自動運転時代の「クルマってどう使うんだろう?」に応える楽しい提案が盛り沢山
自動車連携スマホアプリのコンテスト「SDLアプリコンテスト2020」の最終審査会を開催!
コロナ禍を乗り越えて開発が続けられた11作品が最終審査対象に
クルマと連携するスマホアプリの開発コンテスト「クルマとスマホをなかよくする SDLアプリコンテスト2020」のグランプリを決める最終審査会が2021年3月8日(月)にオンライン開催された。当日は多数の応募から一次審査を通過した11の候補作についてプレゼンテーションが実施され、グランプリは『安全運転支援&コロナ3密回避 遠隔同乗システム「ドライブ気分」』が獲得。さらに特別賞が5チームに贈られた。
SDLとは、クルマ(四輪と二輪の両方が対象)とスマートフォンを連携させるオープンソースの業界標準「SDL(スマートデバイスリンク)」のこと。エンジン回転数や車速、ドアの状態などクルマの情報にアクセスでき、ダッシュボード等に組み込まれるSDL車載器のタッチパネルでスマートフォンを操作することが可能になる。コンテストではSDLを使い“クルマとスマホをなかよくする”連携アプリを作成する。
本コンテストは今回が3年目で3回目の開催。開催目的として、運転中のながらスマホが2019年12月1日から厳罰化されたことから、より快適で安全なSDLアプリの可能性を広げることも狙っている。車種も四輪だけでなく二輪車で利用するアプリも募集、エンタメ利用といった個人利用のほか業務利用のアプリも範囲となる。また、操作はタッチスクリーンのほか音声インターフェースも含まれる。
2020年のコンテストは2020年4月1日から応募を受け付け、2020年末に最終審査会を予定していたが、今回は期間を延長。オンラインでのハッカソンなど経て、応募締め切りは2021年2月21日までとなり、最終審査会もオンライン開催に変更して実施された。
最終審査は候補の11アプリについてオンラインでプレゼンテーションを実施したのち、審査員によってグランプリなどが選ばれた。審査員長は東京大学大学院情報学環教授の暦本純一氏、審査員としてモータージャーナリストでノンフィクション作家の岩貞るみこ氏、開発者でAR三兄弟長男の川田十夢氏、トヨタ自動車e-TOYOTA部/SDLコンソーシアム日本分科会の久米智氏が担当した。なお、審査会の司会は毎回お馴染みの池澤あやか氏が務めた。
グランプリの『安全運転支援&コロナ3密回避 遠隔同乗システム「ドライブ気分」』
今回グランプリを受賞した『安全運転支援&コロナ3密回避 遠隔同乗システム「ドライブ気分」』を発表したのは九州産業大学 理工学部 情報科学科 合志研究室で、遠隔で同乗した気分を味わうことのできるシステムをメインとしたもの。ドライブ状況をネットで公開、あらかじめ設定した人だけでなく、一般閲覧者が匿名で行なう運転評価を随時反映させ、運転中の孤独感をやわらげるほか、法規走行などへのモチベーションを高める工夫がなされている。
映像だけなら運転映像のライブ配信でも可能だが、SDLを使えば運転操作のデータまで外部へ伝えることができる。また、収益化も考慮しており、遠隔同乗者オプション案を示しプレゼンターからは往年のドラマの名セリフをもじった「同乗(どうじょう)するならカネをくれ」というフレーズで紹介したドライブ中の投げ銭機能なども搭載、運転をする楽しみをふくらませる機能も備えている。
今回の審査会のプレゼンはすべてリモートで行なうが、発表者のひとり、合志和晃氏は運転中の車内から説明を兼ねて登場し、画面上にSDLを通して得た速度やエンジン回転数やシフトレバーの状態をリアルタイムに表示させるというオンライン審査会ならではの演出を披露した。
審査員の久米氏はドライブに行きづらい社会情勢のなかで、1人で運転していることを周囲が見守ったり、物流に携わるドライバーを応援したりすることができる点を評価。車内から車外へのコミュニケーションにつながる点を良いアイデアとした。
審査員長の暦本氏は「まさにコロナ禍の三密回避を実現する“遠隔だけど一緒に乗車できる”というコンセプトは、SDLがなければ実現しない新しいアイデアだと思い、満場一致で選んだ。今はまだシンプルなUI(ユーザーインターフェース)にキャラクターが付いたりするとさらに良いし、これからの発展性も大きいと思いグランプリに選ばせていただいた」と評価。発表者の菅本氏は「本当に賞をいただけるとは思っていなかったので素直にとても嬉しい。実際に長距離運転の方や自動車学校などで使ってもらえるようになれば嬉しいので、改善を進めていきたい」とコメントした。
特別賞:キッチンカー支援アプリ Kitchen Meets
グランプリのほか、特別賞として5つのアプリが選出された。1つめは『キッチンカー支援アプリ Kitchen Meets』でKitchen Meets Projectによるもの。
新型コロナウイルスの影響で苦境にたつ飲食店をSDLで解決したいということから考え出され、移動販売のキッチンカーを支援するためのアプリ。課題としては、テレワーカーの増加で、オフィスエリアに出店していたキッチンカーと利用者のマッチングがうまくいっていない現状から。プレゼンテーションでは広島で牡蠣カレーをキッチンカーで販売している事業者を例にデモを行なった。
アプリでは出店場所の提案、仕込み場所の提案、売上管理、SNSによる出店場所やメニューなどのアピールなどの機能を持つ。
受賞後、審査員の川田氏は「マッチングの部分を向上させるなどの開発余地は残っているが、当事者の悩みを解決するよくできた仕組み」と評価。発表した小林氏は「アイデアソンでのちょっとした思いつきから始めて、こういうものが世の中から求められているのかなと思い、受賞を嬉しく思っている。実装やその解決策のレベルを向上させられるように今後も頑張っていきたい」とコメントした。
特別賞:しおわんのきりばん!
続く特別賞は『しおわんのきりばん!』でrino productsが受賞した。クルマの走行距離メーターの数値でゾロ目やちょうど良い数値のキリ番を予告するアプリで、キリ番に近づくとキャラクターの「しおわん」が段階的に予告、キリ番を得た際の場所や時刻などを記録する。クルマ好きならではの着眼点を活かした作品となっている。
キリ番は走行中に一期一会で現れるものの、それを走行中に撮影することはとても危険としており、アプリを使って安心して楽しめることを狙った。LINEと連携してユーザーに賞状が届く機能も備えているほか、キャラクターのしおわんのLINEスタンプもすでに販売中とのこと。
受賞後に審査員の岩貞氏は「私も欲しい!と思った。キリ番という着眼点からアプリ〜LINEスタンプまでつなげた発想が素晴らしい」と評価。「大きいキリ番だと、あまり車に乗らない人では次まで2〜3年かかってしまうので、利用者の思い入れある誕生日などのキリ番も扱えるように改善してみてほしい」とコメントがあると、受賞者の池戸氏は「その部分は課金対象にしたいと作り込みしたので、今後何かしらのかたちで発表できたらと考えている」と今後の展望を語った。
特別賞:TAXI風燃費レシート
『TAXI風燃費レシート』は市川雅明氏が発表したアプリ。クルマの走行開始から終了までをシフトレバー位置で判断、燃料使用量や燃費を自動計算し、小型プリンターでタクシーのレシートのように印字するアプリ。「タクシーのように印刷されるとおもしろい」ということから開発した。
レシート帳などで集める楽しさもあると、アナログの良さを強調したほか、今後はレシートをデジタル的に共有する方法なども検討しているという。現在はシフトポジションで走行の開始と終了を判断しているが、途中休憩で「P」に入れることもあるため、その対応も課題だとした。
審査員からは「クルマの乗り合い時の費用負担問題に有効そうだ」などの評価があり、受賞者から「あえてアナログでアウトプットすることが良いかと思って、見た目に分かりやすいことを目指して考えたネタだった。楽しんで作れたので良かった」と語られた。
特別賞:バイクは楽器
エンジン回転数を使った『バイクは楽器』はTigerBrownが発表のアプリ。エンジン音はまるで楽器のようということから発想し、新たなバイクの楽しみ方を追加するというものになる。エンジン回転数に応じた音階を表示して発音、その音を楽しめるもの。その音階は記録してあとで楽しむこともできる。
違和感のない音楽として聞こえるように工夫し、楽器もピアノやシンセサイザーを設定、実際に再生されたシミュレーターや実車でのデモでは元がエンジン回転数とは想像できない音を発した。発展としてはバイクと楽器を並べた演奏会や、音をHEVやEVの走行警告音に使うなど使い方は無限大だとした。
受賞後に審査委員長の暦本氏は「突然、現代音楽の楽器が爆誕したようですごく楽しかった。音楽家とのコラボや、バイク同士がすれ違うとき絶妙にハモるなど、アイデアをもっと膨らませることもできそう」と評価し、受賞者は「最初は暴走族的なアイデアかな? とも思ったが、開発していくうちに楽器として使えそうな可能性が出てきたので、これから本当に楽器にしていきたい」と今後の抱負を語った。
特別賞:もこもこドライブ
『もこもこドライブ』はちーむパンサルが発表、走行距離でキャラクターが成長する育成アプリで、世界中のドライブを活性化し経済も活性化、自動車事故も抑制するという狙い。エンジンオイルの汚れやガソリン残量はキャラクターの表情で伝えることでクルマのメンテナンスを促し、特定のエリアに入ると背景が変化する。エリアや車両デザインのカスタマイズで収益化を視野に入れている。
受賞後に審査員の久米氏は「純粋に欲しいと思った、車の中で楽しい思いができるし、ドライバー本人だけでなく同乗者や車を降りてからも楽しめるところ発展性があるとも感じた。育成アプリは色々あるが、クルマを擬人化し育成アプリと結びつけて楽しむという新しい方向性があると思った」と実用化に期待を寄せた。受賞者は「楽しんでもらいながら世界中の人にSDLを使ってもらい、世の中が幸せになればいいなと思う」と語った。
そのほか5つのアプリが最終審査で発表
最終審査会では入賞した6作品のほか、5つのアプリが発表された。
『AIBO』はチーム「AIBO」が発表。クルマをアバター化し、ドライブなどミッションをクリアしていくと着せ替えギアを獲得、運転中は音声で対話ができ、運転終了後にスコアが表示されるなど運転状態を可視化していく。
『横断歩行者通知システム』は文教大学情報学部櫻井研究室が発表、カメラで横断歩行者を検知して通知するアプリ。スマートフォンのカメラやGPSを使い、車種などにとらわれず搭載できることが特徴となる。
『SpiCar v2』はPatchWorksが発表した、安全運転評価とその評価値を使ったユーザー同士の対戦をするアプリ。対戦結果によってクーポンを発行し、観光地でのクーポン利用まで想定しており、ビジネスモデルまで含めた提案を行なった。
『DriDri Streamer』はDrive Driveが発表、ドライブ映像のコンテンツ化を目指したもの。SDL上で画面表示しながらYouTube Liveで生配信し、視聴者のコメントを音声読み上げる機能もある。運転に飽きてしまった場合の気分転換も狙っている。
『CarPairLinks』は株式会社アジャイルジェイピーが発表、2台以上でドライブする場合に相手に位置情報を共有して相手に伝えることが容易になるアプリ。ルームを作成し、マップ上にメンバーの場所をSDLで表示し共有できる。
自動運転時代を控え、安心安全に加え「楽しさ」を提案するアイデアも目立った
グランプリ、特別賞の発表のあとの各審査員から講評と審査委員長の総評は以下のとおり。
岩貞審査員:とても楽しく拝見した。クルマは閉鎖空間で、ある意味孤独な空間でもあるが、こうした取り組みでクルマの楽しみがもっと広がるだろうなと夢がふくらんだ。自動車業界では先週、世界で初めての自動運転レベル3の自動車が発売された。この車で自動運転が作動しているあいだはスマートフォンの画面を見ても良いとなっており、これからアプリ開発も多様化してくると思うので今後みなさんの活躍を期待している。
川田審査員:アイデアを動くものに実装すること、そしてSDLは命を預かるものだから開発は大変だったと思うが、どの提案も良かった。審査員を務めて3年目になるが、年を重ねるごとに(意識が強まっているのは)自動運転との区別(対峙)について。やがて人はハンドルを手放すだろうが、その上で生じる孤独などをアプリケーションがどう緩和していくかは、これからもずっと残るテーマだと思う。いろんなヒントを皆さんからいただいた。
久米審査員:コロナの時代にあってもこうしてオンラインでアイデアを持ち寄ってハッキングもし、ひとつのものを作り上げることができるんだと改めて感じた。参加者や我々メーカーの人間は皆、新しいものを作り出すことに喜びを感じる人達の集いであり、今回はその新たな一歩になった。みなさんのアイデアはこういう時代だからか、課題解決のため真剣に取り組むテーマもあったが、そこから肩の力を抜いて楽しさや嬉しさ、面白さを求めているものが増えてきたのが嬉しい。楽しみがあると、より豊かなカーライフが送れる。今日のアイデアを実際に世の中へ出すまで是非突き詰めてほしい、我々も一緒になってやっていきたい。
暦本審査員長:審査員長を務めて3年目だがアイデアが膨らんできていて、自動運転・自動走行の時代に「クルマってどうやって使うんだろう?」というところまで見えるようなアイデアもあって素晴らしいと思った。安全のための課題解決へ触れている作品もあれば、楽器やキリ番など自分の趣味をAPIを用いて推し進めるというのもハッカソンやコンテストの面白いところ。コロナ禍においてチームで開発することが難しいなか、仕上げてくださったことへ感銘を受けた。こういう楽しい活動をこれからも是非続けていってほしい。
なお受賞者にはPDF形式で賞状が手渡されたほか、グランプリ受賞者には賞金50万円と副賞としてAppleのiPad Proが、特別賞受賞者には賞金10万円がそれぞれ授与された。
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