FCスタックがいつ動いているかわからないくらい
静かでスムーズな走りが堪能できる
電源スイッチを入れると、ほどなくしてメーターには「走行可能です」と表示。FCVだからといって、何か特別なことはなく、まったくもって一般的なクルマと同じ。ちなみにモーター駆動車にありがちな「ワンペダル動作」には対応しておらず、ちゃんとブレーキを踏まないとクルマは止まりません。
走行中に何か特別なことが起きるのか? と全神経を集中させながら、おっかなびっくり走行を開始。むしろ何か起きたらソレを原稿のネタにしてやろうと、イジワルモードであら探しをするのですが、何も起きないではありませんか。むしろ、いつFCスタックが動いているのかもわからないばかりか、そもそも過去に乗ったいかなるモーター駆動車よりも静かで驚愕! 耳をそばだてても、ロードノイズと風切り音以外で聞こえるのは、本当にわずかなモーター音のみ。期待していた異音や、ハンドルか何かが振動ブルブル……ということもありません。あまたあるDセグメントセダンはおろか、ワンクラスもツークラスも上な高級車のフラグシップ級の静寂さ、と言っても大げさはありません。
走りもビックリで、1.9トンの車両とは思えない軽やかさ。街中でも高速道路でも重さは感じることはなく、スーッと気持ちのよい加速を魅せてくれます。走行モードはNORMALとSPORTの2種類が選択可能。SPORTを選ぶと、アクセルのツキがよくなり、気持ちよさアップ。回生ブレーキのかかり方が変わる印象はなかったのですが、音が少し変わったようにも。ともあれ、NORMALでも十分に気持ちがよいので、これはお好みで。
足もしなやかでフラットで上質。単に乗り心地がよいだけではなく、コーナーリングが気持ちよく「このクルマ、Modulo Xだっけ?」と思うほど。ただ残念なのはタイヤで、ブリヂストンのエコピアを履いているためか、ロードノイズはやや大きく感じ、なによりショック時の角が硬いようにも。こんなにイイ足なのですから、たとえばHonda eのアドバンスグレードと同じく、ミシュランのパイロットスポーツとかにしてほしいなぁとないものねだりをしてみたり。いいクルマだからこそ、いいタイヤをぜひ。
運転支援がついていたので、高速道路で試してみました。レーンキープアシストは、Honda車らしく介入感は弱い印象ですが、不満はありません。前走車追従機能も、他社に比べると車間は広めに感じましたが、こちらも不満ナシ。電気自動車で高速道路に乗ると充電のことが頭をよぎるのですが、クラリティ FUEL CELLは、カタログを見ると、一回の水素充填で750km走行できるということですから、静かで快適なロングツーリングが楽しめそうです。
気になる燃費(水素消費量)は?
初めての水素ステーションへ
試乗中、口から出る言葉は「コレ、ホントにイイ」「オトナのクルマ」だけ。まさかここまで完成度が高いとは思いもよらずで、イジワルモードはすっかり忘れて、ニコニコモードで都内や首都高をぐるぐる。すると、燃費表示には水素1kgあたり90km走れるという数字が。水素も減ってきたので、水素ステーションに行くことにしました。ナビには水素ステーションの場所が登録されており、そのスポットの営業時間なども記されて便利です。
一般社団法人 次世代自動車振興センターのホームページを見ると、2020年12月現在で、全国の水素ステーションは137ヵ所あるのだとか。そのうち筆者が住む東京都には21ヵ所が運営されています。まぁ少ないよね、というのが正直なところですが、東京都環境局作成のZEV普及プログラムによると2030年までに150ヵ所まで拡充するとのこと。ちなみに急速充電器は1000基設置を目標にしているそうです。
水素ステーションの多くは9時~17時営業で、セルフで24時間、というのは未だ先の話。水素充填は高圧ガスを取り扱う都合、高圧ガス保安規制の対象で、ガソリンのように一般の方がセルフで水素充填をすることはできないのです。ちなみに経済産業省によると、水素ステーションの事業者と契約を結び、教育を受けたFCVドライバーは自分で水素充填ができるそうです。そもそも営業時間中は従業員の方がいらっしゃるので、お願いした方が早いような……。
気になる水素の値段ですが、ENEOSの場合、全国統一で1kgあたり1210円(税込)とのこと。水素充填はフロントドアのH2ボタンをポチっと押せば、充填口の扉が開き、キャップを外して専用のソケットを差し込むというもの。ちなみに充填口の扉が開いた状態だとクルマは動きません。充填は3分とかからずに終了しました。
では気になるコスト計算をしてみましょう。レギュラーガソリンの小売価格が135円とすると、1210円あれば約9リットル分購入できます。筆者の場合、水素1kgで90kmという燃費でしたので、これを9リットルのガソリン車に置き換えるとリッター90kmを9リットルで割ると……リッターあたり10kmのガソリン車と同等の燃費といえそうです。ハイブリッド車に慣れた目からすると「燃費悪いなぁ」と思うのですが、ちょっと前の2リットルDセグメントセダンからすると「良い方」とも。現状では「エコカーは経済的」という感じは薄いでしょう。
「水素を作るのに多くの電力が必要だからエコではない」という意見もあるかと思います。ですが、調べてみるとそうでもないようです。というのも、Hondaは岩谷産業と共同で、パッケージ型水素製造・貯蔵装置「スマート水素ステーション(SHS)」を開発しました。これを太陽光パネルとつなげると、自然エネルギーだけで、1.5kg/1日、4日あればクラリティ FUEL CELLを満充填できる分の水素ができるのだとか。
福島県郡山市は2017年から10kWの太陽光と共にSHSを設置・運用しているそうです。事業費は約1億8700万円で、うち1億2000万円は環境省の補助金を活用したとのこと。市は「クラリティ FUEL CELL」1台を導入し、公用車として利用するほか、省エネなどの普及啓発活動をしています。また事前に登録し、かつ予約をすれば、一般の方でも無料で水素充填できるとのこと。
【まとめ】クラリティ FUEL CELL、売ってください、本当に
「ハイブリッド車のアコードが465万円、クラリティ FUEL CELLは766万円だけれど、助成金をつかえば500万円台。となると、コッチでしょ!」と、試乗しながら素直に思いました。法人向けリースだけなんて、本当にもったいない話。こんなにイイんだから、数は出ないかもしれませんが、気に入って欲しいという人はいるハズ。少なくとも、試乗した筆者は欲しくて仕方ありません。
法人向けリースとして考えると、ここまで完成度が高いのなら、高級バージョンを出してもいいのでは、とも思いました。駆動ユニットが3.5リッターV6エンジンとほぼ同じ大きさなのですから、レジェンドをFCVにすることだって……。ほかのどんな高級車よりも静かなレジェンド、実に魅了的ではありませんか。それに法人ユーザーにとっても社用車や公用車の導入理由として、「環境性能」という理由付けができるでしょう。自治体にとっては、災害時に電気が取れることも大きな魅力になるのでは?
もちろんインフラの問題は気になるところです。実際、水素ステーションがない都道府県は多くありますし、あっても営業時間が短かく、普通のクルマのように気軽に扱うことがやや難しいのは否定できません。ですが、これらは普及台数などに依るところ。時代が経てばガソリンスタンドが水素ステーションに変わるかもしれません。
クラリティ FUEL CELLの完成度は相当に高く、まったくもって不安要素ナシ! むしろ一般的な電気自動車よりも使い勝手がよく、こちらが未来の本命といえそうです。ホント、売ればいいのに……とつくづく思います。今後、HondaのFCVラインアップが拡充することを期待したいと思います。
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