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「HVC KYOTO 2020」UK Sessionレポート

英国政府に代わって、高度な技術を持つグローバル起業へ投資する「Innovate UK」とは

2021年03月31日 20時00分更新

グローバルで成長するスタートアップを

 2020年10月19日に京都リサーチパークで開催された、ヘルスケア分野のベンチャーを支援するグローバル・イベント「HVC KYOTO 2020」より、ここではUK Sessionに登壇した英国政府に代わって専門分野のベンチャーに投資を行う組織、Innovate UKの取り組みを中心に紹介する。

 Innovate UKはイノベーションを目指して研究を行う企業を助成し、英国政府に代わって投資する組織である。英国スウィンドンに2007年設立され、約500人のスタッフが所属する。投資といっても単純に資金の支援だけでなく、さまざまな方向から幅広い支援プログラムが用意されている。

 例えば、高齢化社会やAIデータの活用など4分野で計1億ポンドの投資を行うSmart funding(スマート・ファウンディング)をはじめ、大学と企業のコラボレーションをサポートしたり、早期に民間から資金援助を受けて成長させるパートナーシップなど目的にあわせたスキームがいろいろ用意されている。もちろんグローバル化に向けた支援にも力を入れている。

UK SessionではInnovate UKでヘルスケア分野の投資を担当するKaren Spink 博士らが登壇した

 登壇したKaren Spink博士はヘルスケア分野の投資を担当しており、疾患の早期発見、診断、精密治療のための事業化で、50万人のバイオバンク参加者による全ゲノム配列決定、AIを活用したデジタル病理学・医用画像処理、そして既存技術をCOVID-19の治療などへ投資を行っている。これまでのヘルスケア分野への投資額は約12億ポンド(約1650億円)で、そのうち6億ポンドが「Biomedical Catalyst」という資金調達プログラムを通じて行われている。

ヘルスケア分野研究開発は高度化し、イノベーションが求められている

目的や対象にあわせて複数の投資・支援プログラムが用意されている

 Spink氏は「ヘルスケア分野は新しいフェーズに入った」と言う。「膨大なデータがアルゴリズムに意味を持たせるようになり、ヘルスケアシステムを合致させて早期段階での疾病発見などに活用しようという動きがある。大規模な遺伝子プロジェクトを治療へ応用したり、ワクチン開発やデジタル診断を加速するといったイノベーションに投資している」(Spink 氏)

 投資先の起業も増えており、例としてT細胞治療を開発するAutlus(アウトラウス)社、COVID-19ワクチンの開発に関わるCOBRA BIOLOGICS社などが紹介された。

グローバルで成長が期待される投資先企業が紹介された

 また、英国のイノベーティブな企業を幅広く支援するカタパルトネットワークは、分野ごとに支援を行う独立研究機関として活動を続けており、9つのエリートテクノロジーセンターを基盤に英国全土で支援のネットワークを拡げている。 その中の一つである「CGT Catapult(セルアンドジーンセラピー・カタパルト)について、アジア事業開発マネージャーのShirley Lam氏が紹介した。

アジア事業開発マネージャーを担当するShirley Lam氏がカタパルトネットワークについて紹介した

再生・細胞医療分野を対象にした専門の投資プログラムが設立されている

 CGT Catapultは、再生・細胞医療分野では世界有数のエコシステムで、英国の中核研究拠点ネットワークとして研究と起業の橋渡しを担っている。英国内にある複数のカタパルト・ネットワークの一つとして2012年にスタートし、サプライチェーンを含む6つの機能や技術を有している。また日本では神奈川県が2015年に行政機関として初めて、再生・細胞医療分野の産業化に向けた連携と協働に関する連携協定を締結しており、コラボレーションの支援を行っている。

 開発、製造、産学連携のイノベーション支援をそれぞれ行う3つのセンターがあり、ロンドンに1200平方メートルの開発センターやオフィスを有するほか、約8000平方メートルの大規模製造センターを開設している。その一つでは7月に英国政府から資金提供を受けてCOVID-19のワクチン製造をしており、その後も遺伝子治療センターとして運営を続ける。

英国では研究開発から製造など幅広く支援する施設が複数設けられている

 「細胞・遺伝子治療の分野では英米が世界2大シェアを占め、先進治療の78%が両国で占められている。英国は同分野の起業も多く、グローバル・リーダーを目指して英国全体のエコシステムを成長させている。また、7つの大学で遺伝子治療に特化したコースを設けるといった人材育成も進んでおり、開発者の75%が集中するグローバル企業を誘致している。」(Lam氏)

 COVID-19の感染が拡大する以前から英国はヘルスケア分野に力を入れており、結果としてワクチンの開発や製造が行える環境がスピーディーに整えられた。特別予算を儲けた投資も行われており、今後どのような動きを見せるか注目しておきたいところだ。

 プログラムではこうした高度な研究成果を元に起業した英国のベンチャー2社が紹介された。

 次世代のがん治療を開発する「VacV Biotherapeutics」は、ロンドンのクイーンメアリー大学での研究を元に起業し、現在臨床中または前臨床で検証中の他の治療法と比べて多くの利点があり、安全な独自の治療法であるVacV000プラットフォームを開発している。

 もう1社の「iSTEM Therapeutics」は再生医療と神経学の分野のユニークなアプローチによる高度な治療法を開発している。再生神経免疫学を元に患者自身の体細胞組織を用いて病気の進行を遅らせるなど、中枢神経系の慢性炎症性疾患や多発性硬化症などの治療方法を実現させることを目指している。

英国からはベンチャー2社が登壇した

 Innovatuion UKでは今後、日本の技術協力を受けて個人に最適化された治療法を確立し、パーソナライズ医療が拡大することに期待しているという。ヘルスケア分野はグローバルで市場が拡大する一方で各国にあわせた対応が求められることもあり、特に高度な治療方法に関しては競争より共創が進むかもしれない。

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