「世の中から卒業をなくす」をミッションに掲げて、社会人向け生放送授業を展開する株式会社Schoo(スクー)をご存知でしょうか。同社はコロナ禍におけるリモートワークへの完全移行と、オンライン授業の需要増加に対応できる組織の急拡大を両立させています。今回は「青臭いこと言える大人をどんどん増やしたい」と語る人事責任者兼HRアクセラレーターの小河原英貴氏と、エンジニア採用に携わる森本美穂氏にお話を伺いました。Schooによる社会人や学生という概念を越えた新たな教育の形や、「HRアクセラレーター」という肩書が持つ意味が明らかになります。(以下、本文敬称略)
急拡大するスタートアップは組織をどのように作り上げるのか
マスクド:50名ほどだった社員数が、コロナ禍によるオンライン授業や研修の需要によりここ1年ほどで100名程度まで拡大しています。組織体制の変化における苦労などはございますか。
小河原:急速に組織が拡大しましたが、大きな問題もなく運営できています。背景としては、Schooが掲げるミッションに共感している人、そしてフィロソフィーに合致した人や、同じ目的を共有できる人を採用できたからです。学ぶことで人生を充実させたい一方で、金銭や時間や地理的な問題などが学びを妨げており、これを解消したいという原体験を持つ人が集まっています。
もう一点がSchooのフィロソフィーである「Laboratory#105(※)」において、「学習」「変化」「尊重」を非常に大事にしていることです(注釈:Laboratory#105の「105」は創業当時のマンションの部屋番号から取られている)。
入社した人が驚くのが、Schooにおける他者を尊重する文化です。一例をあげるとソフトウェアエンジニアによるプログラムのレビューにおいて、言葉は悪いですが意地悪な言い方で指摘をする人などが多くの会社で何名かはいるのではないでしょうか。しかしSchooはお互いの価値観を尊重する文化なので、他者の意見や考えを受け止めつつ、お互いが気持ちよく意見を言い合える環境があります。
職場における人間関係の悩みって本当に無駄だと思いますし、ミッション実現に向かってみんなが気兼ねなく自分らしい意見を言える心理的に安全で不安のない組織を目指しています。
マスクド:これまではSchooのミッションやフィロソフィーにマッチした人を採用できましたが、より組織が大きくなると意思統一も難しくなると思います。こうした課題を抱える方々へのアドバイスなどございますか?
小河原:一番は「何のために何をやっているか?」という目的に対する納得感が重要です。
ゴールにおける理想と現実のギャップをメンバーが理解できなければ、「上に言われてやらされる仕事」となり、当事者意識が薄れてしまいます。
一例としてSchooではオンラインによる全社ミーティングを工夫しており、まさにSchooが行っている生放送授業のようにアナウンサーによる司会進行によってメンバーが投稿した質問やコメントを紹介して意見を引き出すなど、双方向性を持たせています。
入社直後の研修でも、他部署のメンバーとコミュニケーションが取れるよう 「エスカフェ」という部署を越えた雑談部屋を作り、相談できる窓口となる人間関係を構築してもらいます。
例えば放送技術スタッフとソフトウェアエンジニアは接点が少ないですし、他の会社ではそれが普通でしょう。ですが、Schooではそういった異なる職種がバリューチェーンの中で交わりますので、このリモート中心の職場環境の中でもカジュアルに相談できる人が他部署に最低1人はいるという状態を入社直後の方に装着するのが狙いです。
また、リモート中心の職場環境においては、目指すべき方向や目的を共有する「一体感」だけでなく、メンバー同士がスムーズに業務を行える「連携」も重要となります。全員が全員と連携というのは理想ですが、より解像度を上げてどの部署とどの部署が業務上連携していればより生産性が上がるのかを可視化することで現状の問題点を洗いだし、マネージャー同志が解決に取り組むなど、常に改善できる仕組みを作っています。
エンジニアが働きやすい環境とは
マスクド:様々な配慮を含めて、働きやすい環境ですね。
小河原:特徴を挙げると、エンジニアはフルリモートとフレックスタイム制を基本としています。地方に移住したメンバーもおり、個人のスタンスを尊重した結果、働きやすい環境になっているのではと思っています。
また雇用や契約の形態で区別しない組織であることも特徴です。Schooでは雇用や契約の形態は働き方の違いでしかないと考えており、それよりも各々が最適なパフォーマンスを発揮することが重要です。誰が社員で誰が業務委託(フリーランス)なのかを意識する必要もないと考えます。
評価体制も工夫しており、弊社では3つの軸でエンジニアを評価します。
1つ目は直近の結果評価として、設定された目標を達成できたかどうか。
2つ目が未来への貢献を評価軸として、直近の業務では収まりきらない将来に向けた取組ができているかです。例として採用・リクルーティングに協力したメンバーを、将来への貢献度として評価しています。
3つ目がSchooのフィロソフィーに沿った行動規範が体現できているかどうか。より納得感の高いものになるように、この3つの軸で評価をしています。
森本:弊社のエンジニアは、正社員よりも業務委託が少し多いです。
将来的にはすべてのエンジニアが幅広く業務をこなせるチームを目指しており、定期的に勉強会やハッカソンを行いながら知見を共有しています。
マスクド:エンジニアとしての働きやすさだけでなく、立場や所属にとらわれず将来の大きな目標に向けて技術を活かせるのは魅力ですね。
小河原:Schooでは双方向かつ多人数で受講できる教育動画コンテンツを提供していますが、それは同時に「共に学ぶコミュニティ」を提供しているとも言えます。世の中から卒業をなくすためには、コンテンツだけでなく、共に学ぶコミュニティも必要と考えており、lpmpその点は強くこだわっています。
森本:これまでの10年間で積み重ねたビッグデータがあり、ユーザーの受講履歴はかなりの数があります。
ユーザーとコンテンツと土台ができたので、今後はデータ分析やアイデアを活かせる段階に来ました。技術的なチャレンジに加えて、差別化や独自性を生み出すのは難しいですが、とてもやりがいのある仕事だと思います。
Schooが目指す教育の未来とは?
マスクド:生放送プラットフォーム以外で、注力する事業はございますか。
小河原:「Schoo=社会人向け生放送教育」というイメージがありますが、大学・専門学校向けのDX(デジタル・トランスフォーメーション)にも注力しています。
高等教育はターニングポイントを迎えていると考えており、今後採用市場がよりジョブ型にシフトしていくにつれ、従来の新卒一括採用が縮小すると考えられる点でしょう。その流れの中で、大学の役割としても、より研究に価値を置く大学と、より社会に役立つ実践的なスキルを教えることに価値を置く大学に二極化すると考えています。
またコロナ禍によりオンライン授業が一般化して、事態の収束後にオンラインとオフラインの長所を兼ね備えた教育が登場と予測される点です。対面授業をオンラインに置き換えただけではうまくいきませんし、対面授業の劣化版にすぎません。そこで、例えばコメント機能やクラウド上での共同編集を組み合わせるなど、オンラインのメリットを生かした授業の再発明が必要になるでしょう。
このようなDXにおける実践型教育に対しては、今まで放送してきた約5800ものコンテンツという資産がスクーにはあります。ハイブリッド型教育への移行についても、これまでスクーを運営してきた知見があり、高等教育機関向けのDX化と非常に相性が良いと言えます。
マスクド:近い将来に学びを求める人が、自由に勉強できる環境づくり実現しそうですね。最後にSchooの将来に向けた人材育成や組織作りのビジョンはございますか。
小河原:様々な職種でメンバーが増えると、一人のアイデアが世に出るまで社内調整が必要になり、角が取れて丸くなる懸念があります。そこで無難な形にまとめるのではなく、様々な意見を集めて活性化させて、アイデアを冷まさずそのままの熱量でやり遂げる組織を目指したいですね。
また、「異能と連携できること」を重要視しており、天才であっても異なる才能と連携できなければ意味がないと考えています。異能同士の掛け合わせで大きな付加価値を生み出し、イノベーションを起こすことがSchooにおける次のステップです。
人は学びによって新たな知識や発見を積み重ねることで、自信につながって自己肯定感が高まります。こんな大人が増えればより良い社会になるでしょうし、私個人が目指したい世界でもあります。
まとめ
今回は非常事態宣言下のためリモート取材となりましたが、壮大なビジョンや社内におけるフラットな組織文化を”フィロソフィー”として、「世の中から卒業をなくす」という将来に取り組む意気込みが画面越しに届いてきました。
ちなみに、取材後に小河原様の肩書である「HRアクセラレーター」の意味を伺うと、「厨二病なので『人事』ではなく、かっこいい呼び方にしたかった」と告白されたのが印象的です。「人を加速させて事業も加速させる」という意味ですが、Schoo様は一方通行ではなく、メンバーやユーザーとの双方向な関係性(コミュニティ)を大事にする点が伝わるインタビューでした。
著者プロフィール:
空前のAIブームに熱狂するIT業界に、突如現れた謎のマスクマン。
現場目線による辛辣かつ鋭い語り口は「イキリデータサイエンティスト」と呼ばれ、独特すぎる地位を確立する。
"自称"AIベンチャーを退職(クビ)後、ネットとリアルにおいてAI・データサイエンスの啓蒙活動を行なう。
将来の夢はIT業界の東京スポーツ。
著書「AI・データ分析プロジェクトのすべて」が好評発売中(増刷分も絶賛発売中!)。
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