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TISのXR技術で空間コミュニケーションを提供するソフトウェアソリューション

360度カメラで撮影した空間の中をアバターで自由に見学できる「XR Campus - ツアー」

2021年06月28日 09時00分更新

 コロナ禍で社会活動が制限されるなか、非対面でのコミュニケーション手段としてXR技術への期待が高まっている。TIS株式会社は、XR技術を活用して空間コミュニケーションを提供するXRソフトウェアソリューション「XR Campus」を掲げており、第1弾の「XR Campus - ツアー」は、観光旅行のガイドツアーや施設見学をバーチャルに体験できるものとしてトライアルサービスを提供開始している。

 XR Campusは、同社のインキュベーションセンターにて立ち上げつつある新規事業でもある。TIS テクノロジー&イノベーション本部 インキュベーションセンター 主査 加藤 里奈氏と同テクノロジー&イノベーション本部 インキュベーションセンター 主任 梅谷 麗氏に、XR Campusの開発経緯とサービスの特徴について伺った。

 TISのR&D部門である戦略技術センターでは、2017年からXR技術の研究、2019年から東京大学 先端科学技術研究センター 身体情報学分野 稲見研究室とともにXRの共同研究を行なっている。XR Campusは、この共同研究から得られたノウハウ等も活かして開発されたものだ。360度動画の中にユーザーがアバターとして入り、同じ空間の中でそれぞれのアバターが動き、会話することで、よりリアルに近い自然なコミュニケーションが体験できる。スマホやタブレット、PCのブラウザーで利用でき、ゴーグルやコントローラーなど特別なデバイスは不要だ。

TIS テクノロジー&イノベーション本部 インキュベーションセンター 主査 加藤 里奈氏

TIS テクノロジー&イノベーション本部 インキュベーションセンター 主任 梅谷 麗氏

 第1弾のXR Campus - ツアーは、旅行や施設案内を想定したもの。新型コロナウイルスの影響で旅行や観光が制限されるなか、旅行会社などによるオンラインツアーが企画されているが、ZoomやYouTubeによる一方通行な配信がほとんどだ。音声やテキストチャットは可能であっても、現実のコミュニケーションのような、声に出さない表情や動きといった非言語情報は伝わらない。旅行の醍醐味である、人が同じ場所に集まっている臨場感が味わえず、もの足りなさを感じてしまう。

 同サービスでは、360度カメラで撮影した空間の中に、ガイド役と参加者がそれぞれアバターとして入り、それぞれのアバターの位置や視点を動かしながら、空間内を自由に見学できる。静止画の3D空間ではなく、360度動画を使用しているのも特徴で、ユーザーは何もしなくてもガイドの案内に従って画面が動いていく。アプリの操作に不慣れなユーザーでも、自分のスマホやタブレット、PCからログインさえすればツアーに参加できる。

 ガイドの誘導に従って全体の場所は動いていくが、スワイプすると視点が変わり、空間の中を動くことができる。案内されたスポットや施設内を歩き回り、自分の見たいものをじっくり見学しながら、ガイドやほかの参加者(アバター)の動きや声から別の関心や感想を知ることができるのは、まさにリアルのガイドツアーに近い感覚だ。

 ガイド側にも、それぞれのアバターの姿が見えているので、困っていそうな人がいれば個別に声をかけやすい。

それぞれのアバターは空間の中を自由に移動して、視点を変えられる。集合写真の撮影(画面キャプチャ―)も可能だ

配信側(ガイド)は人型アバター。ゲストはシンプルなキャラクターのアバターになる

 コミュニケーション機能としては、音声とテキストによるチャットのほか、リアクションボタンを使って、驚き、笑い、いいね、拍手、ハートといった感情を表現するアイコンの表示、アバターがジャンプするアニメーションによる表現が用意されている。

 XR Campus - ツアーは、企画に合わせて撮影した360度動画を空間にセットにして、ツアー企画者のガイド画面と一般ユーザー側のアプリとして提供される。360度カメラで撮影した動画を使うことでCGに比べて制作コストが抑えられ、数週間での納品が可能だ。現在トライアル価格として、99万円(税抜)から提供している。ツアーの参加人数は1空間に50人予定で、1つのコンテンツで複数回のイベントを開催すれば制作費分が割安になる形だ。同社側での撮影に加え、360度動画の持ち込みにも対応。その場合、価格は45万円(税抜)からとなる。

 

 サービスの企画当初は旅行会社向けにツアーの代替としての利用を想定していたが、2021年3月に出展したXR総合展でデモを体験した方からは、企業の施設見学に使いたい、という意見が多かったそうだ。ビジネス上の視察であれば、移動時間や交通費の削減にもなり、コロナ後の活用も期待できる。また、桜の開花や紅葉など季節や天候に左右される場所の旅行、収容人数の限られるバックヤードツアーや工場見学、一般公開されていない国宝や遺産めぐりなど、リアルでは参加が難しいツアーがバーチャルで体験できるようになると楽しい。

 今後は、空間内に表示されたパネルから他サイトへのリンク機能、リアルタイム配信などの機能の実装も検討されている。たとえば、ECサイトなどと連携して、観光から買い物の決済まですべてXR空間で完結できるようになれば、ツアーの主催者だけでなく地域にもお金が落ちる仕組みがつくれる。XR Campusシリーズの第2弾として、催事や販促などイベント系サービスも検討しており、2021年9月にPoCを実施する予定だ。


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