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ブロックdeガジェット by 遠藤諭 031/難易度★★

LEGOを生まれ変わらせたMINDSTORMSを作る

2022年01月26日 09時00分更新

レゴの本質ってなんだろう?

 『レゴ――競争にも模倣にも負けない世界一ブランドの育て方』(蛯谷敏著、ダイヤモンド社)によると、グーグルのロゴを構成する4色のうち赤、青、黄色の3色は、レゴから着想されたものだそうだ。これは、彼らの初期のサーバーストレージがレゴ風(!)のブロックで作られたラックに収まっていたという伝説とも関係するのだろう。

 グーグルのロゴについては、そのデザイナーが、残りの1色である緑だけがなぜ原色ではないのかについても含めて書いている。いま思い返せば、あの子供向けのオモチャみたいな配色(文字どおりレゴみたいな)のロゴは、いかにもネットの世界らしい新しさだった。となると、いまの世界はオモチャの感覚で回っているのかもしれない。

 レゴは、1980年代末までに特許が切れて互換品が市場にではじめる。私も、レゴが作らないミリタリーもののブロックを中国で買ってきて会社の席のうしろに展開させていたことがある。レゴが、こうしたコモディティー化をどうやって乗り越えたのかは、日本の製造業関係者にも気になるテーマだろう。たしかにいまのレゴは物凄く立派としか言いようがない。

 レゴは、2000年代に入ってど大きな変革を行ったのだそうだ。同じデンマークの高級オーディオ機器メーカーであるバング&オルフセンを経営危機から立ち直らせた人物を招いて、《脱ブロック》のブランド戦略を打ち出す。そして、役員会の反対を押し切って発売した「スター・ウォーズシリーズ」が大ヒット。2002年12月期に最高益を記録するが、わずか2年後には赤字に転落してしまう。事業を拡大し過ぎたのだ。

 身売り説まで流れたレゴの創業者の孫が再度の再建を託したのは、入社3年目、35歳の元コンサルタントだった。彼がやったのは、1人目の再建請負人の拡張戦略とは真逆で、社員3分の1の人員整理。事業売却によるリストラクチャリングだった。そして、ブロックの開発と製造以外はやらない会社になるという《ブロック回帰》の決断をする。

 この人物は、2016年12月にはレゴを去りスターバックスの取締役となるが、いまやレゴは、GAFAみたいな営業利益率30%、米調査会社によるブランド信頼度は2年連続でトップとなっているそうだ。いくらなんでも、それじゃほかの全世界の会社のブランド信頼度が低すぎるんじゃないかとも思えるが、コロナ禍も追い風となっているともある。

左からMINDSTORMSのNXT、RCX、そして先祖ともいえるRed、背後はLEGO EducationのEV3。いずれも、レゴブロックをプログラムで動かすためのものだ。

 『レゴ――競争にも模倣にも~』には、「LEGO CUUSOO」(エレファントデザインの西山浩平さんには角川歴彦会長によるIP2.0シンポジウムでお世話になった)の話が出てくる。ユーザーイノベーションの教科書みたいな事例だと思う「LEGO Ideas」だが、この日本のサイトが元になって生まれたものなのである。

 我々のよく知っているレゴをコンピューターで動かすためのセットである「MINDSTORMS」のことももちろん出てくる。その名前の由来であるシーモア・パパート氏とレゴの出合いや、子ども向けプログラミング言語「Scratch」でも有名なミッチェル・レズニック氏へのインタビューも掲載されている。「MINDSTORMS」の最初のバージョンは、アスキーECでも並行輸入で売っていたが、プログラマの評判がもうひとつで野良の開発環境が使われたのも思い出す。

 ブロックの開発と製造しかやらない会社になったからといって、いまどきの会社は多様な環境変化に、すべて対処していかなければならない。2002年の1人目の再建人がやったことと、2004年の2人目として再建を託された人物のやったことは、本の中でもそういう指摘が出てくるが、順序とタイミングとお作法が違うだけでアウトプットは同じようなものだ。レゴの最新のヒットは「レゴ・スーパーマリオブラザーズ」である。

 ただレゴに触っている人たちからすれば、レゴってずいぶんとブランドになったと感じている程度のことだろう。たしかに、レゴ的なグッズやコンテンツは私にも魅力的に見える。グーグルの創業者ではないが、赤、青、黄色といった原色で、丸い突起があるだけで楽しくなる。しかし、レゴの本質は、やっぱり「LEGO CUUSOO」や「MINDSTORMS」の中から染み出している自分でなにかを作りたい動かしたいという気持ちなんだと思う。

 ブロックdeガジェットで、「MINDSTORMS」のRCX、NXTを作った。MINDSTORMSの発売は、1998年だが、1996年頃にはMITメディアラボのEpistemology & Learningグループで《RED》というプログラマブルブロックが作られている。これもおまけで作っている。ブロックでブロックを作っているちょっとメタな感じの以下の動画ご覧いただけると。

 

「ブロックdeガジェット by 遠藤諭」:https://youtu.be/oJoa4hZvXU0
再生リスト:https://www.youtube.com/playlist?list=PLZRpVgG187CvTxcZbuZvHA1V87Qjl2gyB
「in64blocks」:https://www.instagram.com/in64blocks/

遠藤諭(えんどうさとし)

 株式会社角川アスキー総合研究所 主席研究員。プログラマを経て1985年に株式会社アスキー入社。月刊アスキー編集長、株式会社アスキー取締役などを経て、2013年より現職。角川アスキー総研では、スマートフォンとネットの時代の人々のライフスタイルに関して、調査・コンサルティングを行っている。「AMSCLS」(LHAで全面的に使われている)や「親指ぴゅん」(親指シフトキーボードエミュレーター)などフリーソフトウェアの作者でもある。趣味は、カレーと錯視と文具作り。2018、2019年に日本基礎心理学会の「錯視・錯聴コンテスト」で2年連続入賞。その錯視を利用したアニメーションフローティングペンを作っている。著書に、『計算機屋かく戦えり』(アスキー)、『頭のいい人が変えた10の世界 NHK ITホワイトボックス』(共著、講談社)など。

Twitter:@hortense667

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