毎年、世界各地で開かれてきた見本市は、コロナ禍でオンラインに移行するなど大きな混乱に陥っていました。しかし欧州では再開の動きが進んでいるといいます。2021年11月9日には英国、ドイツ、フランスの見本市について日本事務所が説明会を開いた。現在も感染状況は刻一刻と変化しているところではあるが、現地からの報告を交えながら最新状況を共有した。
「新製品を見たい」本気の来場者がリアル見本市に参加
欧州からの現地報告としては、欧州最大とされる日本人コミュニティがあるデュッセルドルフから、ジェトロの木場亮氏が登壇。コロナ禍では見本市のオンライン開催を試みたものの、うまくいかず、現地でもリアル開催を求める声は多いといいます。
そのなかで、ケルンで開催された国際食品見本市「ANUGA 2021」には日本企業26社が出展。来場者数は2019年の17万人に対して7万人超と、半分近くまで回復しているとのこと。特徴としては「冷やかし」で来る人が減り、本当に商談がしたい人が集まったことで目標の2倍の商談ができたとしています。
ドイツのリアル見本市は2021年9月から30件、12月までに110件、2022年には390件を予定しているとのこと。具体的に講じている感染症対策としては、通路の幅を広く取る、セミナーはオンラインの登壇者を交えたハイブリッド形式とする、といった工夫がみられたそうです。
ドイツで見本市会場に入るには、「ワクチン接種証明」「コロナからの回復証明」「陰性証明」のいずれかの提示が求められます(3Gルール)。最近では健康上の問題がある人を除いてワクチン接種を基本とする「2Gルール」に移行しつつあり、各国の日本大使館や見本市主催者で最新情報を確認する必要があるようです。
イタリア・ミラノからの報告としては、工作機械の見本市「EMO MILANO 2021」に出展した中村留精密工業が登壇。現地ではコロナ禍による「遅れを取り戻したい」勢いを感じたといいます。「お客様は新製品を早く見たいと待っていた。見本市とはお客様が見たいものを見る場でもあると改めて感じた」(中村留精密工業 常務取締役の紙野清一氏)と手応えを語りました。
見本市主催者の本音は「リアル」第一
説明会の後半では、各国見本市の日本事務所の担当者がパネルディスカッションを行ないました。まずは最近、欧州で感染者数が増えている点については「ドイツ側とも話をしているが、いますぐロックダウンをするといった状況にはなっていない」(ドイツメッセ 日本代表部 代表の竹生学史氏)といいます。
一方で、状況の変化に応じて柔軟に対応していく必要性は続いており、2022年4月開催の「ハノーバーメッセ」に向けて、「年内は出展のキャンセル料を取らず、ぎりぎりまで判断できるようにしている」(竹生氏)としています。
デジタルとのハイブリッド開催は課題が多く残ったようです。「オンラインでは商談の発注量が小さくなるとの声がある。10月開催の見本市でも88%がリアルでの参加を希望していた」(フランス見本市協会 日本代表の井田絵里佳氏)との実情を明かしました。
オンラインに足りないものとして「偶然の出会い」があるといいます。「思いがけない商品や人との出会いが、オンラインでは起こらない。人間としてオンラインでは物足りない部分があるのではないか」(インフォーママーケッツ ジャパン 代表取締役社長のクリストファー・イブ氏)。
出展者側ではオンライン中継を採り入れるといった工夫がみられるものの、主催者の本音はやはり「リアル第一」のようです。「主催者側は、VR技術による3D展示会などに投資をする方向には向かっていない。リアルで見たい人のために開催していく」(メッセ・デュッセルドルフ・ジャパン 代表取締役社長の小原暁子氏)との立ち位置を示しました。
日本企業に向けたメッセージとしては、「悲観的すぎるところを感じている。大企業では社員が海外に行きたいといっても、感染した場合の責任が取れないためか会社が許してくれない。ここを解決しないといけない」(井田氏)と指摘します。
そのなかで日本の企業が「有利」な点もあるといいます。「ドイツへの入国時には中国やロシアのワクチンは認められていない。日本でワクチンを接種した場合は欧州に行きやすく、日本企業にとって有利な状況にある」(竹生氏)として、欧州見本市への再挑戦を呼びかけました。
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