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「スタートアップと大企業・中堅企業とが協業するときのポイント ~モデル契約書ver1.0をベースにディスカッション~」レポート

スタートアップと大企業がオープンイノベーションを推し進めるにあたって重要なこととは

2021年03月12日 11時00分更新

 特許庁とASCII STARTUPは2021年1月27日、スタートアップ、大企業・中堅企業のためのワークショップ「スタートアップと大企業・中堅企業とが協業するときのポイント ~モデル契約書ver1.0をベースにディスカッション~」をオンライン開催した。

 本イベントは、特許庁と経済産業省が2020年に作成した「研究型スタートアップと事業会社のオープンイノベーション促進のためのモデル契約書ver1.0」を通じて、スタートアップと大企業・中堅企業の双方にオープンイノベーションを推進するための協業のあり方を考えることを目的としたもの。司会進行は、特許庁オープンイノベーション推進プロジェクトチームの高田 龍弥氏。イベント前半は、中村合同特許法律事務所 弁護士の山本 飛翔氏による講演「大企業とスタートアップ~オープンイノベーションのパートナーとして~」、後半は、参加者30名によるオンラインワークショップが行なわれた。

中村合同特許法律事務所 弁護士 山本 飛翔氏

 モデル契約書ver1.0は、研究開発型ベンチャーと大手企業の連携を促進するため、共同研究契約やライセンス契約などを交渉する際に留意すべきポイントについて解説している。モデル契約書では、大学発ベンチャーと自動車部品メーカーとの協業を例に契約書の考え方を示しているが、もちろん、それぞれの条項は実際の事例に合わせながら活用する必要がある。オープンイノベーションの課題は、スタートアップと大企業それぞれの立場の違いによるギャップが原因であり、公平で良好な関係を築くには、双方の考え方を理解してギャップを埋めていくことが重要だ。

 今回のワークショップでは、各参加者が実際に経験した連携先とのトラブルなどを共有しながら、連携によって創出される発明の価値を最大限に高められる契約書のあり方についてディスカッションした。

 前半の山本 飛翔氏による講演「大企業とスタートアップ~オープンイノベーションのパートナーとして~」では、1)クローズドイノベーションの限界・ジレンマ、2)スタートアップとは、3)スタートアップにとっての知財、4)オープンイノベーションのパートナーとしてのスタートアップとの関わり方――の4つのトピックについて解説した。

1)クローズドイノベーションの限界・ジレンマ

 従来の大企業の開発手法の主流はいわゆる「自前主義」であり、基本的に自社内で開発する閉鎖的な形だった。オープンイノベーションの必要性は、イノベーションのスピードが上がり、製品寿命の短縮化、技術の掛け合わせによる新しい価値の創出が求められるようになったことが背景にある。大企業が単独でイノベーションを生むには、既存事業を食いつぶすような新規事業には取り組みづらいこと、また、人的・物的リソースが大きく、コストがかかりすぎるため、ニッチ市場には参入がしがたい、といったジレンマがある。

2)スタートアップとは

 大企業のパートナーとしてのスタートアップは、自社事業の脅威となりうるイノベーションへの備えとしての役割があり、自社の事業領域を拡大するオープンイノベーション、CVC等を活用して出資する、といった連携が行われている。

 スタートアップと中小企業との違いは、中小企業がすでに成立している市場の中で確立したビジネスモデルの一部分を担うのに対し、スタートアップは、新しい市場を創出し、自らビジネスモデルを構築していくため、大企業が狙いづらい市場を補完してくれる可能性もある一方で、既存事業が脅かされかねない存在でもある。中小企業が自社の売り上げと融資を原資に事業を回しているのに対し、スタートアップは、VC等の投資家から多額の資金調達を繰り返すのも特徴だ。次回調達に繋げるためには、1~2年の短期間で実績を出す必要があり、さらにVCのファンド期限との関係で、概ね10年以内にIPOまたはM&Aが求められる。

3)スタートアップにとっての知財

 人的・物的・金銭的リソースが限られているスタートアップにとって、特許1件が持つ重みは大企業に比べて相対的に高い。知財のメリットは、大きく独占、連携、信用の3つがあるが、特に大企業との連携においては、オープンクローズ戦略が極めて重要になる。新しい市場を狙う場合、開拓直後の市場は小さいため、プレーヤーを増やして市場を育てることが必要だ。ただし、すべての知財を解放すると競争に負けてしまう可能性があるため、重要な技術やノウハウは秘匿化しつつ、一部の特許をライセンス提供して、一定のルールを作ることで市場をコントロールし、自社の利益を守るのがオープンクローズ戦略だ。

 近年は知財を重視する投資家も徐々に増えてきており、創業時から知財活動に取り組んでいるベンチャー企業ほど資金獲得率は高いという調査結果もあり、スタートアップにとって知財は非常に有用といえる。

4)オープンイノベーションのパートナーとしてのスタートアップとの関わり方

 大企業とスタートアップが共同研究開発をする場合、NDA、PoC、共同研究開発契約、ライセンスの順に締結していくのが一般的な流れだ。NDA締結の注意点としては、「公表条項」「共同研究契約への移行の有無の決定期間」「秘密情報の定義」の3つを定めることを提案。スタートアップは次回の資金調達のために、大企業との契約実績を積極的にアピールしたい。そこで、事前の承諾なく公表しても差し支えない内容をあらかじめ合意し、公表条項として定めておくといい。

 次に、共同研究契約への移行の有無の決定期間については、VCから出資を受けているスタートアップは、ファンドの期限に伴うタイムリミットがある。スピーディーに進められない場合は、あらかじめ期限を決めておくことで、ほかのパートナーを探すことができる。

 守りたい情報をNDAの「秘密情報」に確実に定義しておくことも大切だ。NDA締結前には当該情報をどちらが保有していたかを明確にしておくことで、お互いの信頼を守ることにもつながる。

 共同研究開発契約のポイントとしては、「成果物に関する特許権の帰属および成果物の利用権」「マイルストーン払い」が挙げられる。共同研究から生まれた発明を共同出願するケースがよくあるが、スタートアップにとって単独所有でない場合、特許のライセンスアウトが難しく、M&Aの支障にもなりかねない。そこで、特許権はスタートアップに単独帰属しつつ、大企業には一定期間、特定の事業領域において、無償で独占的通常実施権を設定する、といった方法も検討するといいだろう。

 製品化まで時間のかかる分野では、スタートアップ側の資金繰りが厳しくなるので、共同研究開発から最終的な製品の販売までのマイルストーンをいくつか設定して、それぞれの段階で大企業からスタートアップに報酬を支払う「マイルストーン払い」というスキームも考えられる。

NDA・共同研究開発契約のチェックポイント、意見交換ワークショップ

 後半のワークショップでは、参加者が4つのブレークアウトルームに分かれて約40分のディスカッションを実施した。それぞれのチームで、共同研究開発におけるNDA、共同研究開発契約をどのように進めていくべきかについて、スタートアップサイドと大企業・中堅企業サイドのそれぞれの視点から、実際の交渉で感じたギャップや要望を意見交換し、ディスカッション後に、各チーム4分ずつ議論した内容を発表し、質疑応答を行なった。

 知財権の帰属に関しては、各チームともスタートアップサイド、大企業サイドのどちらも単独帰属が望ましいとし、現実的にはすり合わせは簡単ではなさそうだ。あらかじめ代替案を設定しておくことが大事といえる。

 最後に総括として、「大企業にとって決済をクリアするのは重要な問題。スタートアップは、大企業の事情をしっかり理解したうえで、突破方法を考えてほしい。事業部との交渉時には、どういう座組でビジネスを進めるのかをきちんと詰めていくこと。また、交渉を有利に進めるためにも、取引によって相手側に大きな利益が得られることを、もっと積極的にアピールすることが重要です。同様に大企業側も、スタートアップのVCとの関係など、相手のビジネスの立場や考え方を理解する努力が必要。モデル契約書を参考に、チェックリストを作るなど、議論のスタート地点を適切に設定するのもいい方法です」とアドバイスした。

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