IPナレッジカンファレンス for Startup 2021レポート(前編)
特許出願がビジネスに密接したピクシーダストテクノロジーズがグランプリ受賞:第2回 IP BASE AWARD授賞式
2021年3月19日(金)、特許庁は「IPナレッジカンファレンス for Startup 2021」をオンラインにて開催。前半に「第2回 IP BASE AWARD」の各部門の授賞式を行ない、受賞者による取り組みを紹介。後半は、IP BASE AWARDの選考委員と受賞者が登壇し、「スタートアップに必要な知財戦略のポイント」、「スタートアップ・エコシステムと知財」をテーマにセッションを実施した。本稿では、授賞式の模様を中心にレポートする。
授賞式に先立ち、特許庁総務部企画調査課課長小松 竜一氏による開会の挨拶と、特許庁総務部企画調査課課長補佐(ベンチャー支援班長)の鎌田 哲生氏によるIP BASE AWARDの概要説明が行なわれた。
特許庁は、スタートアップの抱える知財上の悩みに応えるため、スタートアップ向けのサイト「IP BASE」を開設している。IP BASEでは、知財のメリットや手続き概要、キーワード解説といった知財の基礎知識や事例集、特許庁のスタートアップへのサポート施策、公募情報を掲載。
スタートアップと知財専門家をつなぐ機能としては、専門家の検索機能、オンラインQ&Aを設置。知財専門家とつながりたいスタートアップや、支援に興味のある専門家との交流をウェブ上や全国で実施されるイベントで進めている。
授賞式が行なわれた「IP BASE AWARD」は、スタートアップ・エコシステムにおける知財活用のロールモデルを表彰し、情報共有することを目的に2020年より開催。戦略的な知財権の取得・活用などを積極的に実施する「スタートアップ部門」、スタートアップ支援に取り組む「知財専門家部門」、スタートアップに対し知財を積極的に活用して活動し、スタートアップ・エコシステムにおける知財意識の向上に貢献している「エコシステム部門」の3部門で構成されている。
創業初年度に20件の特許を出願
ピクシーダストテクノロジーズがスタートアップ部門のグランプリを受賞
続いて、第2回IP BASE AWARD各部門の授賞式が行なわれた。選考委員長として内田鮫島法律事務所 パートナー弁護士・弁理士の鮫島 正洋氏がプレゼンターを務めた。
スタートアップ部門の最終選考にノミネートされたのは、ピクシーダストテクノロジーズ株式会社、株式会社バカン、Telexistence株式会社、Global Mobility Service株式会社、東京ロボティクス株式会社の5社。
奨励賞は、株式会社バカン、Global Mobility Service株式会社、Telexistence株式会社(五十音順)の3社が受賞。
スタートアップ部門のグランプリを受賞したのは、ピクシーダストテクノロジーズ株式会社。表彰式では、ピクシーダストテクノロジーズ株式会社代表取締役COOの村上 泰一郎氏が登壇し、事業概要と知財活動を紹介した。
ピクシーダストテクノロジーズは、「Digitally Rebalanced」(デジタル技術で世界の新しい均衡点を作ること)をスローガンに掲げ、ユーザーインターフェースやセンサーを使って、あらゆる社会課題を解決していくことを目指している。現在は、筑波大学、東北大学と連携して、大学側に新株予約権を付与し、代わりに共同研究のIPを100%会社側に承継する形で大学からの知財を取り込み、オープンイノベーションを通して社会実装するのが同社のビジネスモデルだ。
最近では、感染症対策のモニタリングと安全対策を提案する「Magickiri」、空間のデジタルツイン化を支援する空間データプラットフォーム「KOTOWARI」、音響メタマテリアル技術に独自の吸音設計技術を応用した吸音材「iwasemi」の開発を手掛けている。
同社は2017年の創業時から知財活動に取り組み、初年度から20件を出願。2020年には経済産業省の「研究開発型スタートアップと事業会社のオープンイノベーション促進のためのモデル契約書」の策定にも協力している。知財部門のポリシーとして「事業に貢献する知財は広義の知財」、「権利化実務と契約実務の両輪で事業を回す」「事業ポートフォリオに合わせた特許ポートフォリオを作る」を掲げており、事業戦略と密接に知財活動に取り組んでいるのが特徴だ。
スタートアップ×AI・データ取り組みを評価
知財専門家部門はSTORIA法律事務所 柿沼 太一氏がグランプリを受賞
知財専門家部門の最終選考には、あなたの知財部 代表取締役 弁理士 佐藤彰洋氏、瑛彩知的財産事務所 代表弁理士・米国弁護士 竹本 如洋氏、STORIA法律事務所 パートナー弁護士 柿沼 太一氏、渡辺総合知的財産事務所 弁理士 渡辺 知晴氏、法律事務所ZeLo・外国法共同事業 青木 孝博氏の5名がノミネートされ、奨励賞には、あなたの知財部代表取締役 佐藤彰洋氏、瑛彩知的財産事務所 竹本 如洋氏が受賞。グランプリは、STORIA法律事務所 柿沼 太一氏が受賞した。
グランプリを受賞した柿沼氏の受賞のスピーチでは、スタートアップ支援活動への思いと謝辞が述べられた。
「スタートアップ支援を始めたのは5年前から。スピード感が必要とされることや新たな事業領域を理解しなくてはならない大変さもあるが、"世界を変える"という高い志を持つ方々と一緒に仕事ができるのは光栄に思っています。
実際の仕事は、ひとつひとつの案件をやっていく地道な作業です。ハードな交渉や規制をクリアしなくてはいけない場面もあり、スタートアップの方々とたくさんの議論をして乗り越えていかなくてはいけません。知財は事業戦略と密接に関連しているので、難しい交渉のときには、事業の目的に立ち返り、どこを守らなくてはいけないのか、という議論からスタートする必要があります。
受賞理由として、AIやデータに関する取り組みを評価していただきました。新しい領域なので、契約実務や法律上の扱いが固まっていない部分もあり、苦労もあるが、面白みも感じています。(作成に関わった)モデル契約書の策定では、ほかの専門家の方との議論することで新しい発見があり、とても勉強になる機会でした。
また、この賞は一応私個人がいただいたことになっていますが、決して私一人の力で受賞したものではありません。いつも一緒にお仕事をさせていただいているクライアントの方々、事務所内で様々な議論を一緒にしてくれる事務所のみんながいただいた賞だと思っています」(柿沼氏)
スタートアップや大手企業、地方も含め日本全国で
イノベーション・エコシステムと知財活動の拡大が求められる
エコシステム部門は、Research Studio powered by SPARK、株式会社ゼロワンブースター、特許の楽校がノミネートされ、奨励賞には、株式会社ゼロワンブースター、Research Studio powered by SPARKの2社が受賞。
表彰式では、株式会社ゼロワンブースター マネージングディレクターの木本 恭介氏、Research Studio powered by SPARK 筑波大学 医学医療系教授 小栁 智義氏が登壇し、表彰状が贈呈された。
ゼロワンブースターは、コーポレートアクセラレーターとして、大手企業のリソースを活用しながらスタートアップのビジネスを加速させるプログラムを運営。大手知財部門に向けた事業創造プログラムを提供するなど、オープンイノベーション促進に向けた知財支援活動に取り組んでいる。木本氏は、「スタートアップエコシステム業界には、知財人材が非常に不足しております。今後も知財業界の力を借りながら、スタートアップ・エコシステムの発展に寄与できればと考えています」と述べた。
Research Studio powered by SPARKは、筑波大学、慶応大学、京都大学、大阪大学、岡山大学、九州大学の6大学が連携して医療系スタートアップのアクセラレーションプログラムを運営。SPARKは、2006年にスタンフォード大学で始まった取り組みで、米国ではアカデミアの休眠知財から30社以上のスタートアップが生まれている。小栁氏は「ボストンのエコシステムから新型コロナウイルスのワクチンが出てきたように、我々のエコシステム構築の活動は皆さんの生活を救える可能性を持っています。日本はなかなかイノベーションに投資されないが、投資の評価に知財をもっと活用していただきたい。特に大企業は、研究開発費だけではなく、日本が世界に対してどんなインパクトを作れるのか、という視点で知財について考えてほしい」と語った。
授賞式の最後には鮫島選考委員長からの総評が述べられた。
「初回に比べて応募のレベルが上がり、審査に苦労しました。スタートアップ部門グランプリのピクシーダストテクノロジーズは、創業4年弱で50件以上の特許を出願しており、出願件数、活動の密度が群を抜いていました。これだけの件数を出すには、かなり戦略的な動きを組織面でも作られていることが考えられます。
知財専門家部門の柿沼先生は、20年間この分野に取り組まれている実績の長さ、厚みという観点で評価に値すること、また、東京ではなく神戸で活動されており、地方でもこうした活動は重要であり、同様の活動が増えてほしいという願いを込めて、グランプリに選出させていただきました。
知財活動は、非常に地味なことの積み重ねです。なかなか光が当たる機会が少ないからこそ、こうしたAWARDを設けることに意義があるのでは、と考えています。引き続き、ご尽力をお願いします」と締めくくった。
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