第43回
災害への課題対応から生まれたロボットソリューション開発ハードウェアスタートアップ
10万円クローラユニット、農家を救うねこ車電動化に手ごたえ アジャイル開発目線でニーズを解決するCuboRex
株式会社CuboRexは、雪上や農地といった不整地で活用できる移動・運搬ロボットシステムの開発・製造を行っている。例えば、山間地で栽培される果物などの農作物の収穫には、「ねこ車」と呼ばれる手押し一輪車が利用されることが多いが、利用には肉体的な負担が高く、就農者の課題の一つとなっていた。こういった負担を軽減するため、同社ではねこ車電動化キットや、災害支援ロボットの足回りに利用できる小型クローラユニットを開発。不整地のパイオニアを目指し、課題解決に取り組んでいる。
大学での災害救助ロボット研究から始まった新潟発スタートアップ企業CuboRexの代表取締役 CEO/CTO 寺嶋 瑞仁氏に話を伺った。
災害現場での現実解を目指したことから創業
CuboRex創業者の寺嶋氏は、大学在学中に東日本大震災などの災害派遣用のロボット開発を行っていた。当時の開発は、事前に想定された状況および目的に従って最大の効果を発揮するものが主流だったが、実際の被災地の状況は千差万別であり、対応できるシーンは限られ、またそのような各環境に最適なロボットを複数抱えることも現実的ではなかったという。
一方で、被災地では災害レスキュー・ロボットの到着を待つことなく、現地にあるものを使ってツールを作り、日常生活を取り戻すために使っている大工やエンジニアたちがいた。それを見た寺嶋氏は「自分が開発したシステムを適用できる場面を探すのではなく、現場で廃材などを組み込んでその場の支援に貢献できるシステムを作ればよい」というアイデアに至る。
現場でツールを作るにしても、さすがに制御回路や駆動システム、エンジン回りを被災地で作り上げるのは難しい。そこで特定部位をあらかじめユニット化しておけば、その場その時に求められるものをすぐに制作できる。さらに、普段はそのユニットを日常業務に役立てるようにしておけば、災害発生まで救助用ロボットを保管しておくなどの無駄を生じさせずに済むというわけだ。
このようにして生まれたのが同社の汎用電動クローラユニット「CuGo」(キューゴー)だ。小型でありながら高い走破性を持ち、農地などの不整地で大人が乗っても走行可能なパワーがある。日常では農作業で用いる運搬具として用いながら、災害時にレスキューロボットの駆動ユニットとして利用できる。
同ユニットは、CuboRexやPCショップのウェブサイトを通じて、1台108,900円から購入可能。このようなユニットをイチから開発するコストに比べるととんでもないコストパフォーマンスであり、またカスタム性が高く、除草剤散布ロボット、下水プラント清掃ロボットなどでの利用のほか、当初の想定以上に、大学・高専・スタートアップ・大手企業の新規事業部門など、研究開発機関で開発のために購入もされているという。
手押し車の電動化が持続可能な農業を生む
そして、CuboRexのもう一つの主力製品がねこ車の電動化キット「E-cat kit」だ。これは寺嶋氏がミカン農家で働いていた経験から生まれたもので、山間地や傾斜地で利用されている一輪手押し車を高齢者は女性などパワーのない人でも楽に使用できるようにと開発された。
電動手押し車は他社からも発売されているが、人力手押し車に比べてかなり価格が高くなっていることが多い。そこでCuboRexはすでにあるねこ車に取り付けて電動化できるキットとして販売することで、コスト負担の軽減を狙っている。
だが、E-cat kitの潜在顧客である高齢者にとっては、いくら簡単に取り付け可能なキットになっている(初めてで1時間半、慣れてくれば30分程度で取り付け可能)といってもハードルが高い。そこでCuboRexは農業協同組合(JA)と組んでの販売を行っている。
E-cat kitは湯沸かしポットや電子レンジのように購入したら誰もがすぐ使えるような製品ではない。スマホのように、自分の使い方にあわせたオプションとともに購入し、先達から使い方を教えてもらいつつ利用するものと寺嶋氏は話す。キャリアとそのショップのように、CuboRexとJAが二人三脚で販路を開拓し、不整地における農作業の効果的な支援を探っている。
この電動化ねこ車を使うと、「ミカン農家では収穫作業の時間が約半分、作業にかかる労力が3分の1くらいに」なると寺嶋氏。また、E-cat kitをゴミの運搬車に適用して海岸ごみの回収を行ったところ、17人分の作業を1人で行えるようになったように、すでに多数の貢献実績も見えている。
顧客ニーズ起点のソリューションプロバイダーを目指す
ハードウェアスタートアップでもある同社は、その開発にも工夫を重ねている。大きな技術開発リソースを社内に抱えるのではなく、Facebookなどでコミュニティグループを運営し、そこに集まるエンジニアやパートナー企業とともに製品の改良やビジネスの構築に活かしている。
「疑似的に開発人員が数百名いる状態で、顧客同士で教えあい、トータルのサポート力がどんどん上がってきている状態。最終的には不整地産業に係る全ての事業者が、自分自身で自分の欲しいものを作って利用することが当たり前となった世界を作ることを目標としている。そのために顧客を開発仲間として捉え、コミュニティグループを通じて(顧客の持つ)課題にフィットできるものを作り上げることにコミットしている」(寺嶋氏)
直近では、大規模太陽光発電で用いるソーラーパネルの下に除草剤を散布するロボットを薬品メーカーとともに共同開発した。これもCuboRexがシーズからソリューションを開発したのではなく、メガソーラーの保守・運営企業と薬品メーカーが抱えている課題・ニーズが起点となったものだ。
コミュニティを活用し、自社技術によるハードが生み出すソリューションを開発する。テクノロジー主導のハードメーカーから、顧客ニーズを基盤にソリューションを提供するサービスプロバイダーへの脱皮を目指すCuboRexのこれからに期待したい。
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