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熱中症対策などを実現したIoTビジネスも国内で本格展開

東京2020大会を支えたプロジェクトとテクノロジー、アリババクラウドが披露

2021年12月27日 09時00分更新

 2021年11月19日に開催されたIoT/ハードウェアビジネスの体験展示・カンファレンスイベント「IoT H/W BIZ DAY 2021 by ASCII STARTUP」では、アリババクラウドの新妻 晋氏が登壇。ワールドワイドワイドパートナーとして関わった東京2020オリンピックのプロジェクトとテクノロジーについて振り返った。

アリババクラウド 新妻 晋氏

実ビジネス、社会実装での実績を持つアリババクラウドの技術

 アリババグループは、インターネット関連のビジネスを総合的に手がける中国発のグローバルプラットフォーマー。Taobao(淘宝網)やTmall(天猫)といったECサイトが有名だが、最近はリアル店舗も展開。アリババクラウド インテリジェンスビジネスグループ ビジネスデベロップメントディレクター 新妻 晋氏は、「テクノロジーを駆使したスーパーマーケット、無人コンビニ、無人ホテルまで提供している。単純にオフラインのビジネスをやりたいわけではなく、購買動向のビッグデータを最大限利活用をできるように、オンラインとオフラインでビジネスを手がけている」と語る。その他、動画配信や映画のようなエンターテインメント、物流の最適化を進めた配送事業、電子決済の走りであるアリペイを中心とするペイメントなど、幅広いサービスと実績を誇る。

アリババクラウドのエコシステム

 そして、今回オリンピックをサポートしたのは、ITインフラを手がけるアリババクラウドになる。「アリババクラウドのさまざまなサービスを支えるITプラットフォームをアリババクラウドのサービスで支えている。単純なインフラだけではなく、ビッグデータやAIを提供しており、中国では実ビジネス、社会実装での実績がある」と新妻氏はアピールする。

 具体的なアリババクラウドの事例として、新妻氏は世界最大のショッピングイベントである「W11」を挙げる。独身の日と言われる11月11日をめどに10日間程度開催されるW11の流通総額はなんと8兆円で、2021年は9兆円を超えたという。総トランザクション件数は23.2億件で、ピークトランザクション数は58.3万件/秒。1日当たりのデータ処理数は1.7EBとなっており、スマホの高画質写真であれば2500億枚にあたる。「イベント期間中は、この膨大なトラフィックをさばき、数多くのサイバーアタックをプロテクションし、システムを止めることなく運用できた」と新妻氏は語る。

アリババクラウドが手がけた東京2020のプロジェクト

 そんなアリババクラウドのテクノロジーや実績をいかんなく発揮したのが、2021年に開催された国際スポーツイベントの東京2020オリンピックだ。アリババクラウドは2018年の平昌の冬季オリンピックから、2028年のロサンゼルスオリンピックまで10年間に渡って、クラウドサービスとECプラットフォームサービスの2カテゴリでトップクラスのワールドワイドパートナーとなっている。そのため、この2つのカテゴリに関しては、優先的にプロジェクトをリードできる立場におり、東京オリンピック2020でも10以上のプロジェクトに関わったという。

・OBSクラウド
オリンピック放送機構とともにライツホルダーと呼ばれる放送権を持つ放送事業者向けに提供される放送ソリューションになる。従来はオンプレミスでサーバーなどを調達してきたが、初めてクラウド型で動画配信プラットフォームを提供。機材やセットアップを減らし、期間中に設置されたIBC(国際放送センター)以外からも作業できるようにしたという。リオオリンピックと比較して、放送使用メモリ数は30%削減し、コンテンツ製作も約30%増加を実現したという。

・OLYMPIC CHANNEL
Olympic.comのドメインでIOCが運営している特設サイトで、アリババクラウド上にホスとされている。過去のオリンピック選手のドキュメンタリーや若いアスリートの映像をストックしており、オリンピックの会期中以外もいつでも楽しめる。「映像データが膨大なのでストレージも必要ですし、アクセスも世界中から来るので、堅牢なセキュリティが必要。こうしたところでアリババクラウドが貢献させていただいた」(新妻氏)

・Press Conference on Cloud
コロナウイルスの影響でオフラインでの開催が難しかった東京2020大会中の記者会見をオンラインで実現するサービス。ライブでの配信はもちろん、オンデマンドでの配信も可能。オフィシャルなプレスカンファレンスで必要な高い品質を実現。音声や映像の編集、映像のダウンロード機能なども用意した。

・3DAT with intel
アスリートのパフォーマンスに関するプロフェッショナルな視点をリアルタイムに視聴者に提供するべく、アリババクラウドとインテルが連携して構築した。陸上競技であればどの程度の速度で走っているかを、特殊なセンサーを必要とせず、ビデオやAI、コンピュータービジョンを用いることで、可視化してビデオにオーバーレイ表示できる。

アスリートのパフォーマンスをリアルタイムで可視化する

・Make The Beat!
SNSを用いて、世界中の人たちが東京2020大会に参加できる応援プロジェクト。リズムに合わせたパフォーマンス動画をハッシュタグとともにSNSに投稿すると、アリババクラウドの技術を用いてビデオコンピレーション作品としてまとめ、大会期間中に各会場に放映されるというもの。「無観客にも関わらず、世界中の応援メッセージが選手たちに届けることができたと思う」(新妻氏)。

・Alibaba Cloud Pin
伝統的なピンにデジタル機能を追加したウェアラブルデバイスで、国際放送センター(IBC)やメインプレスセンター(MPC)で働く世界各国のメディア関係者に配布された。ピン同士をタッチするだけで、あらかじめ登録された連絡先情報を交換できる。より多くの交換したり、歩数を稼ぐとランキングが上がるといった機能も持っており、メディア関係者からは好評を博したとのこと。

・熱中症対策ソリューション
東京2020大会でも大きな課題となった熱中症の課題に対してIoTテクノロジーを用いたソリューション。従来は水やあめ、うちわを配るといったアナログな対策だったが、今回は会場のスタッフにウェアラブルデバイスを配布し、会場の管理者も体温や心拍をモニタリングするできるようにした。取得したデータを元に4段階でアラートを出すように設定されており、リスクが高まったら、オペレーションを軽減するといった措置をとったという。「今回は精度にこだわった。デバイスを腕に付けると、普通は表面のみで、深部体温がとれないので、今回は耳に付けてもらった。大学との共同研究で熱中症のアルゴリズムまで開発した」と新妻氏は語る。

高い精度にこだわった人のモニタリング

 また、気温や湿度、日射量、輻射熱などを統合した暑さ指数(WBGT)を測るメーターを14の会場に設置。各会場の要望に応えてWBGT値をグラフ化するモニタリングツールも急遽開発したという。

モニタリングツールも急遽開発した

競争力の源泉「DAMOアカデミー」とビジョンAIソリューションの強み

 こうしたアリババクラウドの技術を支えているのが同社の先端研究所である「DAMOアカデミー」だ。

 2017年10月に設立されたDAMOアカデミーは、研究成果の商用化がミッションとなっており、設立時だけで1兆8000億円という膨大な研究予算が投じられ、今も増資を続けている。現在は北京や杭州、シンガポール、シアトル、カリフォルニア、ニューヨーク、テレアビブなどに拠点を持っており、AIや次世代コンピューティング、ロボティックス、フィンテック量子コンピューティングなど幅広い領域を研究対象にしている。日本国内ではライセンス形式で、プライベートデプロイメントでの利用が可能だ。

競争力の源泉であるDAMOアカデミー

 この中で特に注目したいのが、中国で特に実績の高いコンピュータービジョンのテクノロジー。アリババクラウドは15カテゴリ、200以上のビジョンAIソリューションを展開しており、今回の東京2020ではMake The Beatの画像審査で用いられたのが一例だ。これは投稿された動画の中から、ポルノ、センシティブコンテンツ、好ましくないシーンなどを自動抽出するもので、コンテンツモデレートと呼ばれる。

 アリババクラウドはパートナー各社との協業をエコシステムと呼んで、積極的に推進している。「日本市場においてもIoTビジネスを強化していくので、大手企業はもちろん、スタートアップとも積極的に連携していきたい」と述べ、講演を締めくくった。

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