川田 十夢氏×千代田 まどか氏×内山 裕弥氏による3者対談
日本の都市3Dモデル「PLATEAU」を、私たちは何に活用していくべきか?
国土交通省では、Project PLATEAU(プラトー)として、「3D都市モデル」の整備・活用・オープンデータ化を推進し、全体最適、市民参加型、機動的なまちづくりの実現を目指している。その一環として、PLATEAUを活用したハッカソンである「PLATEAU Hack Challenge 2021」が7月に実施された(当日のレポートを参照)。
本稿では、当日の審査員を務めたAR三兄弟 長男の川田 十夢氏、ちょまどこと千代田 まどか氏、そして国土交通省でProject PLATEAUを担当する内山 裕弥氏の3名による対談をお届けする。(以下、文中敬称略)
PLATEAUが出てくるのを、みんな待っていた
――PLATEAU Hack Challenge 2021ではユニークな作品がたくさん集まりましたね。審査員の立場から改めて振り返ってみて、どのようなハッカソンでしたか?
千代田 まどか(以下、ちょまど):どの作品も、素敵だったんですよね。プロダクトそのものも、プレゼンも。似たような作品だったら、比べるのは簡単だと思いますが、どの作品もよかったから、どこに選定の基準を置くか、とても迷いました。
川田 十夢(以下、川田):私はハッカソンの審査員をする機会が多いのですが、今回は、どの作品もレベルが高いと思いました。まず、こういった都市の3Dデータが提供されるのを、みんな待ってたんだろうなと感じたんです。いままで、「やってみたいけど、データがないからできない」というアイディアが、みんなの中に溜まっていて、それが一気にあふれてきたことを感じました。審査していて愉しいハッカソンでしたね。
内山 裕弥(以下、内山):これまでオープンデータでの都市空間の三次元的地理空間情報はありませんでした。それを使って、好きに遊んでもらえるいい機会が提供できたかなと思いましたね。少し思ったのは、PLATEAUのデータを加工したり、ほかのプラットフォームに読み込ませるために苦労していた人が多い印象だったので、開発者向けのSDKというか、もっと扱いやすい形になっていると、より幅広い活用ができるのかなと。その辺も拡充していきたいですよね。
川田:それ、本当に大事ですよ。クリエイターたちが継続的に開発に打ち込めて、エコシステムと一緒に表に出てくるためには。僕、AR三兄弟はもう10年以上やっていますが、その前は、ウェブ周りのクリエイターをずっとやってきました。Adobe Flashって規格が終わったじゃないですか。なぜ終わってしまったのかって考えたら、クリエイターはたくさんいたのに、産業が育たなかったからです。Unityでいうところのアセットみたいな感覚で、売り物になるようなものが用意されてもいいんじゃないかなと思いました。
ちょまど:チュートリアルとかがあってもいいですよね。PLATEAUのことをまだ何も知らない人が、お手軽に成功体験ができるようなコンテンツ。「PLATEAU Hello World」みたいな。これも審査員をしていた思ったのですが、いまのPLATEAUは、強々(つよつよ)なピーポーしか遊びに使えていないと思うんです。もう少し、簡単な成功体験……たとえば「俺の手元でもPLATEAUが動いた。もうPLATEAUを完全に理解したぞ」って思ってもらえるような。
内山:そこも課題ではありますよね。実は、Cesium(※)とかに読ませてPLATEAUを動かすのってすごく簡単で。慣れてきたら15分くらいでできるくらい、ハードルが低いんですよ。でも、そこまで到達できない、もっと難しいものだと思われている実感はあります。エンタメ、地理空間の分析+αくらいでチュートリアルを作ろうかというのは、私たちも話し合っているところです。
ちょっと難しいのは、「XML(※2)ってなに?」「JavaScriptってなに?」っていう人に対して、どうアピールするかっていうところなんです。PLATEAUのデータは使い方が決まっているわけではないので、あまり手取り足取りにてしまうと面白さも失われていってしまうかもしれない。イノベーティブな人たちは、尖ったものに集まるところもあるので。どのくらい親しみやすいものにして、どのくらい尖っている感を残すか。そのバランスをどう取るかは悩みどころです。
川田:リテラシーの高さに応じて、入り口を分けるのもいいかもしれない。
※.米Cesium GS, Inc.による3D地図空間データを扱うためのプラットフォーム。※2.プログラミング言語。Extensible Markup Language。
どうやってPLATEAUでお金を生み出していくか
――PLATEAU Hack Challenge 2021で、印象に残った作品はありましたか?
ちょまど:「わりと本気でゴジラ対策してみる」は見ていて「いいな〜」と思いました。ノリノリで、楽しみながら作ったのが伝わってきましたよ。個人的に好きなものと組み合わせた、クリエイティビティーを刺激するPLATEAUの使い方ですよね。
川田:地震など自然災害をシミュレーションすると、どうしても生々しくなってしまう側面がありますよね。厄災そのもののメタファーでもあるゴジラというかたちを借りて、防災に活用していくというアイディアが出てきたのは、僕も今回のハッカソンの中で大きい収穫だと思いました。あと僕が気になったのは、「まち風シミュレーション」かな。ドローンがいろんなものを配達するであろう将来を前提としたソリューションでいいなと思いました。「風の情報は交通情報と同じくらい重要になってくる」っていう未来予想とともに提案したのがよかった。
ちょまど:あと、「ARライブ配信」は、マネタイズをしやすいと感じましたね。新宿に巨大なミクさんが出てきた映像はインパクトが強かったし、リアルなビルにAR上で広告を入れられるのはいいですよね。「このタワーでこんなセールをやっているので、来てくださいね」とか。一般消費者からでなく、企業から広告料を取れると思います。
内山:都市の空間が実質無限になるので、広告との相性はとてもいいですよね。フェスをバーチャルの空間でやるっていうアイディアはこれまでにもありましたけど、実際に存在している空間でやるってなると、バーチャルの世界も一歩進んだかなと感じました。3Dの都市データって、一般消費者の方からすると「何に使えるの?」って感じもあるので、身近な用途に使っていいんだと示せたのも、「ARライブ配信」のよかった点ですね。
川田:マネタイズっていう話だと、ゴジラは東宝と組んでやればいいのにと思いました。いまって、コロナで映画館にも行きにくいじゃないですか。それぞれの業界が、いまの状況の中で売り物になるものを作っていかないといけないと考えたときに、各業界が、PLATEAUとこうやってコラボできたらいいだろうなと感じました。
内山:コンテンツを提案する一つの材料として、PLATEAUを使うっていうことですよね。
川田:それもそうですし、いまって、観光という視点で見ると、大きな準備期間だと思うんですよ。また人たちが移動できる時がきたら、これまでの反動のように観光客が押し寄せますよね。
内山:そうなるでしょうね。
川田:でも、自分たちで自分たちの魅力を把握できていないことって、すごくいっぱいあると思うんですよ。たとえば、街の名前をInstagramで検索すると、海外の人は、僕たちの知らないようなところで写真を撮っているんです。中でも、韓国の人たちって、なぜか特定の都市に集中して遊びにきて、写真を撮っているんですよね。なんでだろうと思って調べてみると、理由は『孤独のグルメ』だったんです。
ちょまど:あの漫画やドラマの『孤独のグルメ』ですか。
川田:そうそう。なぜかというと、韓国は一人でご飯を食べるっていう文化にあまり馴染みがないから、一人でご飯を食べて独り言を言っているのは奇妙なんです。でも奇妙だからこそ、興味を惹くらしくて。『孤独のグルメ』って韓国で大人気なんですよ。韓国の人が集中的に集まっているところを、興味を持って調べてみたら、全部『孤独のグルメ』で扱っていた場所だった。
ちょまど:リサーチ能力がすごい……。
内山:いわゆる、聖地めぐりですね。
川田:そういうことって、いっぱいあります。いまは海外からお客さんが来れないけど、いつか反動のように来るときのために、自分たちの街の強みを、自治体の人たちも含めて再発見した方がいいと思っています。「自分たちではここが人気のスポットだと思っていたけど、実はこっちに人気があるんだ」っていうことを。長い準備期間として。ちょまどさんの言い方を借りると、強々な人たちだけじゃなくて、市民たち……シミシミな人たちがPLATEAUを使うきっかけにもなると思いますよ。
内山:シビックテック(※3)の領域にはずっと挑戦したいと思っています。街の人たちが、自分たちで作っていく。
川田:つよつよじゃない人たちがね。
ちょまど:いま、「メタヴァース(※4)」って言葉を使う人が増えてきて、みんな言っていますよね。その波が熱いうちに、その流れに乗りたいですね。
内山:日本のメタヴァースって、なぜかスケールしない傾向があるように感じています。たとえば、すごく狭い範囲の仮想空間を作って、その中を自由に動けるみたいなところで終わってしまう。ひとつの理由は、作り込みにすごくお金がかかって、大規模に作れないからだと思うんです。
川田:デジタルツインとかミラーワールドみたいなものって、本当は自治体こそやっていくべきですよね。
内山:そういうところでも、PLATEAUをベースにしてくれるといいんですけどね。三越伊勢丹ホールディングスの「バーチャル伊勢丹」っていうプロジェクトがあって、それを周辺エリアにまで拡大した「バーチャル新宿」っていうものがあるんです。それは、伊勢店の社員でそういうことに強い人が2人くらいでやってくれたのですが。あれは、PLATEAUをベースにして、外壁とかだけを自分たちで付加する形で作ってくれたんですよ。そうすると、コストを20倍くらい削減できるとか。
ちょまど:それは素晴らしいですね。メタヴァース的なものをイチから作ろうと思うと、どうしても工数が跳ね上がりますからね。
川田:正しい。PLATEAUを使えば済むところにこそ、PLATEAUを使うといいですよね。PLATEAU地図、いいと思います。
ちょまど:PLATEAUで作り込まれた街が一元的に見られる……作り込まれた地域には色がついていくみたいなものって、いかがでしょうか。
内山:それ、やりたいなと思ったんですが、いまの時点だと、色がついている場所が少なすぎて、上手くいっていないように見えてしまったら嫌だなと思って、していないんです。
ちょまど:Done、Work in progress、To doみたいに色分けをしてもいいかもしれませんね 。赤、青、黄色くらいに。
川田:人って、塗りつぶしたくなる感覚がありますからね。
ちょまど:あります、あります。私は、PLATEAUは広く多くの方々がもっと気軽に参加できるプラットフォームになるといいなと思っているんです。自分の地元のデータを、みんなが入れることができて、入れることによって、目に見えるわかりやすいデータになるし、バーチャル上で遊びにも行けるようになる……「この街はわしが育てたんじゃ」って言える状態になる。
そうすれば、みんながデータを追加していくモチベーションも得られるし、結果的にそれがみんなの役に立つと思います。「PLATEAUって何?」って疑問に対して、「これに使われているやつだよ」と言えるような、“みんなが知っているアレ”が、ひとつできるといいですよね。
※3.地域の住民たちが、自ら技術を地方活性に役立てたり、地域課題を解決したりすることを表す概念※4.3D上の仮想空間。
どうやってPLATEAUを広めていくべきなのか
――もしもお二人がPLATEAUを使って自由にプロジェクトを作るとしたら、どんなものを作りたいですか?
川田:僕は具体的にアイディアがあります。建物の前で端末をタップすると、目の前の世界がスキャンできて、建物の中にどれくらい人がいるかがすぐにわかるような仕組み。僕、これはすでに自分で前から作っているんです。
内山:都市データはどこから持ってきたんですか?
川田:前はPLATEAUの存在を知らなかったから、自分でスキャンして街のデータを作ったんですよ(笑)。
ちょまど:ええっ!
川田:建物の中にどれくらい人がいるのかは、普通は建物の中に入っていかないとわかりませんよね。そういう風に、現場に行かないとわからないようなことを、外からスキャンして可視化できる仕組みが作りたいです。GPSよりひとつ進んだ、VPS(※5)っていう考え方を取り入れるイメージですね。
内山:VPSの仕組みは、僕も活用したいと思っていろいろと触っているのですが、ほとんどが海外の技術なんですよね。
川田:僕らの国の、僕らの街のデータを作りたいのに、作ろうと思うと海外の企業にお金が流れちゃうっていう状態なんですよね。あまりよくないですね。
内山:そういう部分も、国産になっていくといいのですが。日本はデータ化するという意識が、少し遅れているのかなと思っています。
川田:遅れていると思いますよ。3Dデータ化した都市をどう活用していくかって、海外では企業が先導している印象もあります。グーグルやアップルですよね。彼らは、みんなが街にフラグを埋め込んでいくっていうことが、できる仕組みを作っていっています。
内山:なぜ日本だとそうならないのかと考えると、国民の性質みたいなところもあるんでしょうね。情報の扱い方というか。何かをデジタル化した時の、メリットよりデメリットに目が向いてしまう人も、とても多いと思います。
川田:デジタル化に関しては、ひとつそれもありますよね。3D都市データというテーマからは少し外れますが、たとえば、「こんなテーマが書いてある小説はあるかな?」って思ったときに、すぐにワードで検索して、結果がわかるようなプラットフォームがあれば、みんな検索して読むと思うんです。でも、反対する人も多くて、それは実現できない。
小説をなぜデータ化したいのかって考えると、ここでは、「過去にこんなことについて書かれた小説はなかったか」を知りたいからで、決して「作品の中身を盗む」とか、そういうことではありません。漫画村などの件で、デジタル化に対して危険なイメージがついてしまっていますが、結局は、使い方が大事なんですよね。
内山:海外は映画のセリフもデータベース化されていて、どんなセリフがどれくらい使われていたのかが、誰でも調べられると聞いたことがあります。たとえば2Dの都市データはすでに国土地理院が作って公開していますが、まだまだ活用が広がっていない印象があります。
――どうやって、PLATEAUをより多くの層に広げていくべきでしょうね。
川田:PLATEAUを盛り上げていくには、開発者たちの興味を持続させていくことも大事だし、企業とのつながりを積極的に作っていくことも大事ですよね。国を代表するような、代表的な事例をひとつ作ってしまうというのも、いいかもしれませんね。PLATEAUみたいな先進的な取り組みは、企業同士、同業同士で争っている場合ではなくて。束になってやっていかないと。「あのプロジェクト、どうやって作ったんだろう」って考えたときに、「PLATEAUだ」って言えるような。
内山:僕も企業とはどんどん組みたいと思っているんです。ITの世界は、1年でプロジェクトの発足から結果を出すまでが進んでいくような世界なので、そこについていかないといけないと思っています。
ちょまど:やはり、みんなが知っているプラットフォームにPLATEAUが使われてほしいですよね。あとは、CG的にPLATEAUを使うならUnityでいいけど、GUI的に使うなら何と組み合わせるべきか、フロント側のデータだけじゃなくて、バック側のデータを使うなら、どうすればいいか。そのあたりも、わかりやすくみんなに伝わって、開発者の人たちが遊べるものになるといいですね。
川田:いま、オープンイノベーションの高まりもあって、日本の開発者たちは呼びかけさえすれば集まりつつあると思うんです。ところが開発者は、クライアント層との会話がないことも多い。そんな人たちの中に、新規事業ができないかと考えている人もいると思いますし、PLATEAUは、そういう会話を始める糸口にもなると思います。
ちょまど:『最初のとっかかりさえあればジョインしてくれる層』までは取り込みたいですよね。デジタル化って、いやだっていう人もいると思うんです。「紙でやりたいんだ」っていう人たち。そういう嫌がっている人を無理に巻き込むのもよくないと思うので、まずは、今回のコンテストに自発的にノリノリで参加してくれたような『イケイケのエンジニア』の方々と、『とっかかりさえあればジョインする人たち』を集めて、事例を作る。優れた事例があれば、これなら大丈夫そうだと考えて、そこをとっかかりにして、参加してくれる人も増えるんじゃないかな。
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