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技術で勝って産業で負ける、そうならないよう量子においてはオールジャパンで臨む

2021年06月28日 09時00分更新

「これまでの日本は、『技術で勝って、産業で負ける』と指摘されていた。量子においては、オールジャパンの体制で挑み、量子イノベーション技術立国の実現を目指す」

(量子技術による新産業創出協議会設立発起人会の綱川智会長)

日本を代表する大企業がそろい踏み

 「量子技術による新産業創出協議会」の設立発起人会が創設された。

 協議会の設立総会は、2021年7~8月を予定しており、産学官の関係者が一堂に会し、量子技術に関わる基本原理や基本法則を改めて整理。その応用可能性や、必要となる産業構造、制度、ルールなどに関する調査、提言を行い、新技術の応用と関連技術基盤の確立に取り組むことになる。

 設立発起人会参画企業は、JSR、第一生命ホールディングス、東京海上ホールディングス、東芝、トヨタ自動車、NEC、NTT、日立製作所、富士通、三菱ケミカルホールディングス、みずほフィナンシャルグループの11社。協議会には、内閣府や総務省、文科省、経産省、経団連、産業競争力懇談会(COCN)のほか、関連する業界団体がオブザーバーとして参加することになる。

 設立発起人会の説明会には、設立発起人会参画企業の会長、社長など、企業トップがこぞって出席。量子技術の応用を通じた新たな産業の創出に向けて、まさにオールジャパン体制で、本気で取り組む姿勢を示してみせた。

 設立発起人会の会長に就いた東芝 取締役会長代表執行役社長CEOの綱川智氏は、「これまでの日本は、『技術で勝って、産業で負ける』と言われてきた。だが、量子の時代においては、技術面での進化だけでなく、まずはできるところから始めるというスピード感を持ち、世界をリードしていく必要がある。量子技術による新たな産業の創出にも貢献したい」と発言。さらに、綱川氏は、「量子技術に基づくコンピュータ、通信、シミュレーションなど、日本は、世界をリードする技術を多数有している。量子時代において、日本が海外と伍していくには、量子技術で様々なユーザーを接続するネットワークである量子スーパーハイウェイの社会実装を、早期に進めることが必要である。これは1社では実現できるものではなく、まとまって作りあげる共創の精神が必要だ。ユーザー企業を巻き込み、どう使うのかといった協働を進めていくほか、協議会には、より多くの企業、専門家に参加してもらうことになる。ここにオールジャパンという意味がある」とする。

 そして、その一方で、「世界に目を向けると、すでに様々な国が量子技術の開発にしのぎを削り、投資を拡大している。量子技術は中長期の産業競争力や国家安全保障を左右する技術である」とも指摘する。

 先ごろ行われた日米首脳会談でも、量子科学技術の研究、技術開発における日米の連携強化を確認しており、いまや量子は次世代の重要な技術に位置づけられている。

 そうした動きを捉えて、協議会の設立に向けては、次のような趣旨を示している。

 「今後20~30年は人類にとって大きな転換点になる。地球温暖化問題への人類の挑戦が本格化するとともに、量子技術に基づくコンピュータ、通信、シミュレーションなどを利用した産業が次々と生まれはじめる。量子技術は、古典的手法を陵駕するものとして、1980年代から注目されはじめ、21世紀になって、その開発が一気に加速している。2050年が開発時期と言われた、誤り耐性量子コンピュータは、関連技術の応用がすでにはじまっており、まさに、いまが量子時代の分岐点になっている」と指摘。その上で、「来る量子時代に向けて、日本は技術などにおける優位性を生かし、コンピユータ、通信、シミュレーションなどを利用し、サービスなどを含めて新産業を創出することで、グローバルで確固たる量子イノベーション立国としての地位を確立し、新しい時代に貢献し、リーダーシップを発揮することが求められる。科学技術の発展への貢献を通じて、日本の産業を振興し、国際競争力を強化し、国民の安全、安心を確立しなくてはならない」と述べている。

 政府は、2020年1月にまとめた量子技術イノベーション戦略に基づき、産学官が基礎研究から社会実装に向けた取り組みを進めている。今回の取り組みもその延長線上にある。

 内閣総理大臣補佐官の和泉洋人氏は、「量子技術は経済社会に変化をもたらす重要な基盤である。この協議会は、日本の将来を担うものであり、政府と連携を深め、日本の強みを生かし、産業化や事業化を促進する中核的な役割を果たすことを期待している。政府も政策面でしっかりと連携をしていく」とする一方、「ベンダー企業以外にも様々な産業のユーザー企業が参加し、議論を深め、顕在化していない社会課題を明らかにし、社会変革を引き起こすことができる新産業の創出に期待している」と述べた。

 量子技術による新産業創出協議会では、事業目的として、「量子技術の基本原理、基本法則に立ち戻り、これらを正しく理解し、その応用可能性を見出し、最終的に産業応用するための企画、検討を行う」ことを掲げる。

 具体的な事業として、「量子技術の動向に関する調査・研究」、「量子技術の産業活用に関する調査・研究・提案」、「量子関連技術に関する調査・検討」、「量子関連人材に関する調査・企画・提案」、「制度・ルールについての調査・検討」をあげており、産業界トップ層での情報共有の強化や、量子技術に必要となる材料、デバイスなどについての調査、関連する人材育成、知財戦略や標準化、普及広報、政策提言などを行う。

 現時点で有望と思われる量子アルゴリズムとして、「量子波動・量子確率論応用」、「量子シミュレーション(連立方程式、変分)」、「最適化・組合せ問題(量子アニーリング)」、「量子暗号・量子通信」をあげ、「関連量子アルゴリズムごとに正しく理解し、産業への応用可能性について、調査、検討を行うための部会を設置する」とする。量子マテリアルや量子生命、医薬、量子バイオ、量子センサー、量子AIなどの「重要応用領域」にも焦点を当てる考えだ。

 今回の「量子技術による新産業創出協議会」は、日本の企業が各社個別に行ってきた取り組みの方向性を一本化するとともに、研究開発領域だけに留まらず、産業化を推進する点が特徴だ。そして、テクノロジー企業だけでなく、様々な業種の企業が参加している点も特徴となる。

 量子技術は、広範囲な産業分野に対して、大きなインパクトを与えると想定されているが、テーマによっては、研究から事業化するまでが長期化することがある。

 NTT取締役会長の篠原弘道氏は、「量子の研究者と産業分野のメンバーが早い段階から連携し、研究と社会実装に向けた準備を並行して進めることが重要であり、その点でも、様々な企業が参加する協議会の役割は意味がある」と語る。

 2003年から量子暗号通信の研究を開始した東芝、約20年間に渡り、量子コンピュータ、量子暗号通信の研究を継続してきたNEC、2021年4月には理化学研究所とともに、理研RQC-富士通連携センターを設立し、1000量子ビット級を目指す取り組みを開始した富士通、量子コンピュータの大規模集積化につながるシリコン半導体を用いた量子ビットアレイの基本構造の試作にいち早く成功した日立、自ら理論量子物理研究センターを持ち、30年以上の研究を行ってきたNTTといった企業に加えて、次の成長には量子技術の活用が不可避だと考える自動車、金融、化学などの参加企業との連携が注目される。

 まもなく正式なスタートを迎える「量子技術による新産業創出協議会」は、日本の産業成長や国際競争力の強化にもつながることになる。

記者会見の様子

【参考】説明会への参加者一覧

JSR 取締役会長の小柴満信氏
第一生命ホールディングス 取締役会長の渡邉光一郎氏
東京海上ホールディングス 取締役会長の永野毅氏
東芝 取締役会長代表執行役社長CEOの綱川智氏
東芝 執行役上席常務の島田太郎氏
トヨタ自動車 代表取締役会長の内山田竹志氏
NEC 取締役会長の遠藤信博氏
NTT取締役会長の篠原弘道氏
日立製作所 執行役会長兼執行役社長兼CEO の東原敏昭氏
富士通 代表取締役社長CEO兼CDXOの時田隆仁氏
三菱ケミカルホールディングス 取締役会長の小林喜光氏
みずほフィナンシャルグループ 取締役会長の佐藤康博氏
内閣総理大臣補佐官の和泉洋人氏

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