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北九州からIoTで世界を変えよう! 北九州IoT Maker’s Project開催

2021年03月30日 16時00分更新

 八幡製鉄所創業の地であり、それ以来ものづくりのDNAが息づく北九州で開催された、IoTによるビジネス創出プロジェクト。それが、北九州 IoT Maker’s Projectだ。プロジェクトに採択されたビジネスアイディアには開発資金100万円が提供され、メンタリングなどビジネス化に向けたサポートも用意される。2021年2月に開催されたメンタリングデイでは、スタートアップのための支援制度に関する紹介や、ビジネスピッチが行われた。

特許庁はスタートアップ企業の知財戦略構築に様々な支援施策を用意している

 スタートアップ企業がビジネスを成功させるためのハードルは、大小いくつもある。そのひとつが、知財、つまり知的財産の管理である。実際の物を作ることに熱中するあまり知財管理をおろそかにすれば、アイディアを競合他社に奪われかねない。かといって専門ではない分野の勉強に割ける時間は多くない。そこで活用したいのが、特許庁が用意しているスタートアップ向けの知財戦略サポートの数々である。

特許庁が実施しているスターアップ支援施策について解説する、特許庁総務部企画調査課 ベンチャー支援班係長の今井 悠太氏

 特許庁では、スタートアップ向け知財ポータルサイト「IP BASE」を運営している。知財について知る、知財の専門家とつながるというのが機能の柱となっている。スタートアップ企業自身が参考にできる国内外ベンチャーの知財戦略事例集のほか、ベンチャーキャピタルが知財戦略をどのように見ているかを学べるインタビュー記事も掲載されている。

 さらに会員になると、専用コンテンツを利用できる。先に述べた専門家とつながるという機能だ。Q&A掲示板に知財に関する質問を書き込めば、IP BASEに登録している専門家から回答を得られる。登録している弁理士や弁護士など知財専門家を得意分野で検索して、連絡を取ることもできる。会員限定の勉強会もあり、SNSを通じて情報発信されているので興味がある人はまずTwitterアカウントなどをフォローするところから始めよう。

 ウェブサイトだけではなく、実際の知財戦略構築を支援する施策もある。知財アクセラレーションプログラム「IPAS」と呼ばれるもので、メンタリングチームをスタートアップ企業に派遣し、知財戦略構築の力になってくれる。スタートアップ企業の現状把握から始まり、採取素敵にはビジネスプランに照らし合わせた出願時期や出願内容の整理まで助力を得られる。派遣されるメンタリングチームは知財の専門家とビジネスの専門家がタッグを組んでおり、知財戦略の観点とビジネスの観点からアドバイスをもらえる。

 知財関連の支援策としてもうひとつ覚えておきたいのが、「研究開発型スタートアップと事業会社のオープンイノベーション促進のためのモデル契約書」である。スタートアップと大企業、大学などが連携してビジネス化の道を歩むことは珍しくない。その際、大企業とのパワーバランスを背景に、一方的な契約を求められることがあるという。実態調査によれば納得できない行為を受けたスタートアップ企業は14.8%だという。そのような行為を受けても大企業を相手に断ることは難しく、74%の企業が受け入れていることもわかっている。

 そうした事態をなくすため、大企業との契約時にどのような契約を結べばいいのか、分野別にモデルとなる契約書を作成し、オープンイノベーションポータルサイトで公開している。それがモデル契約書と呼ばれるものである。公正取引委員会からの報告に基づいて独占禁止法上問題があるとされた行為を参考に、新素材編が現在公開されており、今後、AI利用編のモデル契約書が今後公開される予定だ。

 その他にも覚えておきたい支援施策はいくつか存在する。スタートアップや中小企業が抱える知財に関する悩みをワンストップで解決してくれる、知財総合支援窓口もそのひとつ。各都道府県に設置された電話窓口で、専門家からのアドバイスを得られる。無料なうえ、もちろん秘密は厳守される。具体的な取り組みについて学びたい人に向けては、産業財産権専門官等がスタートアップや中小企業を訪問、課題を洗い出したうえで知財専門家を交えて課題解決を図る支援も用意されている。

 特許出願においても、スタートアップへの優遇制度がある。スタートアップは手数料が3分の1に減額されるうえ、面接活用早期審査やスーパー早期審査といったスピーディな審査を選べる。従来14ヵ月ほどかかる審査期間を、最短で2ヵ月強にまで短縮できるので、資金調達計画も立てやすくなる。こうした特許庁の支援施策は前述のIP BASEの事例ページで紹介されているので、詳細はそちらを一読願いたい。

写真を2枚見せるだけでAIが動作を自動決定する汎用ロボット「Quick Factory」

 ビジネスピッチのトップバッターとして登壇したのは、KiQ Robotics株式会社。産業用ロボットをAIによって高機能化、汎用化して、手作業の負担の軽減を目指している。

 従来の産業用ロボットは、アーム本体に作業用途に合わせたハンドを組合せ、それらを動かす専用アプリケーションを開発して始めて利用できる状態になる。当然ひとつの作業に特化することになり、別の場所に移動したり、別の作業に転用したりするのは容易ではない。

 こうした産業用ロボットの課題を解決するのが、KiQ Roboticsの「Quick Factory」だ。作業前の写真と作業後の写真をロボットに見せるだけで、ロボットに搭載されたAIがその間の過程を推察し、必要名動作を導き出す。作業指示を究極まで簡単にすることで、専門技術者でなくても現場の誰でもロボットを導入できるようになる。写真2枚で新しい作業を学習できるので、今日はこの作業、明日は別の作業と転用しやすいのも特長だ。細かい設定はWeb GUI画面で行えるので、プログラミング技術も不要だ。

 AIで動作を自律的に決定できるのが最大の魅力だが、要素技術としても特徴的な点がある。汎用性を高めるためのハンド技術だ。たまごのように割れやすいもの、つまみにくいカード状のもの、滑りやすい氷なども持ち上げることができる。ハンドの柔軟性が高いため、ひとつのハンドで様々な作業に対応可能になっている。

作業員の動きをデータ化することで工場に潜むリスクを可視化するkitafuku

 工場作業員向けIoT機器を開発しているのは、株式会社kitafukuだ。作業員の導線を可視化することで、見えないリスクを見えるようにする。トヨタ自動車九州の協力を得て、実証実験段階だという。

 そもそも、工場における職場改善や業務改善に使える分析指標が少ないという課題があった。たとえば作業負荷の指標は時間だけであり、座って行う作業も立って行う作業も、簡単な作業も熟練を要する作業も、同じ時間であれば同じ作業負荷としてしか分析できなかった。作業員の導線を可視化することは、こうした分析指標を増やすことにもつながる。作業員の人流データが指標に加われば、見えないリスクも浮き彫りになり、次の改善策を考える足がかりになる。

 厚生労働省が発表している工場における災害発生状況を見ると、危険な場所への立ち入りや、激突による転倒や機械への巻き込みが挙げられている。作業員本人に被害があるのはもちろんのこと、休業給付や人員調整、ひどい場合には工場停止や監査の立ち入りなど企業側にもダメージが生じる。作業員の移動データを得られれば、こうした怪我や事故のリスクへの対策を立てることができる。

 また、慣れていない作業員の動きには無駄が多いと考えられており、作業員の動作から熟練が必要な作業をあぶり出すこともできる。こうしたデータをもとに作業の平準化を進めれば、プロセスに潜むリスクを避けられるだろう。ほかにも、作業員の導線を把握することで避けられるリスクはあるはずだとkitafukuは考えている。

 現在、方向検知機能を持つBluetooth5.1のデバイスを作業員が身につけて動きを追尾、プライバシー保護のため匿名化した状態でデータ化するところまで実現しているとのこと。

免税手続きをオンライン化、手ぶら観光も実現するIoTロッカー「JaFun」

 トラベルテックラボは、訪日外国人観光客に向けて、免税店での買い物を手軽にするための仕組みを考えている。「JaFun(ジャファン)」と名付けられた免税IoTロッカーがあれば、免税手続きを簡略化でき、なおかつ手ぶらで観光できる。

 背景となっているのは、免税店での買物の敷居の高さだ。免税手続きは面倒くさく、一店舗あたり5千円以上購入しなければならないなどの制約もある。そのため、菓子類のように安価なものは72.1%の人が免税手続きなしに購入しているという調査結果もあるほどだ。これを解決するため、免税手続きをオンライン化し、なおかつ複数店舗でまとめて5千円以上で手続きできるようにする。商品購入もオンラインなので、来店不要で特産品を購入し、ロッカーで受け取れる。

 利用手順は簡単で、ユーザー登録した上でスマートフォンアプリを使って買物をする。商品はロッカーに届くので、土産物を両手に抱えることなく身軽に観光を楽しめる。帰りに、駅やホテルの指定ロッカーで本人確認すると、ロッカーの鍵が開き商品を受け取れる。駅やホテルなど訪日外国人が使いやすい場所にロッカーを設置し、観光客と店舗からは利用料を、受け取り場所ではロッカーの利用料を得て収入とする。

視覚障害者の外出を安全なものにするウェアラブルデバイス「seeker」

 株式会社マリス creative designは、障害者の外出をサポートする歩行アシスト機器「seeker(シーカー)」を開発している。例として示されたのは、駅のホーム。健常者には見慣れた景色のひとつでしかないが、視覚障害者からは「欄干のない橋」と言われるほど怖い場所だという。実際、視覚障害者のホームからの転落事故は毎年50人から100人の間でコンスタントに発生しており、そのうちの幾人かは残念ながら亡くなっているとのこと。

 こうした悲しい事故を防ぐために開発中の「seeker」は、メガネ型のデバイスと白杖に取り付ける振動装置で成り立っている。メガネ型デバイスにはカメラ、距離センサー、加速度センサーが搭載されている。メイン装置で画像を処理、認識して危険を判定し、白杖を振動させてユーザーに知らせる。通常時はデータをクラウドにアップロードして学習を深めていくが、災害時にも使えるようスタンドアローンでの利用が可能になっている。

 視覚障害者への情報伝達手段としてまず思いつくのは音声だが、歩行中の視覚障害者は周囲の状況把握を耳からの情報に大きく頼っている。そこにさらに情報を増やすのは現実的とは言いがたく、白杖に振動装置を取り付けるという解決策に至ったとのこと。

決められたエリアを効率的に殺菌し、食品ロス削減に貢献するAI殺菌移動ロボット「GOS」

 食品ロスをなくすために開発されているのが、GOLFO DNKの殺菌移動ロボット「GOS(Golfo’s Oxygen System)」だ。全世界では年間40億トンの食料が生産され、そのうち実に13億トンが廃棄されていると言われる。流通段階の廃棄を減らすためには、人や物への影響が少ない効率的な殺菌方法を実現する必要がある。

 GOSが取り入れているのは、促進酸化法(AOP)を使ってOHラジカルを発生させる方法だ。OHラジカルはオゾンよりも強い殺菌能力を持っているうえ、オゾンのような毒性はない。光触媒とLEDを使ってOHラジカルを発生させる方法もあるが、AOPの方が反応速度が高いうえ、装置をコンパクトにできる。こうした殺菌方法の選定に当たっては、これまでに殺菌装置を製造してきた知見が活かされている。

 殺菌の課題のひとつに、機器を移動できるようにすることが挙げられる。OHラジカルによる殺菌方法を含め、人や物に無害な殺菌手段は効果範囲が広くないため、殺菌が必要なスペースの中で殺菌装置を移動させる必要があるのだ。GOSがドローンとして開発されているのも、もちろんそのためだ。空間認識可能なAIを搭載し、センサーとカメラから収集したデータをクラウドに蓄積して分析する。運行管理もAIが担っており、できるだけ重複を避けながら、障害物をよけつつ最短時間で決められたエリアを殺菌してまわる仕組みだ。食品業界を皮切りに、衣料業界や教育現場、医療現場にマーケットを広げていきたいと語られた。

 合計5チームによるビジネスピッチは、IoTという共通項を持ちながら多様な業種、業界を見据えており、北九州から世界を変えるという意気込みに満ちたものだった。

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