近年「ライブ配信の需要」は上がっているが、特にこの1年はステイホームのおかげで、加速しているように見える。そんな中MQAは、WOWOWと共同で動画配信の高音質化を図る計画を進めている。これはMPEG4-ALSというロスレス形式を使って、MQAでエンコードされた音声トラックを通そうというものだ。また高音質デジタル衛星放送のミュージックバードは、MQAの技術を応用して高音質化を図った「MQAデブラー放送」を開始しようとしている。
このように音楽のライブ配信なのだから「良い音で聴きたい」という動きがあるのは自然な要求と言えるだろう。
映像配信の音を悪くする3つの課題に取り組んだ
そんな中、動画配信の高音質化で興味あるもう一つの方式がコルグから提案されている「Live Extreme」だ。DSDの雄であるコルグだから、音声トラックをDSDにするということは想像がつく。しかしそれは単に音声トラックをDSDにするというだけの技術ではない。その詳細を知るためにコルグ本社を訪問して担当開発者の大石氏と山口氏に話を伺った。
Live Extremeとは、端的に言うと「コルグの独自技術で映像コンテンツに高音質の音声トラックをつける技術・配信システムの総称」だ。Live Extremeは音声・音楽のみの配信も可能だが、もともとはDSD音声の生配信を企図していて、それに映像も付けたいというところからスタートしたという。ここで重要なポイントは音楽配信においては映像よりも音声が主になるべきという発想が根幹にあることだ。
Live Extremeのシステムでコルグはエンコーダーを提供する。これは映像も音声も対応しており、映像は4Kまで可能ということだ。Live Extremeの良い点は、エンコードの時点で全てHLSなどの業界標準形式になるため、専用のデコーダーやソフトウェアが不要であるということだ。ここが独自形式のMQAとは大きく異なる点だ。
再生はウェブブラウザを使うことが推奨されているが、専用アプリを使用することもできる(後述)。
大石氏によると、従来の音楽配信にはオーディオ的に見て3つの問題があるという。
第1に動画におけるオーディオクロックの扱いだ。従来の動画配信では映像が主になっており、音声は映像に合わせる必要がある。オーディオ用のクロックはビデオ用のクロックから作るので、ジッターが大きくなるという問題だ。映像と音声を無理に合わせようとすると、つじつま合わせで音声が揺れることになりかねない。
これに対してLive Extremeでは音声を主にしている。映像は揺れたり、フレームが落ちたりする可能性はあるが、音声に関してはビットパーフェクトが保証される。つまり、Live Extremeは、音声トラックにDSDを載せるから高音質化するわけではない。AACなど非可逆圧縮のコーデックを採用しても音質向上するはずだ。
第2に映像制作においては、音楽制作用ではなく映像制作用の機材を使用せざるを得ない点だ。Live Extremeではエンジニアの自由度を上げるためASIOに対応し、音楽制作用に普段使っている機材を利用できるようにした。Live Extremeは作る側にとってもメリットのあるシステムだと言える。
最後がエンコードの問題だ。AACやOpusといった非可逆圧縮が使われていたため、楽器音の再現性が良くなかった。これは、特にミュージシャン側から要求があったということだ。Live Extremeでは、PCMのロスレス形式はもちろんDSDも使用することができる。DoPにも対応しているので、再生時はDoP対応のUSB DACがあればいい。DSDの良さは録って出しで音が良いということなので、「ライブ=生配信でこそ強みがある」と大石氏は語る。
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