すべては「iPhoneの存在」ありき。組み立てられたアップルの戦略【西田 宗千佳】
今年もiPhoneの新モデルが発表される時期がやってきた。昨年はコロナ禍での生産ライン構築などの事情もあって発売が10月、11月と「2段階」になったが、今回は全モデルが同時に市場に出回る。
一方、プラスのサプライズとも言えたのが、iPadの新モデル、特に「iPad mini」が完全リニューアルした形で登場したことである。これらの製品がどのような内容であり、そこからどのような意図が読み取れるのかを分析してみよう。
数の力で性能・品質を引っ張る「iPhoneドリブン」モデル
今回発表された製品を俯瞰してみると、「今のアップルはやはりiPhoneをベースにした会社なのだな」という印象が強くなってくる。
まず、使っているSoCが基本「iPhone由来」だ。iPhone 13シリーズとiPad miniは最新の「A15 Bionic」で、第9世代iPadはiPhone 11シリーズ(2019年発売)で使われている「A13 Bionic」だ。
iPhoneの基本戦略は「大量に同じものを作ることを前提に、その時の最新のプロセスで高性能なものを調達する」ことにある。だから、A13 Bionicは2019年時点でスマホ向けで最強のSoCだったし、今でも性能はあまり陳腐化していない。アップルはiPhone 13 Proシリーズに採用している「GPU5コア版A15 Bionic」を、カタログでは「スマートフォンで最速のチップ」と表記している。少なくともGPUについては、今の状況を俯瞰しても、アップルの主張はそこまで外れていないだろう。
トランジスタ数は、iPhone 13用(GPU4コア)での比較で、昨年の「A14 Bionic」の約27%増(150億トランジスタ)、1秒当たりの処理能力は約44%増(毎秒15.8兆回)と順調に機能アップしている。
今回、カメラの機能として搭載された「シネマティックモード」は、高くなった性能を存分に活かした機能だ。静止画で行ってきた「画像解析により被写体と背景を分け、深度情報をつけてボケ味をつける」という要素を動画でも展開する。動画の場合には単にフォーカスが変わるだけではダメで、「いかにそれを楽に使えるようにするか」という観点が必要になる。
動画で注視点に合わせてフォーカスをずらして視線を誘導していくという手法は、本格的映像制作では基本的なものとはいえ、簡単に「撮るだけ」で実現するのは難しい。画像認識による「自動化」アプローチを組み込み、さらに、深度情報を使った「フォーカスの後調整」を入れたのがシネマチックモード、ということになる。1つ1つの発想は他のスマホや過去の静止画などでもあったものだが、それをきれいにまとめ上げている点がアップルらしい。もちろん、実際の効果や画質は、実機で試してみないとわからないのだが。
とはいえ、この機能が「A15 Bionicがパワフルであるからできること」であり、それが最上位機種だけでなくiPhone 13シリーズ全てで実現されている点は非常に興味深い。
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