の玄関ドアや鍵はそのままで、ドア内側のサムターン(つまみ)と上部のクローザーを交換するだけで簡単に設置ができ、リモコンやスマートフォンを使って鍵の操作からドアの開閉までを自動にできる新しいリフォーム製品です」
――このコラボレーションは、製品の構想から共同で開発するかたちでの協業ですか?
小澤「商品そのものの仕組みや構造はLIXILさんが主体となって開発しています。私たちのしてきたことは、『伴走支援』です。具体的に言うと、私たちがDOACのプロジェクトに参加させていただいた段階では、『ドアを自動で開けよう』という部分まではできあがっていても、『開けることで、誰の課題がどのように解決できるのか』がクリアになっていなかったような印象を受けたのです」
――そこを、ソニーがサポートしたというイメージですね。
今泉「潜在的な顧客をどうやって見つけ、どのようにアプローチするか。特にエンドユーザーに向けたクリエイティブ準備やプロモーションなど、マーケティングのノウハウを中心にサポートしていただきました。製品を開発できたとしても、ビジネス化するためには、誰にどうやって届けるかという視点が大切です。そうした、コミュニケーションデザインの部分で、ソニーさんの支援には大変感謝しています」
小澤「初めの段階でその部分を整理しておかないと、『このコンセプトいいね。商品化しましょうか。せっかくいい物を作ったのに、なぜか売れません』。こういったことが起こり得ます。顧客か、商品やサービスのいずれかを軸にして、ピボット(※顧客のニーズにどの商品・サービスが響くか?どのような顧客に響くのか?を繰り返し検証していく)しながら、ターゲット層を見極めていく考え方が必要です」
――ゼロから新しいものを作って、そのターゲット層を見つけていくという作業には、非常に難しそうな印象を受けます。
今泉「ソニーさんのサポートの中でも、一番記憶に残っているのが、ユーザーインタビューのプロセスを大事にしていることです。まず、こうした商品に興味を持って実際に購入してくれそうなアーリーアダプター層を見つけ出した上で、何度もコミュニケーションをとりながら、潜在的に市場にどういったニーズがあるかをはっきりさせるんです」
大澤「インタビューを通じ『高齢になり身体機能の衰えから外出に不安を感じている、身体的なハンディキャップを持っている、子育て中でベビーカーを毎日使っている』など、様々なユーザーが具体的にどんな課題を抱え、DOACがそれをどのように解決するのか?というシーンがとてもリアルに感じられるようになりました」
――いわば、優れた製品の社会実装を加速させるための、オープンイノベーションですね。
今泉「ソニーさんのような、社外新規事業の立ち上げを何度もサポートしてきた企業に伴走していただけたことは担当者として大変心強く感じました。一緒に製品を見てもらいながら可能性を見出し、何度も『仮説検証を繰り返す』という段階を踏み、『新しい価値を生み出す』ことにチームで向かい合ってきた結果、DOACが生まれたと思います」
――本日はありがとうございました。
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