週刊アスキー

  • Facebookアイコン
  • Xアイコン
  • RSSフィード

“ぶつからないクルマ?”はどこまで進化した? スバルの運転支援システム「アイサイトX」を試す

2021年05月15日 12時00分更新

アイサイトXの反応の良さにびっくり

 では、実際にアイサイトXの働きぶりはどんなものであったのかを、試乗したときを振り返って説明したいと思います。試乗は4月に都内で開催された「SIP-ADAS 自動運転実証実験プログラム試乗会」のひとコマでした。

 試乗したコースは、東京都内のお台場エリアから高速道路を使って横浜方面へ向かい、大黒ふ頭PAでUターンしてくるというもの。

 アイサイトXは、基本となるアイサイトに追加された高速道路限定の機能です。そのため、エンジンを始動すれば、すぐに使えるわけではなく、クルマの遥かかなたの上にあるGPSや準天頂衛星「みちびき」からの信号をキャッチする必要があります。アイサイトXが使えるようになると、メーター内にある「アイサイトXのアイコン(クルマの周りをカッコで囲むデザイン)」が白色に光ります。この状態でステアリング右下のアイサイトXスイッチを押すと機能がスタートします。

 メーターを見ていると、高速道路に進入するとすぐにメーター内に白のマークが光りました。すぐにスイッチを押すと表示は緑に。ただし、この状態では、ハンズオフ(ステアリングから手を離すこと)はできません。従来型のアイサイトと同様です。しかし、実際にACCを使って走ってみると、いくつかの違いに気が付きました。

 まず、前面のメーター内に表示されるアイサイトの作動画面が、1車線だけでなく左右の車線までが表示可能となっています。斜め後ろから他車両が近づいてくることが、直感的にわかりやすくなっています。また、斜め後ろに他車両がなければ、ウインカー操作を1回するだけで、自動でレーンチェンジをしてくれる「アクティブレーンチェンジアシスト」もできました。ゆったりとした動きで、安心感がありました。

 さらに分岐のためのループ状のコーナーに向かっていくと、徐々にスピードが下がってゆきます。これもアイサイトXの「カーブ前速度制御」という機能です。3D高精度地図データーがあるため、カーブで速度を落としてくれるのです。これも安心の機能となります。

カーブに近づくと徐々に速度を落としてくれる新機能

 同じようにETC料金所でも自動で速度が落ちてゆきます。60㎞/h以下までに速度が落ちるとステアリングのアシストはなくなりますから、運転手はしっかりとレーンから外れないように注意する必要があります。そこまであまりにもラクチンだったもので、一瞬ぼんやりとしてしまい「あっ、ちゃんとレーンをキープしなくては~」と、ちょっと焦りぎみでステアリングを握りなおしました。ただし、アクセルとブレーキの操作は、システムに任せっぱなし。ETC料金所を通り過ぎれば、また自動で加速していきます。ああ、なんとラクなんでしょうか。

料金所前で速度を落とし、ETCゲートをくぐると自動的に速度を戻してくれる新機能

 全体としてはクルマの流れが良かったのですが、1ヵ所だけ短い時間ですが渋滞に出くわしました。ちょうどACCとLKS(レーン・キーピング・システム:車線逸脱抑制機能)を使っていて、前車が渋滞で速度が落ちていくと……、メーター内にある「アイサイトXのアイコン(クルマの周りをカッコで囲むデザイン)」が青色になりました。こうなれば、ステアリングから手を離してもOK。ただし、よそ見は厳禁です。ダッシュボードに設置された赤外線カメラがドライバーを監視しているのです。スマートフォンを見たり、カーナビ画面を注視することは許されません。

渋滞時に先行車にあわせて発進してくれる新機能

 つまり、あんまりメリットは少ないんですね。ちょっと手が楽かな~といった程度です。現実には、この小さな違いのために、大変な技術的な努力が積み重ねられているのですけれど。そして、渋滞が解消されれば、また運転手によるハンドル操作となります。ブザーによって、その切り替えのタイミングが案内されます。

ドライバーはカメラで監視されているので、居眠りなどをすると警告が出る

 文章で説明すると、アイサイトXはややこしい感じがしますが、ACCを使い慣れている人であれば「アイサイトXマークが白く光ったらアイサイトXのスイッチをON」「作動中が緑で、青になったらハンズオフ」を覚えておけば、それほど迷うことはないでしょう。ブザーやモニター内の表示に従うだけです。オーナーになって、毎日のように乗っていれば、誰でも使いこなすことができます。

青なのでハンズオフ可能

 また、トピックとしては「渋滞時のハンズオフの便利さ」ですが、実際はそれよりも「運転支援システム全体としてのデキの良さ」の方が強く印象に残りました。長年、販売されてきたことで洗練されているのです。扱いやすく、不安を感じさせるシーンがほとんどありませんでした。ブレーキのタイミングもステアリングのアシストにも違和感がありません。これならば安心して使える。そう思わせてくれたのです。この安心感は、こうした運転支援システムにとって最も重要なことではないでしょうか。

 ちなみに価格はどうかといえば、レヴォーグでいえば基本のアイサイトは全車標準で、アイサイトXをつけると38万5000円も高くなります。ところが、この値段差には、カーナビとフル液晶メーター、コネクテッドサービスも含まれます。これが高いのか安いのか? おそらく運転支援部分だけであれば、10万円ちょっとかもしれません。意外と安いのではないでしょうか。そして、驚くのは販売比率です。なんと、新車発売から半年たった現在でも、レヴォーグ全体の販売の93%がアイサイトX装備になっているとか。スバル車を買うユーザーにとっても、アイサイトXは重要なアイテムになっているのです。

【まとめ】スバルらしさを追求した運転支援
それがアイサイトX

 最後に、試乗会に居合わせたスバルの開発者に「今、話題の自動運転レベル3に対して、スバルはどのように考えているのか?」と尋ねてみました。レベル3とは、ハンドルから手を離すだけでなく、監視もしなくてよいという状態を意味します。するとスバルの開発者は「レベル3相当にもなれば、それを実現するための装備品も増えてきます。下手をすると、スバル車ではなくなるほど高くなってしまう可能性もあります。また、スバルは自動運転のレベルを追い求めるのではなく、事故防止のために何が必要なのかと考えています。レベル3やレベル4相当の技術で、使えるものであれば積極的に使います。ただし、なるべく価格を抑えて普及させるのが狙いです」との答え。

 確かに、ホンダが発表したレベル3を実現するレジェンドは車両価格が1100万円で、しかも100台限定のリース販売です。世の中の事故を減らすという意味では、レベル2でも数多く販売されるアイサイトXの方が大きな効果が期待できます。

 世間の耳目を集めるのは「自動運転」ですが、スバルはあくまでも“安心と楽しさ”にこだわっているようです。この頑固さがスバリストと呼ぶファンを生み出しているのでしょう。そんな印象を感じた試乗でした。

■関連サイト

この記事をシェアしよう

週刊アスキーの最新情報を購読しよう

本記事はアフィリエイトプログラムによる収益を得ている場合があります

この連載の記事