すべては「iPhoneの存在」ありき。組み立てられたアップルの戦略【西田 宗千佳】
SoCを「Aシリーズ」「Mシリーズ」で見ると……
ここで重要なのは、iPhoneにもiPad miniにも「M1」は使われなかったという点だ。
アップルはMacもARM系アーキテクチャに移行中であり、そこで使っているのは「M1」だ。M1はiPhone用のSoCである「Aシリーズ」をもとにした兄弟のような存在だが、CPU・GPUともにコア数が多く、アップルも「Macに合わせた最適化をおこなっている」と説明している。春に発売された「iPad Pro」はM1を使っていたため、他の製品でどうなるか……という話はあったのだが、結果的にハイパフォーマンス路線の製品でのみM1を使い、量を作る製品ではiPhone由来のAシリーズを使ってきた。筆者的には予想通りの展開である。
テックメディアを見ているとハイエンド製品やMacなどに注目しがちになるが、圧倒的に数が出るのは生活必需品に近いスマホ、そして低価格な製品である。iPhoneは数を作ることで性能・品質上有利な立場を維持し、iPadはその価値を活かしてコストパフォーマンスと生産性を高める……という戦略にあるわけだ。
その上で、iPad miniを「最新のiPhone」、第9世代iPadを「iPhone SE」に見立てると、それぞれの位置付けも納得しやすくなる。
逆にいえば、こうしたモデルは「最新のiPhoneの販売数が高水準である」ことに依存している。「あまり差がない」という指摘はあり、それも納得できる部分があるのだが、「経年変化の形でiPhoneが売れていく」モデルが崩れない限りは、今の流れが変わることはない。変化が起きるとすれば、急激にではなくじわじわ変わる。その兆候を、アップルはどう判断していくのだろうか。
iPhoneと紐づく「Apple Watch」「フィットネス」の市場
もう一つおもしろいと感じたのが「iPhone 13 Pro」でのディスプレイだ。最高120Hzでの描画に対応しているが、それだけでなく、10Hzから120Hzの間での可変フレームレートになっている。単にユーザビリティを上げるのではなく、消費電力を下げる方向でも工夫しているのがポイントだ。
この技術はApple Watchで使っているものを応用しているわけだが、スマホのディスプレイデバイスへの活用は始まったばかり。サムスンとアップルが先行して導入している状態ではある。どちらも「ハイエンドスマホをたくさん売る企業」であり、ここでも数の力が効いている。
さらに、Apple Watch自体が現状フィットネスニーズを背景に好調である、という点も指摘しておく必要がある。新型の「Series 7」は、ディスプレイサイズの大型化を中心とした比較的シンプルなバージョンアップだったが、スマートウォッチの中ではいまだ圧倒的に強く、「画面サイズ」「充電時間」「堅牢性」といった弱点を解決していけば伸びる……という判断があるのだろう。Apple Watchとフィットネスのセットニーズが続く限り「母艦」としてのiPhoneニーズも続くわけで、訴求もあくまでセット、ということになる。
アメリカなどでは、「個性の強いトレーナーの人気を活かしたオンラインフィットネスサービス」市場が盛り上がっている。エアロバイク・フィットネスからブレイクした「Peloton」が代表格だが、アップルの「Apple Fitness+」もそのフォロワーであり、アップル製品とのシナジーをテコに利用者が伸び始めている。
トレーナーの個性とその浸透が必要なので、どうしてもPelotonに馴染みの薄い日本では特別なものに見えるし、日本に馴染むようなローカライズも必要になるだろう。それにはコストも時間もかかるので、現状日本での展開予定は公開されていない。
だが、海外においては「iPhoneを軸にしたフィットネス需要」がブロックが組み上がるように存在し、アップルとしてはそこを強くアピールし、広げたい意志があるのは認識しておいてほしいと思う。
そういう観点でみると、今回発表されたハードウエアが「iPhone」「iPad」「Apple Watch」であったことは必然なのである。
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