世界初のデュアル水冷BTOパソコンといった個性的なモデルを販売し、数あるBTOパソコンメーカーの中でも存在感を示しているのが、「サイコム」。1999年の創業から20年以上、BTOパソコンを扱っている古株メーカーだ。
そのサイコムが、今年5月にコーポレートアイデンティティーを刷新。新デザインのロゴと同時に「クラフトマンシップ」をキーワードに掲げ、「自己満足に終わらない、こだわりを持った職人集団になる」ことを目指すという。
今までと何が違うのか、どう変わるのかといった話から、気になる新モデルの情報まで、代表取締役 河野孝史氏、プロダクトマネージャー 山田正太郎氏の両名に伺った。
納期が長くなる代わりに、さらなる品質で期待に応える
サイコムのBTOパソコンの特徴は色々とあるが、中でも特筆すべきは、BTOメニューが豊富でカスタマイズの範囲が広いこと。
一般的なBTOパソコンメーカーの話をすると、カスタマイズ可能といってもメモリーやSSDの容量変更、ビデオカードに搭載されているGPUの指定といった程度に限られているのがほとんどだ。
その点サイコムは、同容量のSSDでも異なるメーカーのパーツが選べるほか、同じGPUを搭載するビデオカードを複数用意するなど、製品型番を指定してのカスタマイズが可能。細部にまでこだわれるため、BTOパソコンというよりも自作PCに近い感覚で注文できる。
注文する側としてはありがたいのだが、パーツが変われば組み立て方も変わってくるため、製造する側の負担が大きくなるのは容易に想像できるだろう。
「CPUやメモリー、SSDくらいならどれも形状は同じなので、大きな違いはありません。しかし、例えばCPUクーラーだと、標準のリテンションで取り付けられるものもあれば、バックプレートから交換しないといけないものもあります。ソケットによって使う固定具も変わりますし、同じ手順で取り付けられるとは限りません。また、マザーボードも製品が変わればフロントパネルコネクターなどの位置が違い、ケーブルの取り回しまで変更が必要です。もちろん、指針となる標準手順は作成してありますが、正直、これだけですべての注文に対応できないでしょう。高品質な組み立てを維持するには、豊富な知識と熟練した技術を持つ、技量の高いスタッフの存在が不可欠です」(山田氏)
単純に配線するだけなら初心者でもできるが、サイコムの組み立ては裏配線を駆使しているのが特徴だ。しかも、後々HDDなどの増設がしやすいように電源ケーブルの取り回しが工夫されていたり、着脱できる結束バンドで組み直しやすいような配慮まである。さらに、太いケーブルを手前にし、その陰に隠れるよう細いケーブルを取り回す、といった美しく見せるためのテクニックなども駆使されているのだ。熟練した技術が必要だというのも当然といえる。
「会社としては、誰が組み立てても高品質ですよと言いますが、お客様からすれば、誰が責任もって組み立てたのかが分かるほうが、安心できるわけです。いくら会社が高品質だといっても、それが独りよがりになってしまっては意味がありません。それなら、スタッフ一人一人がプロフェッショナルとして責任もってお客様に届ける、という気持ちになれるようにしよう、と考えました。作り手の意識を高め、より高品質な製品を送り出せるようにする……それが今回掲げた“クラフトマンシップ”です」(河野氏)
ただし、サイコムは少数精鋭で生産していることもあり、1日に組み立てられる台数には限りがある。もちろん、技量の高いスタッフはそう簡単に増やすこともできないため、受注が増えればそれだけ残業時間が長くなってしまい、負担が大きくなる。月に数日といったペースならいいだろうが、それが毎日続くとなればミスも増えてしまうし、なにより、労働環境として良くない。
また、今までは短納期、納期厳守を前面に押し出してやってきていたが、こればかりを重視してしまうと、納期さえ守れればいいだろう、というやっつけ仕事になってしまうのではないか、という不安もあったという。
「こういった状況を改善しようと、納期を可変にしました。注文が集中する昨年末には最長で40営業日にまで延びてしまい、お客様に迷惑をかけることになってしまいましたが……。これは社内でも色々な意見や反対もありましたが、それでも、短納期を守って組み立ての微妙なPCが届く、不良率が高くなるという品質の低下を危惧したわけです。ただ、納期が延びただけではお客様にとってマイナスしかありません。そのぶんは、しっかりと今まで以上の品質で返せるよう取り組んでいます」(河野氏)
会社として、スタッフを大切にする。そして、組み立てだけではなく、動作検証、梱包、サポート、購入相談、バックヤードまで、全員が仕事に対してプロフェッショナルとなり、製品の品質を上げていく。それによって購入者の満足度も高めていく、期待に応えていこうという取り組みが、“クラフトマンシップ”の真の狙いと言えそうだ。
ちなみに、クラフトマンシップを掲げた特設ページには、「弊社は売り上げを追い求めません。販売台数の増加にも挑みません。また、事業規模の拡大も目指してはおりません」と書かれているが、これはちょっとカッコつけてしまった(河野氏談)とのこと。
とはいえ全くの嘘偽りではなく、利益ばかりを追求してしまえばスタッフの負担は増えるし、品質の確保も難しくなってしまう。うまく回っている間はいいが、どこかで躓いてしまうとそこで破綻し、誰も幸せになれない未来になってしまうだろう。
そうならないためにも、BTOパソコンの職人集団としてを第一に、さらにこだわったメーカーになるという心意気の表れが、このコーポレートアイデンティティーの刷新といえる。
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