某月某日、ジサトラハッチから電話があった。
「ウチの若いのが、ソケットの向きを間違えてCPUを装着したようで、ピンが曲がっちゃってるんですけど……直せたりします? Ryzen 9 5950Xなので、さすがになんとかしたくて」
この話を聞いただけだと、多少曲がったピンがあるくらいかなと思っていたのだが、後日、実物をみて驚いた。大きく曲がったピンが6本、傾いたピンはそれ以上という、なかなか悲惨なことになっていたからだ。
自作PCファンであれば、程度の違いこそあれ、このようなCPUのピンを曲げてしまうという失敗を経験したことがあるだろう。手を滑らせて落とす、ソケットに挿す向きを間違える、ソケットから外すときに片側だけ持ち上げる、ドライバーなどの小物をぶつける、グリスでCPUクーラーに貼り付き一緒に抜ける(通称スッポン)など、不幸な事故から過失まで、その原因は様々だ。
CPUといえば、古くは裏面にびっしりとピンのある「PGA」が一般的だったが、Intelは早々にピンではなくランドに置き換えた「LGA」へと移行したこともあり、CPUのピン曲がりから逃げ出すことに成功している。これに対してAMDのRyzenシリーズは、今でもPGAを採用。ピン曲がりとの戦いが続いている。
これだけ聞くとIntelの方が賢明に思えるかもしれないが、CPU側にピンがなくともLGAソケット側にピンがあるわけで、完全に呪縛から逃れたわけではない。問題が起こる場所が変わっただけだ。
ピン曲がりを見つけたときにやる事といえば、曲がったピンを元に戻すこと。スグに新しいCPUを買うという人もいるかもしれないが、これは本当にどうしようもなくなってからの最終手段だろう。
ピンは曲がるときは簡単に曲がるくせに、戻そうとすると意外と固い。そして力の加減を間違えて更に曲げてしまい、それを戻そうと何度も繰り返しているうちにピンが折れてしまう……というのが最悪のシナリオだ。
必ず元に戻せるわけではないが、比較的安全にピン曲がりを修正できるいくつかの方法を紹介しよう。
まずはピン曲がりのチェック方法を知る
わずかな傾きもソケットに入らなくなる原因に
明らかに曲がっているものは比較的すぐに見つけられるが、意外と気づかないのが、わずかに傾いているピンだ。本当にわずかであれば、ソケットに挿すとき多少キツイかなと感じる程度で済むのだが、もう少し傾きが大きくなると、ソケットにはまらなくなる。
この状態でCPUクーラーを装着する、もしくは、うまく入らないからと力を入れて押し込むと最悪だ。ピンがソケットとの隙間で押しつぶされ、修復できないほど曲がってしまう危険がある。そこで、まずは曲がったピンを確認する方法を紹介しておこう。
最初に確認したいのが、大きく曲がったピンの発見方法だ。さすがにこれは見逃さないと思いがちだが、ピン数が多くなるとチェック回数が増えるだけに、集中力が落ちやすい。見逃さなくとも目の疲労はかなりのものとなるだろう。
楽に見つけるには、CPUの裏面(ピンがある面)を上にして光を当て、ピンに反射させるように動かすこと。曲がったピンは角度が異なるため、キラッと光って見つけられるわけだ。
この方法と直接目視を組み合わせれば、大きく曲がったピンを見逃すことはまずなくなるはずだ。
続いて、曲がっているというより、少しだけ傾いているピンの発見方法だ。大きく曲がったピンと同じように、光を当てながらCPUを動かしていけば見つけられるが、動かす角度がかなり小さくなるため、これが意外と難しい。
こういったピンを探すには、CPUを真横から見るというのが手っ取り早い。
本来であれば一列に並ぶのだが、ピンが傾いていると、その列からはみ出して見えるわけだ。
ちなみにこのCPUは、先ほどの大きく曲がったピンのあるCPUと同じもの。先の写真では大きく曲がったピンくらいしか目立たなかったが、こうして見ると、思っていた以上に傾いているピンが多いことに気づく。この傾きが、次の被害を引き起こす原因になるわけだ。
この2つの確認方法はどちらが優れているとかではなく、どちらも重要なもの。光の反射で大きく曲がっているピンを見つけて修正した後、真横から見て列からズレていないか確認する……といったように、組み合わせて使うようにするといいだろう。
ピン曲がりの修正に使う道具は、工具よりも文房具が便利
ピン修正に使う道具は特別なものは必要なく、むしろ手元にある文房具の方が役立つことが多い。いくつか便利に使えるものを紹介しておこう。
オススメは、0.3mmのシャープペンシル。ペンの先端が金属の筒になっているため、ここに曲がったピンを挿し込み、少しずつ角度を修正できるからだ。
シャープペンシルが威力を発揮するのは、挿し込む深さを変えることでピンの任意の位置に力をかけやすいこと。曲がったピンを無理に起こすと「くの字」に曲がってしまうことがあるが、これを多少は緩和できる。
もちろん、曲がり方や角度によって必ずしも戻せるわけではないが、少なくとも、他の方法より戻せる可能性が高い。なお、0.2mmのシャープペンシルでも試してみたが太さがギリギリで、少しでもピンが曲がっていると奥まで入らず、扱い難かった。0.3mmで修正する方が安全だろう。
次にオススメといえば、カッターナイフを挙げておきたい。刃を使って列の歪みを直したり、隣のピンと接触するほど倒れてしまったピンの間に挿し込んで隙間を作る、といった用途で活躍してくれる。切る用途で使うのではなく、薄くて硬い板という扱いだ。
このほか、倒れたピンを起こすという役割でいえば、先の細いピンセットや、針状のものがあると楽になるので、こちらも探しておくといいだろう。細いので少し使いにくいが、太目の縫い針なら隙間を広げるのに役に立つ。
なお、ピンセットがあるからと、これでピンを挟んで戻そうとするのはやめておいた方がいい。そもそも、曲がったピンを正確に挟むのが難しいし、なにより、挟めたところでピンを戻せるほど力をかけられないからだ。無理に力をかけてピンからすっぽ抜け、周囲のピンを曲げてしまう……という失敗をする確率の方が高いだろう。
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