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『働き方のデジタルシフト —— リモートワークからはじめる、しなやかな組織づくりの処方箋』から

オードリー・タンさんが語るパンデミック経験下での働き方

2021年11月17日 07時00分更新

2021年10月25日、『働き方のデジタルシフト —— リモートワークからはじめる、しなやかな組織づくりの処方箋』(技術評論社)が発売されました。発売を記念して、収録されている台湾のデジタル大臣、オードリー・タンさんへの特別インタビューから、一部内容をご紹介します。

Image from Amazon.co.jp
働き方のデジタルシフト —— リモートワークからはじめる、しなやかな組織づくりの処方箋

 昨今、リモートワーク推進企業が増えています。本書では「現状のリモートワークでの課題と対応策」を提示したうえで、「リモートワークの延長にある働き方のDXに適応するための方法」を紹介します。現状の問題を克服し、今後主流になってくるであろう働き方への道筋を知ることで、読者の感じる働き方の変化についての不安も解消できる一冊です。

オードリー・タンが示す生産性向上のために重要な3つのヒント

オードリー・タン(Audrey Tang 唐鳳) 台湾デジタル担当政務委員(閣僚)。1981年台湾台北市生まれ。幼い頃からコンピュータに興味を示し、12歳でPerlを学び始める。15歳で中学校を中退し、プログラマーとしてスタートアップ企業数社を設立。19歳 のとき、シリコンバレーでソフトウエア会社を起業する。2005年、プログラミング言語「Perl6(現Raku)」開発への貢献で世界から注目を集める。同年、トランスジェンダーであることを公表し、女性への性別移行を開始する(現在は「無性別」)。2014年、米アップルでデジタル顧問に就任。Siriなど高レベルの人工知能プロジェクトに加わる。2016年より、蔡英文政権において、35歳の史上最年少で行政院(内閣)に入閣。無任所閣僚の政務委員(デジタル担当)に登用され、部門を超えて行政や政治のデジタル化を主導する役割を担っている。2019年、アメリカの外交専門誌『フォーリン・ポリシー』のグローバル思想家100人に選出。2020年コロナ禍においてマスク在庫管理システムを構築し、台湾での感染拡大防止に大きな貢献を果たす

――タン大臣が実践する個人の職場における生産性向上のために重要な3つのヒントとは何でしょうか?

 8時間睡眠が基本です。もし8時間に達しなかったら、日中に昼寝をして8時間になるようにしています。その日に寝なかったり、4時間程度しか眠れなかったりすると、事実は覚えていても、統合された感覚が失われてしまいます。その状態は私の心に限ったことではありません。きっと皆さんもそうだと思います。

 その他の方法としては、「ポモドーロ・テクニック」というタイムマネジメントシステムを使っています。この手法はToDoリストに集中する時間と様々なアイデアが入ってこれるようリラックスする時間を設けた時間管理システムです。

 また、「マインドマップ」を使ってアイデアを視覚化し、それをより多くの次元に枝分かれさせ、結論を導いています。

https://en.wikipedia.org/wiki/Mind_map#/media/File:MindMapGuidlines.svg

――タン大臣が同僚とコラボレーションする際、チームの生産性(絆・ワークフローの改善・アウトプット管理・モチベーションのコントロール)を高めるために重要な3つのヒント、そして、チームでプロジェクトを運営(タスク配分・目標の共有・タイムマネジメント・ボトルネックの解消・ステークホルダーマネジメント)するために重要な3つのヒントはそれぞれ何でしょうか?

 私は、生産的なコラボレーションのためには、強い相互信頼が最も重要なベースであると考えています。チーム間に強固な相互信頼があれば、誰もが、いつでも、どこでも、空いた部分を埋めて貢献することができます。私のチームが使っているデジタルツールのひとつに、「カンバン・ワークフロー」オンラインというものがあります。すべての進行中プロジェクトがボード上にカードとしてリストアップされ、チームメンバーはいつでも自分の取り組みや進捗状況を更新することができます。

 実際、私が入閣したときは、契約(コントラクト)ではなく3つの協定(アグリーメント)があり、私は内閣に同意しています。協定の1つ目は「場所の独立」。いつでも、どこでも、私は仕事をしています。パンデミックが起こるずっと前から、この内閣ではリモートワークが標準的な環境でした。2つ目は「自発的な行動」です。私は命令しませんし、命令も受けません。すべての省庁が自発的に私と仕事をしています。3つ目は「徹底的な透明性」です。私が見ることができるものはすべて、公共の利益のために公開することができます。私たちの発言は未来の世代にも読まれ、分析されるため、この透明性によって会話に世代間の質を与えています。私は、会話の本質はより長期的なことや公共の利益などについてのものであり、イノベーションの可能性を促進するのに役立つと考えています。そして、信頼がなければ、これらすべてがうまくいきません。

 これまでのところ、私のチームはこの方法でスムーズに仕事をしており、従来の対面式よりもさらに効率的に仕事ができています。私は、お互いの強い信頼関係と3つの「コンパクト」が重要な役割を果たしていると思います。

Perl 6を開発していた頃のオードリー・タン近影

――チームワークの欠如、チャットでの限られたコミュニケーションによる衝突、頻繁なZoomミーティング(Zoom疲れ)、運動不足など、パンデミックにおける職場では、人々は新たな問題に悩まされています。「パンデミックバージョン」として自分を変えることができない人たちに、何かアドバイスはありますか?

 パンデミックが起こる前、私は国際会議に出席するために世界中を飛び回っていましたが、パンデミック中は仕事の時間がさらに充実したものになりました。今では、アメリカやカナダの友人と会うために朝早く起き、昼間はアジア太平洋地域の友人とチャットをし、夜間はヨーロッパのビデオ会議に参加しています。私はまるでボーダレスな世界に生きているようになり、1日で世界中を旅することができます。バーチャルな方法ではありますが。

 実際、パンデミックが起こるずっと前から、私のオフィスではリモートワークが当たり前になっていました。スタッフはさまざまな場所で仕事をしており、ビデオ会議やSandstorm.io(カンバン・Docs)、HackMD(ナレッジベース), Rocket.Chat(多機能グループチャット), and Pol.is(公開意見投票)などのデジタルツールを利用して、いつでもどこでも同じタイミングでコミュニケーションをとっています。いつでも、どこでも、誰もがリアルタイムにキャッチアップでき、貢献することができるのです。難しい問題に直面したときは、私はオープンな議論に委ねて眠りにつきます。翌朝、目が覚めたときには、同僚たちが素晴らしいアイデアを出していたということがよくあります。このような出来事は私の予想を超えていました!

 つまり、私の大好きなカナダのソングライター、レナード・コーエンの言葉の言葉を借りれば「まだ鳴らすことのできる鐘を鳴らして、完璧に提供することを忘れよう」ということになります。実際のところ、完璧な提供物はありません。だから、私からのアドバイスは、「完璧主義者にならない」です。自分にも他人に対しても、もう少し自信を持つようにして、自分のコンフォートゾーンから一歩踏み出してみてください。

――パンデミックの影響で、リモートワークとそのキャリアはポジティブな形で盛り上がっています。ポストパンデミックという新しいパラダイムの中で、ビジネスパーソンはどのようにキャリア戦略を立てるべきでしょうか?(例:より良い機会、ビジネススキルを向上させるための新しい方法、新しい仕事、新しいスキルを得る、大学や会社やチームの意味を再定義するなど)また避けるべきキャリアのアンチパターンはどのようなものでしょうか?(例:古い概念を信じすぎる、著しく景気が下降しているのに経済に固執するなど)

 何があろうと、ハイブリッド・ワーキングは存続すると思います。重要なのは、レジリエンスとプロアクティビティーを維持することです。パンデミック対策の経験から言うと、防御にすべてを賭けていると、新しい亜種が出てきたときにその亜種がどのように振る舞うのかを予測できないため、対応できなくなってしまいます。一方で、特定の戦略に縛られずに能力を備えておけば、新しい亜種が発生したときに数日のうちに実際に整理して、戦略を回復力があるものに調整することができます。

レジリエンス=素早く行動する柔軟性。準備をしすぎるより状況に応じてフレキシブルに最速に動くことに重きを置く考え方。反対語がロバストで、準備に重きを置き物事に耐性を作ることの意。

 したがって、ポストパンデミックの時代にキャリア戦略を策定する際には、未知の危険から身を守るために、特定の戦略を中心に構築するのではなく、レジリエンスと継続性を中心に構築することに加え、早めに情報収集し能動的に行動することが非常に重要になります。

――(短期・中期・長期で見た際に)人々のキャリア環境におけるポジティブ/ネガティブな変化のトップ3は何でしょうか?

 将来的には、分散化、リモートワーク、テクノロジーを駆使した仕事環境が増えてくると思います。これらがポジティブな変化かネガティブな変化かは、あなたの考え方次第です。私は、包括的でオープンマインドであることが、不確実な時代を乗り切る方法だと思います。

本件の書籍発売

 2021年10月25日、技術評論社より我々の書籍『働き方のデジタルシフト —— リモートワークからはじめる、しなやかな組織づくりの処方箋』が発売されました。

 今回のオードリー・タンさんインタビュー全編に加え、「現状のリモートワークでの課題と対応策」を提示したうえで、「リモートワークの延長にある働き方のDXに適応するための方法」を紹介します。現状の問題を克服し、今後主流になってくるであろう働き方への道筋を知ることで、読者の感じる働き方の変化についての不安も解消できる一冊です。AIはコロナに苦しむ人類に光を与えるのか? ぜひお読みいただければと思います。

聞き手プロフィール
石井 大輔(いしい だいすけ) 株式会社キアラ 代表取締役。京都大学総合人間学部卒。AI・機械学習に特化した研究会コミュニティTeam AIを立ち上げる。シリコンバレーのアクセレレーター Y Combinator Startup Schoolと500Startups Kobe Acceleratorを卒業。100ヶ国語同時翻訳ChatbotアプリKiaraを海外向けにローンチ。
著書
『機械学習エンジニアになりたい人のための本 - AIを天職にする』(翔泳社・単著)
『データ分析の進め方 及び AI・機械学習 導入の指南』(情報機構・共著)
『現場のプロが教える前処理技術』(マイナビ出版・共著)
『コロナ vs. AI 最新テクノロジーで感染症に挑む』(翔泳社・共著)
メディア出演
『AI共存ラジオ 好奇心家族』 (TBSラジオ)
『Abema Prime』 (テレビ朝日)
https://www.ishiid.com/

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