コンピューターのいちばん素晴らしいことはなんだろう?
まだ、コンピューターが、計算とかワープロとか、知的活動やゲームを中心に使われていた時代(Macintoshはまだモノクロの9インチ画面だったし、IBM PCやPC-9801は文字や数字の世界で活躍していた)。そのマシンは、「Boing Ball」という赤と白のチェック柄のボールが方眼紙のような背景の上で弾んでいるというデモソフトとともに登場した。
いま見ればなんということのないソフトなのだが、当時どれだけ衝撃的だったか? その頃に、コンピューターに興味のあった人ならわかると思う(ここに30分の動画があるがそのことを思うとずっと見ていたくなる)。3Dグラフィックスといったら一晩かけても画面の上から何センチしか進んでいないなんて経験がある人もいると思う。
1985年にコモドールから発売されたAMIGAは、コンピューターをちょうど音楽における楽器のような、グラフィックにおいてなくてはならない存在なのだと教えてくれた。念のために付け加えておくと、音楽の世界で大人気だったのは、同じ1985年に発売されたAtari STのほうなのだが(イシバシ楽器などで見かけた人も多いはず)。
AMIGAを象徴する現象といえるのが、「メガデモ」である。ただひたすら見る人に「スゲーっ」と言わせ魅了することだけが目的のソフトウェア。ハードウェアとソフトウェアのはざまで、表現にまだ制約の多かった時代の産物だ。メガデモは、ゲームを含むソフトウェア産業が十分に成熟した米国ではなく、欧州から多く出てきたのも楽しかった。
自由に表現することに使えるということは、AMIGAでは、コンピューターが本来そうである自由を取り戻したようにもみえた。おりしも、ベルリンの壁崩壊がもう少しという時代である。
私が歴史的なマシンをブロックで作る「ブロックdeガジェット」で、AMIGA 500を作った。初代AMIGAから2年後の1997年に発売されたキーボード一体型の廉価版モデルである。まだグラフィックワークステーションが主役と思われた時代に、個人が自宅の机の上でそれに対抗する作品を生み出すことができる。1992年にフジテレビで放送された子ども番組「ウゴウゴルーガ」は、まさにそんなAMIGAを使う若いクリエイターたちが活躍した画期的な番組だった。
コンピューターで、いちばん素晴らしいことは「自分もそれを買って使うことで何かできる」という勇気を持てることだと思う。8ビット時代にゲームクリエイターを目指した多くの人たちもそうだろう。Macintoshを買ってデザイナーに転身して人生をまるで変えてしまった、とくに女性を何人も知っている。AMIGAは、そんな人生をワクワクさせてくれるマシンのたぶんいちばんカッコいいコンピューターの1つである。
だからこのマシンに憧れた人も多いはず。以下、ブロックで組み立てる動画ご覧あれ。
■ 「ブロックdeガジェット by 遠藤諭」:https://youtu.be/YUBkuD2Tpfg
■再生リスト:https://www.youtube.com/playlist?list=PLZRpVgG187CvTxcZbuZvHA1V87Qjl2gyB
■ 「in64blocks」:https://www.instagram.com/in64blocks/
遠藤諭(えんどうさとし)
株式会社角川アスキー総合研究所 主席研究員。プログラマを経て1985年に株式会社アスキー入社。月刊アスキー編集長、株式会社アスキー取締役などを経て、2013年より現職。角川アスキー総研では、スマートフォンとネットの時代の人々のライフスタイルに関して、調査・コンサルティングを行っている。「AMSCLS」(LHAで全面的に使われている)や「親指ぴゅん」(親指シフトキーボードエミュレーター)などフリーソフトウェアの作者でもある。趣味は、カレーと錯視と文具作り。2018、2019年に日本基礎心理学会の「錯視・錯聴コンテスト」で2年連続入賞。その錯視を利用したアニメーションフローティングペンを作っている。著書に、『計算機屋かく戦えり』(アスキー)、『頭のいい人が変えた10の世界 NHK ITホワイトボックス』(共著、講談社)など。
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