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オーダーメイドインソール「HOCOH」の製造・販売で得られた知見

現役医師起業家が語る、ソフト・ハード融合領域でスタートアップが成功するコツ

2021年10月07日 11時00分更新

「ソフト・ハード融合」領域におけるスタートアップのための社会実装ガイドライン

株式会社野村総合研究所 コンサルタント 新治義久氏

 AIやIoTの進歩に伴い、ハードウェアのみ、ソフトウェアのみでは新たなイノベーションを創造することが難しくなってきている。そこで経産省はソフト・ハードの融合領域に着目し、そこで新しいプロダクト・サービスを生み出そうとするスタートアップを支援している。

 しかしながらこれまで当該領域で製品開発だけでなく社会実装まで成功を収めた事例は少なく、新たなスタートアップが続々と台頭してくるための環境整備、エコシステムの構築が急務となってきている。『「ソフト・ハード融合」領域におけるスタートアップのための社会実装ガイドライン』(以下、社会実装ガイドライン)と『「ソフト・ハード融合」領域におけるスタートアップと共創パートナーの連携のポイント(以下別冊)』の2冊のガイドラインは、その領域にチャレンジするスタートアップの成功確率を高めるためのノウハウが詰まった資料となっている。

 社会実装ガイドラインは、スタートアップが製品の社会実装を進めるうえで陥りがちなあるある問題を網羅している。特にこの領域のスタートアップには、ハードウェアを持つが故の課題を抱えている場合が少なくない。そしてその課題は事業分野に関わらず共通点が非常に多いということもわかってきた。

 そこで社会実装を「顧客実証」「仕様変更・次世代機開発」「販路開拓・拡販」「ルール対応・ルールメイキング」の4つのステップに分解し、それぞれのステップでしばしば発生するトラブルと、それらへの具体的な対策・予防策をまとめている。各コンテンツはスタートアップ、またはスタートアップと日々連携している事業者からのヒアリング結果に基づいており、スタートアップの実務に役立つ内容となっている。

「ソフト・ハード融合」領域におけるスタートアップのための社会実装ガイドライン(一般社団法人社会実装推進センターのウェブサイトから)

 特に重要なのが、各トラブルに対して、経産省のエコシステム構築事業に採択されたスタートアップで実際にあった事例と、そこから得られた知見が掲載されているところだ。こういったガイドラインでは、課題に対する処方箋が結局机上の空論に終わってしまうことも少なくないが、本誌は社名を含む実例をもって対策が示されており、これからソフト・ハード融合領域に乗り出そうとするスタートアップにとっての優れた指針となるだろう。

 なお、このガイドラインは1ページ目から順に読み進めていくこともできるが、自分の興味ある項目、たとえば販売オペレーション・顧客接点の確立というところに関心があるとすると、該当する課題と対応策が書かれたページだけを読むこともできる。自分のスタイルに合った利用をして欲しい。

あるある問題とその対策・予防策が書かれているだけでなく、スタートアップの実例も紹介

 一方、社会実装ガイドラインの別冊は、スタートアップ自身だけでなく、スタートアップと連携している事業者にとっても有用な情報がまとめられている。特にスタートアップが生み出すイノベーティブな製品が社会に浸透していくため必要な、スタートアップと協業パートナーがともに共存共栄するエコシステムをいかにして構築していくか、という点に重点が置かれている。

 エコシステムを構築し、さらに成長させていくためには、エコシステムへの各参加者が当初持っている技術・リソースを提供しあうだけでなく、新たなものを生み出していくことや、参加者相互の関係性をより良いものにしていく必要がある。この別冊では、ソフト・ハード融合領域におけるエコシステムを7つの機能に分類し、それぞれについてスタートアップや協業パートナーが目指すべきところとそのために自身がどういう変化を遂げていかなくてはいけないかを提案型で詳述している。

 その7つの機能として挙げられているのは「Design/Manufacturing」「Demonstration」「Distribution」「Finance」「Intellectual Property Management」「Rule Making」、そして「Ecosystem Building"」(エコシステムに内包される機能ではなく、エコシステムを形成・強化するための機能)で、それぞれをより具体的な要素に分解し連携すべきプレイヤーもリストアップされている。

ソフト・ハード融合領域におけるエコシステム

 たとえばDistribution機能は、販路・物流機能あるいはプロダクトの現場インストールなど、最終製品の量販や販路開拓に関する機能と定義されている。スタートアップはこれらの機能のうち、どこまでを自社でやるのかを設定したうえで、それ以外については外部パートナーとの協業を積極的に進めて外部リソースを自社のために活用する。協業パートナー側は自社ビジネスの規模や競争力を強化するためにスタートアップの持つシーズを取り入れる。そういうWin-Winの関係を維持・発展させていくためには、スピード感を持った新製品の開発や、既存商品とのクロスセルなど協業によるシナジーを積極的に創出する活動が重要と指摘している。

 特にスタートアップと大企業の協業では、その背景や文化の違いによってお互いのビジネスプロトコルを理解できず、共存共栄のエコシステムを大きく育てることができずに終わることが少なくない。そもそもソフトウェアドメインのビジネスとハードウェアドメインのビジネスでは語る言語も違うと言われている。ソフト・ハード融合領域でイノベーションを起こすためには、ステークホルダーのすべてがお互いの価値・利益創造に繋がるよう、その価値観や行動原理を変えていく必要がある。自らを変えることは難しく、痛みもともなうだろうが、この別冊をその手がかりとしてほしい。

各機能における各プレイヤーの目指すべき姿や自らを変えていくポイントが網羅されている

 本セッションでは、ハードウェアを中心としたスタートアップビジネス構築の実例をベースに、その社会実装の過程で得られたさまざまな知見が披露された。接骨院という協業パートナーとWin-Winの関係を築くためには、ただ"HOCOH"という製品を出すだけでなく、使い方・売り方を含めたソリューションを開発・提供しなくてはならなかった。こういった気付きが事前にわかっていれば、スタートアップにとって非常に重要な時間ロスを減らし、成功確率を高めることができるだろう。

 その点で、SIIが作成した2冊のガイドラインは非常に貴重な手掛かりを与えてくれる。プロダクトは、ただ開発しただけでは意味がなく、それを社会に幅広く実装してこそ収益が得られ、かつ企業のミッションやビジョンを実現することにつながる。ソフト・ハード融合領域だけでなく、すべてのスタートアップにぜひ読んで欲しい。

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