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タイムループを繰り返して「誰も死なない」道を見つけ出せ

これはいい読後感……!少女の心の機微を描く良質なADV『アサツグトリ』クリア後レビュー(ネタバレなし)

2021年12月23日 13時00分更新

脳内にタイムテーブルを

 ゲームの流れとしては「日常パート→事件発生→証拠集め→推理・解決パート」というもの。1つの章が終わると探索範囲が広がるため、新鮮な気持ちで進められた。

探索パートはクォータービューのマップを自由に移動して行なう。戸棚や段ボールも調べることができ、どこに重要な情報が隠されているかわからないと思うと、探索にも熱が入るというものだ

 面白いと感じたのは、時間の経過とともにほかの少女たちも場所を移動するところ。ただし、歩き回るのではなく時間になると「スッ」と消えたり現れたりするのは少しシュール。

いろいろと調べたり少女たちと話したりすると、役に立つ情報をゲット。これはその後の推理パートなどで使用することになる

証拠集めの部分は、何度も能力でやり直しつつ必要な情報を集めていく。物証は持ち越せないので、その都度取りに行く必要がある

 何度も同じ建物内をうろつくことになるので、ファストトラベル機能や少女たちの居場所がわかる機能などがあれば便利だとは正直思った。だが、これは恋愛ADVではなく推理ADVであり、ヒバリが歩いて調査する“過程”も大事にしていると考えれば、それらの機能がないのも納得できる。

 そのため、「誰が、いつ、どこで、何を」しているかを自分で記憶しておく必要がある。日常パートなどはそんなに気にしないでいいが、事件が起きたあとは脳内のタイムテーブルを随時更新しながら調査を進めていこう。

仮になにするか忘れてしまっても、方針のようなものはメニュー画面から見ることができた。これは親切設計

犯行のタイミングはいつか、誰ならそれが可能か、ヒントになる怪しい動きはしていないかなど、証拠集めのターンは結構頭をフル回転させながらプレイしていた

力およばず、事件が再発することも……。今度こそ、誰も死なない未来へ!

 証拠を時間内に集め終えると推理パートへ。ヒバリの推理にあわせて「必要な手がかり」を示していく形で進行する。難易度はそこまで高くないと感じたが、万が一に備えてセーブは小まめにしておくといいだろう。

推理パート。正解となる手がかりや選択肢を選んでいく

 推理に正解すると、事件は未然に防がれ、前述のように加害者と被害者が生き残ったまま共同生活を送る、なんとも気まずいだろう人間関係の出来上がりだ。

 そう書くとすごく後味の悪い結末に聞こえるが、実際はメチャクチャ苦労してたどり着いた“事件回避ルート”のため、ヒバリにとってもプレイヤーにとっても達成感はひとしお。気まずいぐらいなんだ、生きてるって素晴らしい! と、思えてくるから安心してほしい。

 もっとも、作中の少女たちはむしろ事件を通じて本音をさらけ出し、結束が強まってる感もある。その辺りの心理描写が丁寧に描かれているので、ぜひ実際にプレイしてみてほしい。

呪縛の解放にも似た感慨を覚える「読後感のよさ」

 読者の皆さんは下記の映像を知っているだろうか。これは日本一ソフトウェアが本作の発表前に、意味ありげに出していた監視カメラ風の映像である。詳しくは当時の様子を書いた下記の記事を参照してほしい。

日本一ソフトウェア、監視カメラのような映像が流れる「新作タイトルのティザーサイト」を公開

 最初は上記の映像で、「うわ、これ絶対コワイやつ!」と敬遠していたが(ホラー系は苦手)、続報で推理もの、それもタイムループ系と聞いてがぜん興味が湧いた。

 イラストと音楽が好みだったのと、探索で情報を持ち越して事件を未然に防ぐというコンセプトおよびシステムが琴線に触れ、すごくプレイ欲を刺激されたものだ。

この不穏極まる映像が日々少しずつ変化するのを、当時ビクビク見守っていたのが、いまでは懐かしく思う。監視カメラ風の映像というのも、意味がわかってみると案外深いもの

 実際にクリアまでプレイした感想としては、非常に満足している。最初に思っていたより怖くはなく、けれども先が気になって熱中してプレイを続け、クリア後は完読した文庫本を閉じたかのような、気持ちのいい「読後感」を味わえた。

 ボリュームはちょうどいい、またはいい意味で少し物足りないかなというくらい。終わったあとにいくつかの謎も残るが、「もう少しこの物語を見ていたい」と思わせるところで終わるのは、余韻にひたれてアリだと思う。

 また、ADVとしてキャラクターボイスがない点は少々気になったが、そこは「昔の無声映画のような雰囲気を持たせたくて、意図的に削った」(※)とのことなので、制作陣のコダワリを尊重したい。筆者の場合は、名前と顔が一致する頃には脳内ボイスが流れるようになっていたので、なんら支障はなかった。

「ゆるっと日本一 第66回 _『アサツグトリ』特集!」より(2021年11月25日放送)

 左から順に、エノ、コマリ、トウカ、ヒバリ、マチネ、カリン、フヅキ、スズ。あえて今回のレビューでは8人の少女たちの紹介をしていないが、それはあまり彼女たちのキャラ像に先入観を持ってほしくないと思ったからだ。見知らぬ少女たちの性格を把握するところから、本作の没入は始まっている。

 ぜひ本作『アサツグトリ』を手に取り、十人十色の少女たちとの交流を楽しんだうえで、筆者が感じたような読後感に浸ってもらいたい。

 オススメできる人としては、キャラクターの心理描写や物語性を楽しめるような人。逆に、刺激的なホラーやガッツリとした謎解きを期待している人には少々勧めにくいかもしれない。あと女の子しかいないけれど、これは百合ゲーではないと筆者は思う(異論は認める)。

 また、発売後にSNSなどで少し話題になっていたNintendo Switch版におけるフリーズ現象については、2021年12月14日配信のアップデートパッチ(1.0.1)で修正済み。現在は快適に遊べるので、PlayStation 4版とNintendo Switch版いずれを購入しても問題ないことを注記しておく。

 

【ゲーム情報】

タイトル:アサツグトリ
ジャンル:タイムループ探索アドベンチャー
販売:日本一ソフトウェア
プラットフォーム:PlayStation 4/Nintendo Switch
発売日:発売中(2021年11月25日)
価格:7678円(パッケージ版/ダウンロード版)
プレイ人数:1人
CERO:C(15歳以上対象)

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