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「ドライブスルー八百屋」で話題のフードサプライ、目標は「生鮮のラストワンマイル」

 昨年4月7日、コロナ禍で最初の緊急事態宣言が発令された。外出の自粛要請でスーパーから商品が消える一方、“密”への不安も煽られた。いったいどこで食料が確保できるのか? その大問題を解消すると一躍人気を呼んだのが、通称「ドライブスルー八百屋」だった。

 ドライブスルーでセット野菜を売る!? そんな斬新なアイデアで、コロナ禍の物流に風穴を開けたのはフードサプライ。“YASAI LIFE LINE”というキーワードを掲げ、自社を青果の物流企業ではなく「野菜のライフラインをつくる企業」「新しい流通をつくる企業」と定義して、新しい流通モデルを構築し続けている。革命的な「ドライブスルー八百屋」の誕生秘話と注目の新規事業について、元ウォーカー総編集長の玉置泰紀が聞いた。

今回のチャレンジャー/株式会社フードサプライ 代表取締役 竹川敦史

宣言発令と同時に「ドライブスルー八百屋」始動

 新型コロナ日本国内初の感染者が確認されたのは、2020年1月15日。未知のウイルスの感染拡大に漠然と怯えるものの、まだどこか他人事のように思う人々も少なくなかった4月7日。政府は初めての緊急事態宣言を発令した。突然の外出自粛要請に、ただただ戸惑う事業者も多くいる中、ほぼ同時に「ドライブスルー八百屋」という斬新な業態で、話題をさらったのがフードサプライだ。ピンチをチャンスに変えたそのユニークな発想、スピーディーな行動が取れた理由は何なのか。

「ドライブスルー八百屋」の「もったいない野菜セット」。品数20種以上、米5kg、卵付きで1箱5000円
※今後、価格など変更の場合あり

――なぜ発令と同時に「ドライブスルー八百屋」を開業できたのか?

「コロナの影響で売上が下がっていく一方で、緊急事態宣言が出るか? と言われたのが4月になってから。3月は、まだそんなことにはならないよ、という思いもありましたけど、その時点で万一の備えをしていたのが僕らです。実際、4月7日に宣言が出て、みんな呆然としたわけですよ。外食も卸業者も。

 みんなが何していいか分からなくなった時には、僕らは4月7日を目標に準備していて、『ドライブスルー八百屋』をオープンさせたんです」

――思い付いて3日でプロトタイプを立ち上げたとか

「売り上げがなくなることは分かり切っていて。外食も営業できない中で、どうやったら売り上げを取れるのか、どこが売れてるんだ、という話になりますよね。

 当時はスーパーの混雑が凄くて、店からモノがなくなる一方で、スーパーは密だ、行くのが怖いという報道も多かった。では、スーパー以外で青果を入手する方法は? と考えた時、面白い現象として『オイシックス』や『らでぃっしゅぼーや』といった野菜の宅配サービスが、翌日にはパンクしていたんですね。キャパシティ・オーバーです。

 そこで、お客様が野菜を買う術をなくしていたという事実から、もしかすると何か違う方法があるかも、と」

 「ドライブスルー八百屋」のアイデアが閃いたきっかけは、あのマクドナルド。店内は閑古鳥だったが、ドライブスルーは大行列。そこで八百屋さんでドライブスルーしたら面白いんじゃない? と発案したが、社内からは猛反対を浴びたという。

――意外ですね。猛反対された原因は?

「自社センターのある京浜島は、いわゆるD級立地で、そこまでお客様は来ない、成立するわけがないと。ところが、実際にドライブスルーを開催したら過去最高に人が集まって、初めて大渋滞にも(笑)。最大2時間半待ちは、さすがに怒られました」

――2ヵ月で6万人の来場者を記録したのは凄い

「当時は、京浜島に1日1000人ほど来ていましたね。自社センターは2か所しかないのですが、開始2週間で爆当たりして、1日1施設で4~500万円売り上げました。僕らも、それで減った売上が全部戻せるわけではないけど、苦しんでいる卸業者さんと協力して、何かできたら面白いよね、と」

「ドライブスルー八百屋」ヒットの秘密はシェアリングエコノミーと理由付け

――ドライブスルー八百屋が大当たりした最大の理由は?

「すべてがシェアリングエコノミーだったんですよ。まずはお客様の足をシェアリングしたこと。僕らが物流にお金をかけるところを、お客様に来てもらうなら、その分安くしますよ、ということです。

 もうひとつ人が集まった理由は、当時お客様はどこにも行けずに退屈していたこと。気分転換にもなるし、野菜を買いに行くなら出掛けてもいいよね、という真っ当な理由付けをしたのがすごく良かったんですね。僕らは物流センターを持っているので投資が要らなくて、自社のエンジニアや公式サイトを活かして、PRもお手製で素早くできましたが、こういう会社はあまりないんです。

 そして僕らの傘下には卸業者さんが、全国でたくさんいるんですよ。そこに対して一緒にやりませんか? 僕らが全部プラットフォームを用意して、予約も全部引き受けますから、と持ち掛けました。

 例えば、お客様が足立区に100名いるから、そこで販売するためにひとつの集合体を作りましょう、といって1ヵ月で30施設作ったりもしました」

――フードサプライの事業自体が流通革命。直接の農家買取もあれば、自社農場もあり、市場からの買い付けもある。非常に幅広く青果全体を動かせる仕組みをワンストップで持つからこそ、「ドライブスルー八百屋」のようなアイデアをすぐに実行できた

「いろいろ新しいことをやろうと考えていたので、そういう意味で言うと動きやすかったです。また僕らは、農家さんとのつながりだけではなくて、飲食業界とのつながりを大切にしていたことも一因ですね。青果店だけでなく精肉店、鮮魚店も困っているし、野菜を買う人は肉も魚も欲しいはずという発想で、ポータルサイトを立ち上げました。僕らが全て予約もまとめるスタイルは、卸業者さんにも非常に喜ばれました。さほど儲かってはいないけれど、いい事業だったと思います」

――さらに飲食店やショップで野菜を売る「八百屋PLUS」とは?

「当時は飲食店の従業員の方が余っていた。協力金も出ないし、何かをしなきゃいけないけど、何もできないという話なら、僕らの野菜を売ってもらえませんか? と。従業員のシェアリングエコノミーですね。『僕らは場所もないし、人もいないから何もできなくて』と言うなら、その良い立地で野菜を販売しましょうよ、と。野菜の販売に対しては、肉や魚と違って免許が要らないので、明日からでもできる。100店舗を出したあの当時は、2~3ヵ月が勝負で、今の窮地をとにかく打破しなくちゃいけなかったので」

「ドライブスルー八百屋」は飲食店だけではなく、ジーンズショップチェーン等ともコラボした。

――「八百屋PLUS」はスーパーとはまた違いますね

「儲かるかどうかと言えば、儲かりはしません(笑)。儲かるなら事業でやればって話です。では、儲からないけど何がいいのか。それは従業員教育と従業員意識向上になり、お客様をつなぎ止めることができること。非常事態宣言が解除された時に、お客様との絆が深まるはずですよね、という話をさせてもらったら賛同者が増えたんです」

ニーズをつかむ旬野菜の宅配サブスク「青果日和」

「青果日和」の旬野菜のサブスク「青果ボックス【周期が選べる定期お届けコース】」初回価格4298円。およそ15種の野菜が届く
※今後、価格など変更の場合あり

――昨年9月には「青果日和」も立ち上げて、オンラインでの新しい野菜の物流=宅配サブスクリプション(定額制)を打ち出していますね

「つまりはTOC(最適化)ですよね。当たったドライブスルー八百屋も、コロナ禍が終われば静まることは自明ですし、コロナ禍だからこそできることをした中で、お客様の声やお客様のニーズを捉えられた、お客様の個人情報をある程度キャッチできたということが大事です」

――6万人の個人情報は大きい

「ドライブスルー八百屋も、この6万人だけで満足できないことは分かっていました。コロナ禍後に、この急場しのぎで行った事業を無駄にしないために、通販よりもサブスクでなら、これまでの経験が活かされると考えて『青果日和』を始めたんです。これは自社だけでやるよりも、周りも巻き込めばもっと面白くできる、と業界最大手のデリカフーズさんと組みました」

――自社だけでやろうとしないところがすごく面白い

「自社だけでは時間が掛かるんですね、全てに対して。自社展開だと数店舗がいいところですが、間借りしたらたくさんできますよ。よりスピーディーに思ったことを実行したい。そのためには自分たちで全部やることがベストではない、と思います」

――「青果日和」のサブスクを始めて、しかも自社農場があるので、他では見ないような野菜もたくさんある。それはすごく強みなのでは?

「大きな強みですね。今、おうち時間が増えていても、買い物時間が増えたわけではない。ということは、おうちで野菜を吟味したり、料理する時間が少し増えているんですよ。

 そこで、この野菜に対し深掘りしてもらい、同梱した珍しい野菜で家族の会話に入り込めないものかと。コウケンテツさんたちにもご協力頂き、もっと野菜に興味を持ってもらえるエッセンスを入れていこうと考えています」

――コウケンテツさんは、もともと自宅で料理することを後押しする動画で人気なので、「青果日和」とも凄く相性がいい。もし新しい野菜が入っていても、どう使えばいいのか分からないですし

「そうなんです。料理の仕方が分からないモノと、新しいモノすぎると基本的にはウケない。例えば美味しいエディブル・フラワーを出してもそうです。でも美味しいキャベツ、こだわった大根はウケる。つまり一般的なもので、かつ農家さんや製法へのこだわりがあれば、お客様には味の違いが分かりやすい。聖護院大根を入れたって、どう料理すればいいの? となるけど『メチャクチャ糖度の高い大根で食べてみたら梨みたいですよ』と言ったら面白いですよね」

――説得力ありますね! やはり昨年のデータ収集が役に立った

「僕らは、一般の野菜とこだわりのある農家と、まだあまり知られてない野菜をコンセプトにしています。そうしないと、やはりサブスクにはなっていかない。農家さんとのより太いパイプも作りたいんです。

 農家さんへのアプローチはすごくお客様に響きますね。『青果日和』では、この野菜はこの人が作ったんだよ、という農家さん推しをしています。例えば、トマトも収穫時期で味が変わるので、月を追うごとに藤井さんのトマトが美味しくなっていくのを楽しんでもらえたり。ただ美味しいだけのトマトを出すよりも、この農家さんのトマトの味の変化が面白い。それがいいんですね」

――農家の方も物流のプロではないから、新しい物流を構築するフードサプライと『青果日和』が上手く支えているようです

「そうですね。『青果日和』で感じたのは、BとCの売れるタイミングが違うということ。B to BとB to Cが売れるタイミングって実は相反します。外食がブームになったらスーパーには行かなくなりますし、その逆で今は、外食に行けないから、スーパーやおうちグルメ中心です。でも、これは農家さんたちには関係ない話です。

 となると、僕らはCとのサブスクをしていれば、Bとの契約もより契約しやすくなります。全量買いもしやすくなって、農家さんにも非常に良い、安定的な発注ができるようにもなるだろうと」

――「YASAI LIFE LINE/野菜ライフライン」を提唱されていますが、ライフラインとは生命線。野菜を上手く必要なところに適切に届けていくことが、これまであまりできていなかった。モノの流れを俯瞰で見られる会社はすごく重要ですね

「そこで行き着いたのが、サブスクだったんですね。お客様に選ばせないセット販売の方が、やっぱり農家さんにとってもお客様にとっても、結果的に良いんですよ。より新鮮で、よりこだわったものが届くのだから。

 まずは『注文する』という行動を止めること。基本的に世の中は省エネ化です。たぶん買い物や注文の時間すら無駄じゃないのか、と。『ドライブスルーに来た人が自分で注文しないことはない』という社内の反発意見もありました。僕は大根、私はキャベツが欲しいと。もちろん分かりますが、僕がドライブスルーで手応えを感じたのはセット販売なんです。

 結局、買い物が面倒くさいし時間も掛かる。同じようなモノを買いに行って、いろいろ選んでいるつもりでも選び切れてはいない。結果は大して変わりません。だからお客様の声をビッグデータとして集めていき、より進化させることが大事になっていく。セット販売をベースに要望に応じて、欲しい野菜を追加注文できるようにしよう、と考えています」

――なんだかんだで定食やコースはありがたいし、オプション追加もいい

 「よく言われるのは、味わうモノは変化するけど、自分では買えないのでありがたい、ということです。だからこちらで料理を変化させよう、旬を追い掛けてみようと。お客様にとっては、旬の追い掛け方はよく分からないけど、勝手にサブスクが追い掛けてくれますし」

――レシピや小冊子などのオマケがうれしい

「ウチの冷蔵庫にもウチの冊子が貼ってあり、野菜が届くのであわせて肉や魚を買いに行ったり。家庭によって料理は一辺倒になりがちです。でも普通なら買わない野菜がサブスクで届くから、自然に料理の幅も広がる。それを面白く捉えるか、面倒に捉えるかで全然変わってきますけど、こだわった野菜じゃないですか。

 『こだわりの野菜』という言葉からも、ウチは信じられる食材を入れているのでオススメできる。この良い輪をちゃんと広げていきたいですね。子供が野菜を食べるようになったという声をよく頂きますし、農家さんへのファンレターなども増えてくる。それがいいことだと信じてやっています」

――「青果日和」が空気のような存在で、その向こうの農家へいきなり感想が行くというのは、うまくマッチしている証拠では

「野菜の感想も、たぶん『Oisix』さんだったら『Oisix』さんの会社に行くと思いますが、僕らはしっかり農家さんを推しているので、農家さんへのファンレターはたくさん来るほどいい、と思っています」

冷凍パックスムージーでフルーツ離れとフードロスを解消

無添加・保存料不使用の野菜・果物のみで作られる自社開発の「青果まるごとスムージー」。定期コースで初回限定10食5478円~
※今後、価格など変更の場合あり

――青果日和発「青果まるごとスムージー」はどういった新しい試み?

「スムージーを作ったきっかけは『フルーツ離れ』ですね。皆さんはフルーツが美味しいって知ってるし、食べたい時もある。でもなんで離れているかというと、食べるまでの面倒くささ。例えばスイカの人気は下がっているけど、シャインマスカットは上がっている。美味しさよりも先に、食べるのが簡単だからなんです。スイカも、昔は丸ごと1個で売っていましたけど、最近はカット物が多いでしょう。

 そこでフルーツを食べる手間をどうやって削減するかを考えました。フルーツを朝摂りたい気持ちはあるけど、何より面倒くさい。スムージーも自分でいろいろ素材を揃えるのが大変。市販の粉末はあるけど、食材のミックスはない。そこで10種以上の野菜やフルーツをカットして、冷凍パックにしました。朝起きたらミキサーに入れてスムージーができたら便利ですよね。

 フルーツ離れ解消とSDGs(持続可能な開発目標)的に食品ロスをなくすという観点でも、非常に良いビジネスモデルだと考えています。スムージーの次はスープもいけるはずなので、まずはスムージーでブームを作っていきたいですね」

――冷凍パッケージだと持ちがいいのもありがたい

「賞味期限は3ヵ月あります。1個700円ほどですが、1人分で、普通の2人前ぐらいありますよ」

生鮮のラストワンマイルを大切にした “おいしい物流”の構築を目指す

――食の物流について、今後目指していくことは?

「コロナ禍でECが大きなブームになってきて、D to Cという部分を見ていると、野菜など単価が安いものは物流コストが合わない。遠く北海道や九州から2トン車で運んできてもしょうがないですよね。

 だから『生鮮のラストワンマイル』は絶対に大切になってくる。農業だけは地産地消じゃなく、他産地消。でも産地からの物流は、大規模で行なわないと利益を生めない。僕らは生産農地とのより強い連携と、サイズメリットを追求した1000億規模の大企業をしっかり育てていくことが大事だろうと思っています」

 初めての緊急事態宣言に世の中がどよめき右往左往する中、自社物流センターを活用、シェアリングエコノミーを駆使した「ドライブスルー八百屋」をスピーディーに企画・実現したフードサプライ。その成功の背景には、“今できることを今やる”という決断の速さだけでなく、飲食業界、卸業者とのつながりを大切にして、共存を目指したことにあった。生鮮のラストワンマイルに賭けるという今後、どんな新しい野菜の物流=YASAI LIFE LINEで、また世間をあっと言わせてくれるのか、楽しみだ。

竹川敦史(たけかわ・あつし)●鳥取県生まれ。株式会社フードサプライ代表取締役。大学卒業後、食品商社、大手外食チェーンなどを経て、2007年に独立し飲食店を経営。その後、飲食企業のコンサルティングなども手掛ける。2009年に同社設立。業務用野菜卸として、関東圏を中心に約5000店舗の顧客を持つ。コロナ禍においては、緊急事態宣言で飲食店が営業自粛を迫られる中、車で行くと降りずに野菜を積み込んでもらうことができ、人との接触を避けられる「ドライブスルー八百屋」のサービスを開始、その後も業務用卸売業者4社との協業による宅配「センチョク」、B to Bの青果業界最大級の協業によるEC事業「青果日和」と事業領域を開拓し続けている。
座右の銘は「挑戦をしないことには、別の意味でもっと大きなリスクになる」。

聞き手=玉置泰紀(たまき・やすのり)●1961年生まれ、大阪府出身。元ウォーカー総編集長、現KADOKAWA・2021年室エグゼクティブプロデューサー担当部長。日本型IRビジネスリポート編集委員ほか。座右の銘は「さよならだけが人生だ」。最近は「以前も書いたように、単身赴任でテレワークも多くなり、自炊飯(テレワーク飯と呼んでいる)がいよいよ続いていますが、自炊もやはり食材が命。特に健康を考えると、野菜はライフライン、と実感の日々。とは言え、料理の腕はなかなか上がりませんが…」。

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