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テスラ「モデル3」はアメリカンセダンの良さを残しつつ新たな解釈でクルマを再構築した

2022年02月12日 15時00分更新

 自動車業界の今、最大の関心事と言えば「EVシフト」でしょう。エンジン車からEVへの転換です。ここ1年ほどの間に、トヨタが2030年に年間350万台のEV販売という目標を発表し、ホンダが2040年にEV/FCV(燃料電池車)を100%にするとぶち上げ、日産/ルノー/三菱自動車は電動化のために今後5年で230億ユーロ(日本円で約3兆円)にもなる投資を行なうと宣言しました。もちろん、こうしたEVへの動きは日本だけでなく、欧米や中国にも広がっています。

テスラ「モデル3」

 そして、そうしたEVシフトの渦中というか、先頭を走っているのがアメリカの自動車メーカー「テスラ」です。イーロン・マスクというカリスマ経営者に率いられたEV専門メーカーであるテスラは、昨今の世界的なEVシフトの追い風を受けて、今まさに販売台数を大幅に伸ばしています。2021年の年間販売台数は、前年比プラス87%の93万台超。1年間で、なんと2倍に迫ろうかという急成長を遂げているのです。

 そんなテスラの急成長を支えたのがコンパクト・セダンの「モデル3」とコンパクト・クロスオーバーの「モデルY」でした。このうち、日本では「モデル3」が479~717万3000円で、すでに発売されています。今回は、その「モデル3」を短時間ですが試乗できましたので、どんなクルマなのかをレポートします。

優れたスペックを誇るのがテスラの特徴

 「モデル3」はテスラ社のラインナップで、もっとも小さく、そして安価なモデルです。といっても、テスラはアメリカ車なので、小さいといっても日本的にはそれなりの寸法となります。「モデル3」のサイズは、全長4695×全幅1850×全高1445㎜。日本車でいえば、ホンダの「シビック」よりも大きく、トヨタ「カムリ」より、若干短いというサイズ感。意外と大きいんですね。

 グレードは、スタンダード、ロングレンジ、パフォーマンスの3モデル。スタンダードは後輪駆動、つまり駆動モーターが1つで、航続距離は565km。0-100km/hの加速は6.1秒。価格は479万円。これに対して、ロングレンジは、もっと大きな電池を積んでいて、モーターは前後2つの4輪駆動。航続距離689kmで、0-100km/h加速が4.4秒。価格は564万円。そして、パフォーマンスは、さらに電池もモーターも強力にして航続距離よりもパワーに振った結果、航続距離547kmに0-100km/h加速が3.3秒。価格は717万3000円。特徴をまとめると以下のようになります。

スタンダード

  • 駆動方式 後輪駆動(モーター1つ)
  • 航続距離 565km
  • 0-100km/h加速 6.1秒
  • 価格 479万円

ロングレンジ

  • 駆動方式 4輪駆動(モーター2つ)
  • 航続距離 689km
  • 0-100km/h加速 4.4秒
  • 価格 564万円

パフォーマンス

  • 駆動方式 4輪駆動(モーター2つ)
  • 航続距離 547km
  • 0-100km/h加速 3.3秒
  • 価格 717万3000円

 実のところ、テスラは従来の自動車メーカーと違って、詳細な出力や搭載電池容量などは、正式に発表していません。モーターのスペックよりも、実際に使える性能の数値を重視しているということでしょう。

 ただし、その実性能のスペックが相当に優れたものとなっています。たとえばスタンダードのスペックは、航続距離565kmで479万円。これに対して、日産のEV「リーフ」で最も航続距離の長いグレード「e+」は62kWhの電池を搭載して、航続距離が最大458km(WLTCモード)/570km(JC08モード)。価格は441万7600円~499万8400円。「モデル3」の航続距離のモードが不明という部分はありますが、価格面や航続距離の面で「モデル3」と「リーフ」は、ほぼ近いものがあります。それでいて、0-100km/h加速6.1秒はかなりの俊足です。

 ちなみに「モデル3」の上級モデルとなるパフォーマンスの0-100km/h加速3.3秒は、480馬力のポルシェ「911 カレラ GTS」の3.4秒に匹敵する数値です。そして「911 カレラ GTS」は1868万円。「モデル3」は、半額以下で、同等の加速性能を持っているのです。コスパは最高ってことですね。

驚くのがクルマと人とのインターフェース

 今回、毎年2月に実施される日本自動車輸入組合(JAIA)のメディア向けの試乗会にて、テスラ「モデル3」のスタンダード・モデルに試乗する機会を得ました。

 最初に結論を言ってしまえば、「モデル3」は、これまでの自動車の常識をくつがえす斬新なクルマでした。EVであるという以前に、まったく新たな思想・目線で、クルマに必要な機能が取捨選択され、そして再構築されているのです。

 まず、クルマへのエントリーからして斬新です。「モデル3」のキーは、カード、もしくはスマートフォンのアプリとなります。カードの場合は、Bピラーの根本付近にカードをタッチすることで、ドアのカギが解除されます。スマートフォンのアプリであれば、何もせずに、ただ近寄るだけでカギが解除されます。クルマに乗り込んだらブレーキを踏んで、シフトノブを「D(ドライブ)」に入れるだけ。イグニッションのスイッチを押す必要も、パーキングブレーキを解除する必要もありません。すべて自動。あきれるほどイージーです。

 インテリアも斬新です。ドライバーと助手席の間に15インチのタッチディスプレイがあるだけ。物理的なスイッチは、なにもありません。ハンドルの裏にあるレバーも、左右にひとつずつ。右が、シフトレバーで、左がウインカー/ワイパー/ハイビーム・ロービーム切り替え。ハザードランプは、なんと頭上のルームミラーの前。ここまで、さっぱりというか何もないクルマは、ほかに見たことがありません。

 じゃあ、細かい操作はどこでするのかといえば、それが15インチの巨大なタッチディスプレイです。驚くことに、助手席前にあるグローブボックスを開けることさえ、タッチディスプレイで行ないます。逆に言えば、ヘッドライトのオン/オフをはじめ、パーキングブレーキの作動など、クルマの操作は可能な限り自動になっているのです。また、急ぐ必要のない操作はすべてタッチディスプレイとしています。どうしても自動化できない&どうしてもすぐに使うものだけが、物理的なスイッチやレバーとして残っているのです。

 正直、使いやすいかどうかは微妙です。いきなり乗った人は面食らうことは間違いありません。ガラケーしか使ったことのない人に、スマートフォンを渡したようなものですから。

 ちなみに、15インチのディスプレイで、YouTubeやNetflixといった動画サービスを視聴したり、ゲームを遊ぶモードも用意されています。「おもちゃ箱」というアプリもあって、そこには「ブーブークッション」という「悪ふざけ」(説明として、このように表示されます)もありました。スイッチを押すと、狙った席から「ブビ~」という、少々湿った感じのオナラを模した音がします。ウェットに富んだアメリカン・ジョークってやつですね。

ブーブークッション機能。こういう遊び心はロングドライブのお供にいいかもしれない

 インテリアの質感は、以前に試乗したことのある「モデルS」よりも向上していると感じました。ただし、上質かといえば、それほどでもないな~というのが本音。ここは、今後に期待しましょう。

 走りの面では、「モデル3」は、良くも悪くもアメリカ車でした。アクセルを深く踏み込めば、驚くほど鋭い加速をします。でも普通に走っていると、まったくもって平穏そのもの。ゆったり、のんびりとした走行フィーリングで、いかにもグランドツアラーなアメリカンセダンといった雰囲気が漂います。飛ばすような気分にはなりません。環境のために電力を無駄に使わないという意味では、こうしたノンビリとした雰囲気こそ正解でしょう。

 ただ気になるのは、荒れた路面で上下に揺すられる感が強いこと。飛ばす人は我慢できるかもしれませんが、ゆったり走りたい人には、もう少し柔らかいタイヤと小さなホイールがいいのかもしれません。

 「モデル3」の試乗を終えてみれば、印象に最も強く残ったのは斬新な操作系でした。走りという意味では速さもありましたが、基本的には普通のセダン。ただし、テスラは非常に歴史の短い新興の自動車メーカーです。その短い歴史の中で、長年自動車を作ってきた既存メーカーと変わらない“普通”を作り上げたことは、高く評価すべきでしょう。

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筆者紹介:鈴木ケンイチ

 

 1966年9月15日生まれ。茨城県出身。国学院大学卒。大学卒業後に一般誌/女性誌/PR誌/書籍を制作する編集プロダクションに勤務。28歳で独立。徐々に自動車関連のフィールドへ。2003年にJAF公式戦ワンメイクレース(マツダ・ロードスター・パーティレース)に参戦。新車紹介から人物取材、メカニカルなレポートまで幅広く対応。見えにくい、エンジニアリングやコンセプト、魅力などを“分かりやすく”“深く”説明することをモットーにする。

 最近は新技術や環境関係に注目。年間3~4回の海外モーターショー取材を実施。毎月1回のSA/PAの食べ歩き取材を10年ほど継続中。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員 自動車技術会会員 環境社会検定試験(ECO検定)。


 
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