電動キックボードの普及が進みつつある。シェアリングの拡がりから、2025年には全世界で400~500億ドル程度の市場規模に達すると予測されている。近年日本でも実証実験などの普及に向けた動きが活発化しているが、道路や法制度など、諸外国と比べて事情が異なる部分も多い。
そのような日本市場にマッチした独自の製品の開発を進めているのがクリエイティブジャパン株式会社代表の三本 茜氏だ。飲食店経営を本業とする異色の企業だが、自社開発した電動キックボードをFreeMileというブランドで展開している。大手メーカーでサプライヤーからの部品調達や管理の経験を持つ三本氏の着想から、誰でも日本の行動で安心して乗れる乗り物を、女性ならではの視点で創ろうとしている。同氏へのインタビューから、現在の電動キックボードが抱える課題と、将来に向けた取り組みをレポートする。
電動キックボード市場の現状と課題
日本の道交法上、電動キックボードは原動機付自転車として扱われる。したがって利用者には原付免許とヘルメットが必要で、車両本体にはナンバープレートやヘッドライト、ウィンカー(最高時速20キロメートル以上の場合)などを設置しなくてはならない。こういった法律上の要件や狭い道路事情などにより、日本の電動キックボード市場は海外に比べて立ち遅れているというのが現状だ。
この点については目下、2021年4月から国の特例措置を受けた企業が特定地域限定でのシェアリングサービスの実証実験を行っている。「特例電動キックボード」と定められ、最高時速15キロメートルの小型特殊自動車として位置づけられ、ヘルメット着用は任意で、自転車道の走行も認められている。10月までの実証実験の結果は政策提言に行かされる予定だ。
だが、そのような整備の流れの一方で、すでにいくつかの製品は国内でも量販店やネット経由で簡単に購入できるようになっている。多くは中国など海外で生産された製品を国内市場向けに改修したものだが、価格が安価なためか国内メーカーの原付や電動アシスト付自転車に比べるとクオリティーが低い。
また車体・パーツのクオリティだけでなく、車輪が小さい・サスペンションがないなど、道路面に凸凹が多く坂道も多い日本の道路事情に合わず、乗りにくい製品も少なくない。さらにライト・ランプなどが壊れてしまった場合、ネット上にしか店舗がない場合は修理完了までに大きな手間や時間がかかることもあるという。
また”正規の”電動キックボード普及を妨げている要因として、取り締まりがほぼないに等しい現状がある。ネット上で「公道で乗ることのできない」電動キックボードが多数販売されているのに対し、取り締まりも少ないことが質の高い安全な(その代わりに価格が高い)電動キックボードの普及を妨げている。さらにナンバー取得の際に車体確認がないこともあり、そうなると保安基準を満たしていない車体でもナンバーが取得できてしまうと三本氏は危惧する。
日本のモノづくりが生きるFreeMileの電動キックボード
こういった現状に対し、クリエイティブジャパンはブランド名FreeMileで日本の道路事情・保安基準に合った電動キックボードを独自に開発・販売している。電動キックボード製品の中では比較的価格の高い部類に属する同社の製品ではあるが、安全性と乗り心地にこだわった製品づくりにより、2020年時点で電動キックボードの国内市場のうち、10%を超えるシェアを獲得している。
その特徴として、まずライトやウィンカーなどの部品がアタッチメント方式で交換可能になっている点が挙げられる。例えば北海道や九州沖縄などのユーザーが転倒などにより部品を壊してしまった場合、車体を東京のメーカーに送らなくてはならないのではコストも時間もかかってしまう。FreeMileの電動キックボードは外に見えている部品、電気系統はすべてアタッチメント方式でユーザー自身が交換することができる。したがって故障時にはメーカーから部品を郵送してもらうだけで修理を行なうことができ、コスト面で非常に有利となっている。なお、このシステムは特許取得済とのことだ。
2番目の特徴としては着脱可能なバッテリーがある。現在市販されている電動キックボードの中には、バッテリーを外すことのできないものが少なくない。これは海外ではシェアリングでの利用がメインなので、取り外すことができないようになっているという事情もあるようだ。
しかし日本では電動アシスト付自転車が普及しており、バッテリーを取り外して充電するという方式に慣れている。FreeMileの電動キックボードはバッテリーを取り外して充電することもできるし、本体に取り付けたまま充電することも可能な2Way方式を採用している。
特徴の3つ目はタイヤだ。電動キックボードの多くは手軽さ、持ち運びやすさなどを重視した結果、小径のタイヤを採用して車重も軽量になっている場合が多い。FreeMileの主力機種plusでは10インチのタイヤを採用しており、前後サスペンションやディスクブレーキ、30kgの車重などと相まって、凸凹や排水溝の多い日本の道路でも快適に乗ることができる。
太く大きなタイヤに加えてサドルも標準装備のため、長距離での移動もカバーしている。これは、飲食店での宅配や出前での利用を想定したもので、飲食店を同時に営む同社ならではのこだわりだ。
安心・安全を徹底するモノづくり市場に挑む
国内外で多数の製品が生み出され、その市場性が確認され始めている電動キックボードだが、死角はないのだろうか。例えば韓国では、既に電動キックボードのシェアリングサービスが3万台を超えており、同時に人身事故も多発してきている。自動車との接触事故による死亡者も発生している。市場の拡大とともに新たな商品設計が求められるフェーズに入ってきているのではないだろうか。
「現在の製品は、誰もが安全に乗れるという私のコンセプトとは少し違っている。見た目が安全そうには見えず、怖くて乗れないという女性もいる。今のデザインも男性的でカッコいいというものではあるが、むしろ一見して安定・安全というもののほうが良い。老若男女誰もが安全に安心して乗れるというコンセプトで公道走行できる三輪のモデルを開発している。
グラグラせずに自立できる三輪なら、高齢者の免許返納の後の移動手段としても使えるのではないか。下位免許だけ残して返納することもできるので、買い物や通院に使っていただけるものがあればいいなと考えている。遠出をしても最悪タクシーなどに載せて持って帰ってくることもできるので。高齢者用の四輪バイクもあるが高価なため、FreeMileでは税込みで20万円までで出せるようにしたい」(三本氏)
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