東京都産業労働局は2021年7月20日、8月17日、9月10日に令和3年度小中学生向け起業家教育推進事業の事業説明会をオンラインで開催した。本事業は、都内の小中学校を対象として起業家教育プログラムの導入を支援するもの。説明会では、事業概要の説明、早期起業家教育の専門家による講演、昨年度事業の実施事例の紹介と今年度事業の募集スケジュールの説明が行なわれた。
冒頭では、東京都産業労働局 商工部創業支援課 統括課長代理 桑山隆実氏より、小中学校向け起業家教育推進事業について説明があった。
東京都産業労働局では、開業率の向上を目指し、起業に興味を持ってもらうとともに、子どもたちの「生きる力」を育成するため、主体的・対話的で深い学びとして早期起業家教育を推進すべく、小中学校での起業家教育の導入を支援している。
主な支援内容
主な支援内容は、1)起業家教育の導入に向けた相談窓口の設置、2)採択校の希望に応じた起業家教育プログラム策定の支援、3)策定したプログラムの実施――の3つ。プログラムの策定支援は令和3年10月から開始し、プログラムは令和4年度より実施となる。プログラム終了後も継続して実施されるように、資料の配布や教師への事前研修なども支援内容に含まれている。
小中学校向けの早期起業家教育プログラムとは?
続いて、株式会社セルフウイングの平井由紀子氏(学術・早期起業家教育博士)が小中学生起業家教育プログラムの効果や目的について講演した。
早期起業家教育の効果については、1996年から産学官で共同研究が行われており、幼少期からの起業体験の有効性、日本の産業界・教育界、子どもを取り巻く環境、海外の起業家教育の取り組みについての研究が続けられている。
早期起業家教育の目的
早期起業家教育の目的は、実際に起業するためだけでなく、小中学生のうちに経験することで、キャリア構築がスムーズになること、新しい仕事を創り出す力をつけること、他者と協働しながら、新しい価値を生み出す主体性や創造性を育めることにある。
早期起業家教育では、テストで測れる認知的能力と、非認知的能力の両方の力をバランスよく育てることを重視して教材が開発されている。ここでの非認知能力とは、人とうまくかかわる力、目標に向かってがんばる力、あきらめない力といったもので、目には見えないが、学習のベースになるものだ。
早期起業家教育のプログラムは、授業の時間数など学校の事情に合わせてカスタマイズが可能だ。また、地域の産業や経済に触れることで、起業や事業創出を身近で具体的なこととして感じられるように工夫されている。
早期起業家教育の効果
起業家精神を身に着けるため、会社経営を疑似体験する学習内容となっており、1)失敗が起きたときに経験を生かして次の成功へとつなげる、2)努力の成果を数字で客観的に理解する、3)社会にはたくさんの仕事や役割があることを知る、4)大人と同じ活動を経験することで家族の仕事に対する感謝の気持ちをもつようになる、5)チームワーク次第でいい結果が出せることを自覚する、といった効果が期待できる。
プログラムの前後には、学習効果を測定し、子どもたちの心の変化を検証する。
起業家教育プログラムは、高校生や大学生向け等、社会人になるまで継続して実施していくが、小中学生での教育はその土台を作る大切なもの。アクティブラーニング探求の学習として早期起業家教育の導入を検討してほしい、と締めくくった。
令和2年度の起業家教育プログラム実施事例
次に、令和2年度の実施校である和洋九段女子中学校、狛江第三小学校の2校の実施事例を紹介。
和洋九段女子中学校
和洋九段女子中学校では、中学3年生を対象に総合学習の50分×7コマで実施。同校は中高一貫校であり、高校1年の総合学習として長野県に行き、現地の社会課題を見つけて解決策を考える研修を実施している。早期起業家教育のプログラムを加えることで、翌年度に取り組む研修により具体性・現実性をもたせられるのではないか、と実施した。
プログラムでは、生徒は6人1組で会社を作り、「高1の研修旅行で使用するTシャツまたはパーカーのデザイン」をテーマに商品を企画。条件として、SDGsのロゴを必ず使用することとした。コロナ禍で実物の商品製作や販売が困難となったため、オンラインでデザイン案をプレゼンし、投票機能を利用して模擬通貨でオンライン販売する形での実施となった。
効果として、グループワークの役割分担で自分の得意分野のアピールやお互いを認め合う動きができたこと、事業計画を立てて融資相談を体験し、アイデアを実現する方法を数字とともに考える体験ができたこと、決算で利益を計算し、計画の大切さを学べたことなどを挙げた。
昨年度にプログラムを終えた生徒たちは、この11月に研修旅行を迎える。このプログラムの経験がどのように生かされるかが楽しみだ。
狛江第三小学校
狛江第三小学校では、総合的な学習の時間を使い、4クラス(特別支援学級1クラスを含む)約90名が16社に分かれて学習に取り組んだ。
最初に、子どもたちの起業への興味を高めるため、近隣の起業家を招き、起業やビジネスの面白さについての講義を実施。その後、「狛江市をPRするグッズをつくろう」を課題として、保護者を対象に調査活動を行ない、事業計画を立て、商品を企画。その際、予算内で商品のサンプルを作るための材料を展示して、子どもたちがものづくりをイメージしやすいように工夫した。つぎに、銀行の協力のもと、実際の融資相談を体験して、融資が下りたチームから商品づくりとCMを制作に取り組み、最後に保護者を招き、販売会を行なった。
チームごとに会計、販売マネージャーなど役割分担し、それぞれ自分の得意なことを担当することで自信がつき、楽しく意欲的に学習に取り組めていたとのこと。その後の進学先として、起業家を多く輩出している学校を調べて実際に進学した子どももいた。
支援対象校は10月中に決定、専用ページで事例を公開
令和4年度に早期起業家教育プログラムを実施する学校の募集を9月末まで行なった。主な支援として、令和3年度中に、各学校の希望する授業数やテーマに即し、プログラムの原案を策定に向けて、教職員向けの教育、協力企業への提案や交渉を事務局がサポートする。また令和4年度の実施時には、授業の運営をサポートする。実施対象校は10月中に公表を予定し、プログラム実践事例などは専用ウェブページにて公開していく。
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