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京浜急行電鉄のオープンイノベーション事例

街中に「空の駅」を。京浜急行電鉄がAirXとの協業で目指す世界

2022年02月28日 11時00分更新

 この記事は、民間事業者の「オープンイノベーション」の取り組みを推進する、オープンイノベーション・ベンチャー創造協議会(JOIC)との連動企画です。

 社外からの技術やノウハウを取り入れ、イノベーティヴなビジネスを創出しようとするコンセプトを「オープンイノベーション」と呼ぶ。

 国内でも、大手企業とスタートアップ企業、大手企業同士、企業と大学などの研究機関が組織の枠を超えて連携することで、革新的なプロダクトやサービスが登場する機会が増えてきた。また、アクセラレーションプログラムなどを通じて、協業先の企業や研究チームを発掘しようとする動きも、近年盛んだ。

 本連載では、編集部が独自に取材を進めた内容を元に、大手企業のオープンイノベーションに関する取り組みを紹介していく。


 京浜急行電鉄株式会社では、2017年から事業共創プログラム「KEIKYU ACCELERATOR PROGRAM」を実施している。

 ヒトやモノの移動="モビリティ"は、AI、IoT、5G、VRといったテクノロジーの進化と、それに伴う人々の価値観の変化に伴い、大きな転換期を迎えています。

 これまで100年以上にわたり、人々の生活を支える移動インフラを中心にビジネスを展開している鉄道会社のビジネスにも、いま既存の枠を超えたイノベーションが求められています。

 私たちは、こうした変革の最前線で、スタートアップなどの外部パートナーとのオープンイノベーションを推進し、リアルとテクノロジーの融合による移動"手段"のアップデート、そして、その"目的"となる多彩な顧客体験を生み出すことを目指しています。(KEIKYU ACCELERATOR PROGRAM公式サイトより抜粋)

 その取り組みの中で、同社は昨年10月、株式会社AirXとの資本業務を発表している。創業120年を超える老舗鉄道会社と、空のモビリティーに関するソリューションを開発するスタートアップ企業のコラボレーションは、いかにして実現したのか。

 その経緯と今後の展開について、京浜急行電鉄株式会社 広報・マーケティング室 事業共創担当の羽根 一貴氏(以下、略敬称)と、株式会社AirX 執行役員/事業開発本部の藤園 光英氏(以下、本文略敬称)に話をきいた。

――京急電鉄とAirXは、10月に資本業務提携を発表しています。どのようなきっかけで締結に至ったのか、教えてください。

羽根「京浜急行電鉄では、2018年、2019年、2020年と、3年連続で『KEIKYU ACCELERATOR PROGRAM(京急アクセラレータープログラム)』というアクセラレーションプログラムを実施していました。

 このプログラムは、スタートアップ企業との事業共創を目指す取り組みです。ですが、これまでは採択企業との実証実験をするといった展開にとどまっており、本格的な事業化には至っていなかったのです。せっかく作ったスタートアップ企業とのつながりを、きちんと事業化に結びつけようという話が持ち上がり、2021年度は、これまでに関わりを持てたスタートアップ企業との関係性をじっくりと強化していく期間と捉え、協業を進めました。そのうちの一社が、AirXさんです」

――AirXとの協業で、ヘリコプターの遊覧飛行を実施することが明かされています。この取り組みは、どのような意味合いを含むものでしょうか。

羽根「AirXさんとの協業を進めた大きな理由は、ドローンや、eVTOLといったモビリティー市場が、これから伸びていくだろうと考えたことです。三浦半島というリゾートスポットの付近を、京急の鉄道が走っていますが、空の便という新たな輸送手段を取り入れることで、『空を身近に感じてもらう』という新たな価値を提供できるのではないかと考えました」

――AirXさんは、今回の資本業務提携に関して、どのような感想をお持ちでしょうか。

藤園「何度も打ち合わせなどを重ねていますが、京浜急行電鉄の担当者さんは、毎回真摯に対応してくださっていて、安心して協業を進めることができています。会社としてのメリットという意味では、これまで、事業が進むスピードに悩む機会が多かったのですが、京浜急行電鉄さんのサポートが入ったことで、事業を展開させるスピードが上がったという実感を持っています」

――電車に乗るように、気軽にヘリコプターに乗れるような社会を作り上げるという構想があるのでしょうか。

羽根「将来的に、どのような形でサービスを提供していくのかは、これからも運用を重ねながら検討していく部分ですが、現時点でのイメージとしては『コンスタントな、ターゲットを絞った輸送』です。その中に、AirXさんが開発した、ヘリコプター、パイロット、顧客をマッチングさせる仕組みも取り入れていこうと考えています」

――どのような層がターゲットになりますか?

羽根「鉄道は一度に大量のお客様を載せることができますが、ヘリコプターは、数人という規模感になります。その関係もあり、価格的には1便あたり数万円で、いわゆるアッパー層がターゲットになると考えています。利用シーンのイメージとしては、新木場などの都心部から、三浦の宿泊施設に移動できるような空の便ですね。

 ですが、これはあくまで現時点での構想です。新たなソリューションの価格というのは、緩やかに下がっていくものだと思いますし、いずれは京急の空の駅が至る場所にあって、もっと気軽に楽しめるような存在になっていくかもしれません。具体的な予定としては、2023年度を目標に、三浦半島地区に常設ヘリポートを設置し、京急電鉄とAirXで共同運営を実施する計画があります。このヘリポートと、他エリアを結ぶ路線を開設していく予定です」

――気軽に空の旅を楽しめる時代に向けた課題は、どこにありますか?

羽根「課題といいますか、最大限に気を配る必要があるのは、やはり安全面ですよね。国土交通省、関連する協議委員会ともルール制度や安全面の施策を日々協議していますが、安全面の確保や、地域住民への説明に関する部分は、いつも議題に上がります。地域住民のご意見も参考にしながら、利用されるお客様の安心感をどう確保していくのか。ここが、本格的な普及に向けた鍵になると思います」

――最後に、京急電鉄とAirXにとって、オープンイノベーションとはどのようなものか、お聞かせください。

羽根「いままで考えつかなかったような事業が生まれる仕組みだと捉えています。自社の事業に補足して、より良い、新しいサービスを生み出すなど、『掛け算』の事業展開ができるのがオープンイノベーションではないでしょうか。最近考えているのは、単なる協業ではなく、それぞれの企業のメンバーが出向したり、互いに行き来したりするようなところまで関係を深めることができれば、一歩先のオープンイノベーションに進めるのかなということです。今後も、さまざまな取り組みを進めながら、オープンイノベーションという文化を伝えていきたいですね」

藤園「スタートアップ企業側から見ると、スタートアップ企業にとって重要なのは、やはり『知ってもらう』ことなんです。大企業との協業で、私たちの社名が皆さんの目に触れる機会が増え、知ってもらえる機会が増えるのは、オープンイノベーションの嬉しい点ですね。知ってもらう機会が増え、互いのアセットを活用しながら、化学反応を起こして事業を生み出していく。それがオープンイノベーションの面白さではないでしょうか」

――本日はありがとうございました。

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