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「IoT H/W BIZ DAY 2020」『世界6400万円超のファンディングを達成したロボット・MOFLIN開発企業に聞くオープンイノベーションの現在』レポート

世界で注目される秘訣とは? AIロボット「MOFLIN」開発企業に聞く

2021年02月18日 09時00分更新

 ASCII STARTUPは2020年12月15日、オンラインイベント「SEMICON JAPAN Virtual」内で「IoT H/W BIZ DAY 2020」のセッションを実施した。6400万円超のファンディングを達成したAIペットロボット「MOFLIN」を手掛けたヴァンガードインダストリーズは、オープンイノベーションを中心に各企業とのプロダクト展開を行なっている。セッション『世界6400万円超のファンディングを達成したロボット・MOFLIN開発企業に聞くオープンイノベーションの現在』では、同企業が進める取り組みを紐解きつつ、プロジェクトを成功に導くための共創のあり方について聞いた。

 登壇者は、ヴァンガードインダストリーズ株式会社 CEOの山中 聖彦氏と経済産業省 特許庁ベンチャー支援班長 鎌田 哲生氏。進行は、ASCII STARTUPの北島 幹雄が務めた。

ヴァンガードインダストリーズ株式会社 CEO 山中 聖彦氏

経済産業省 特許庁ベンチャー支援班長 鎌田 哲生氏

 ヴァンガードインダストリーズ株式会社は、テクノロジーの社会実装の加速による持続的な社会の実現を目指し、ロボットやIoTの製品、サービスの開発に取り組むスタートアップ。オープンイノベーションでは大手企業の研究開発部門や大学などの研究開発機関と連携し、特許やノウハウなどの知財を活用して、製品やサービスのコンセプト、プロトタイプの開発からマーケット実証を通じて事業化につなげる「ベンチャービルダー事業」を行なっている。

 マーケット実証ではクラウドファンディングサービスを活用しトラッキングに加え、Google Analyticsなどアナリティクスツールを統合して分析することで潜在的な需要と市場性を検証し、マーケット実証による実際のデータを開発のプロセスに取り入れることで、データ・ドリブンによる新規事業の創出とその加速を目指している。2020年には開発しているAIペット型ロボット「MOFLIN」(もふりん)のクラウドファンディングを「KICKSTARTER」で行い、グローバルで6400万円超もの支援を集めた。

 今回のパネルディスカッションでは、「MOFLIN発で考える特許・ライセンス・製造の課題」、「IoT/ハードで考えるオープンイノベーションの進め方」の2つのテーマについて議論した。

既存の知財やソフトウェアをモノに落とし込むための課題・解決策

北島:まずはMOFLINの開発経緯から簡単に教えてくださいますか。

山中氏(以下、敬称略):大手企業の研究開発部門や大学での研究活動では、アイデアやコンセプトのプロトタイプがあっても、組織として取り組むがゆえに、その多くが実際に世の中で普及するような商品やサービスにまで至らないという現実があります。MOFLINのプロジェクトも、そういった大手の企業や現在のモノづくりを取り巻く事業環境において「可能性のあるコンセプトに対して、従来とは異なるアプローチから実現化を目指す」として始めたものです。

北島:MOFLINは遺伝的なアルゴリズムや機械学習などの技術により、触る人や音など、環境によって反応が変わってくるんですよね。

山中:「可愛い」という感じ方は人によって違いますが、MOFLINの可愛いらしいふるまいはセンシングから一連の動きの組み合わせとしての反応によって作られます。それらは、実際の生き物が外部とのコミュニケーションを通じて学び、変化するように成長していきます。例えば、スマート・スピーカーのように、人の言葉を解析して、それに応じて情報を取得するような具体的な機能を提供するというより、人が日常生活でペットと触れ合う中で、癒されたり、可愛いと感じたり、安心したりといった、人にとって基本的で重要な役割を体現しています。

北島:MOFLINに関わらずですが、未活用の知財に着目するケースは多いのでしょうか?

鎌田氏(以下、敬称略):特許庁では、企業・大学・公的研究機関が保有する開放特許に関する情報を無料で検索できる「開放特許情報データベース」を公開しています。使われていない特許の権利譲渡または実施許諾を受けて活用される事例も少なくはありません。

北島:知財やソフトウェアがあったとしても、モノに落とし込むのはやはり大変ですよね。

山中:特許化の有無やその独創性だけでなく、それらをコンセプトとしてまとめ、製品として実現するうえでは、開発や製造の面で必要な投資やコストという点だけでなく、例えば、量産の面で構成する部品が安定して調達できない、製造の面で歩留まりとして改善が難しいなど、さまざまな理由や課題によって実現できないことも当然あります。机上でわからないことは多くあり、実際に商品として成り立ち、ビジネスとして成立しうるかプロトタイプ開発に取り組み、マーケットで実証することはアウトプットとして重要だと思っています。

 MOFLINの場合では、日常生活の中で安心して使ってもらえる点も重要になります。例えば、リチウムイオン電池やモーターを使っていますが、ぬいぐるみのような着ぐるみのある製品を、幅広い年齢層の方々でも日常的に使用し、続けられるようさまざまな工夫をしています。開発する要素も、筐体、メカ、アプリケーション、ウェブサービスなど、体験として成り立たせるうえでは色々な要素の検討が必要であり、国内の様々な企業との協力体制によって開発、実現に向けて取り組んでいます。

北島:役割分担のポイントは?

山中:アーリー・ステージでコンセプトを具体化し仕様を落とし込んで具体化する開発の段階と、実際に数百個、数千個から数万個を作り、出荷できるようにする段階では、それぞれ取り組むべき課題やリスクの性質が異なってきます。それぞれの段階に適した形でのチーム体制が重要になります。また、それらの過程において状況が変わり、例えば部品が製造中止になり、それらにともなう仕様の変更が起こることもあります。新型コロナでは、調達や輸送にも大きな影響が生じています。それらに対して差分を埋める活動を行ない、検証やテストを通じて品質を上げていくことが求められると思います。

北島:クラウドファンディングで6400万円調達できた理由として、何が効いたのでしょう?

山中:弊社ではマーケットの実証として、海外の大手クラウドファンディングサービスやグローバルでの大規模なテクノロジー・カンファレンスの機会を活用しています。理由としては、KICKSTARTERなどのクラウドファンディングでは、新しいコンセプトに対してチャレンジに対してフラットに評価、リスペクトするコミュニティや環境があり、また、世界の様々な価値観やスタイルを持つ方々に広く知ってもらうことができる点にあります。初めて目にする人にとってのコンセプトの理解からプロダクトに興味を持って、購入したいという段階に至るまでの過程をきちんと設計し、また、それらを開発のプロセスとも連携する取り組みが重要であると考えています。

北島:予想とのズレはありましたか?

山中:当初はもっと早い時期の公開を予定していたのですが、コロナの影響もあり開発やビジネス設計におけるポイントや、サプライチェーン上の課題も何カ所かあり、仕様やスケジュールにおいて想定からの変更がありました。ただ逆に、クラウドファンディングの時期という点では世界中で巣ごもり需要が高まったこともあり、リモートワークの環境やメンタルヘルスの点からMOFLINのコンセプトに期待するという声も多くありました。それらを開発へとフィードバックしています。

鎌田:海外を相手にマーケティングされていますが、日本の消費者と海外の消費者が求めることの違いはありますか?

山中:日本の消費者はECや量販店の商品に近いイメージ、実社会で使うイメージで具体的な製品を求める方が多い印象があります。KICKSTARTERなど海外のクラウドファンディングでは、コンセプトとして目指している世界感、顕在化されていないものへのチャレンジ、そこで試行錯誤して取り組むクリエーターに対する応援するという方々が多いような印象があります。

北島:MOFLIN以外の進行中のプロジェクトで、特許・ライセンス・製造まわりで何かエピソードはありますか?

山中:オープンイノベーションというアプローチが知られるようになっていることもあり、これまでにあまりなかった産業界の大手企業の方より取り組みのお声がけ頂くことが増えています。自動車の完成車メーカーや関連する産業などの日本のモノづくりの中心の企業においても、これまでにない領域や複合的な領域など、新しいコンセプトの実現、事業の創出が求められていることを実感しています。

北島:MOFLINでは、0→1は成功していますが、この先1→10→100でのヴァンガードインダストリーズの関わり方はどのように考えていらっしゃいますか。

山中:実現のプロセスにおいては当初の開発や製造から、ブランドとしての展開など、様々な関わり方、オープンイノベーションとしての連携の可能性があると考えています。事業を取り巻く環境、市場からの期待に対して、柔軟性を持って取り組むことが大事であると思っています。

スタートアップのなすべき役割、求められるものとは?

北島:お二人が考えるオープンイノベーションとは?

山中:私は、スタートアップと大手企業はそれぞれ違うビジネスであると考えています。大企業が目指すインパクトの創出と、スタートアップが果たすべき役割、領域は別のもので、競争、競合しうるものでは必ずしもないと思います。オープンイノベーションでは相互に補完することで価値を創出し、より良い社会の実現に向け全体として盛り上げていくことを目指しています。

鎌田:大企業とスタートアップでは、得意不得意は違います。大企業はきっちりものを作ることが長けていますし、中小企業はアイデア、コンセプトが強い。それぞれにないものを持っていますので、大手同士が組むよりも、大手企業とスタートアップが組むほうがより価値のあるモノを生み出せる。イノベーションの概念は、経済学者のヨーゼフ・シュンペーターが提唱したと言われていますが、これは技術革新よりも広い概念で、大手とベンチャーが結合することで化学反応を起こし、これまでにないものができるのがオープンイノベーションです。

北島:ここ数年は行政もオープンイノベーション支援の動きが活発ですね。

鎌田:最近は、ポスト/ウィズコロナで異業種間連携が増加しています。たとえば、宿泊予約や現地ツアーのオンライン体験サービスの提供、フィットネスの予約サービス、がんや糖尿病の在宅検査キットなど、既存の枠を超えた発想が必要になり、大企業とスタートアップの連携がとても活発になっています。

モノ作りでは避けられない知財や契約の問題を解決するための取り組み

 最後に、鎌田氏から経済産業省のオープンイノベーション「モデル契約書」事業についての説明がなされた。

 昨今、日本のオープンイノベーションが進むなかで、中小企業やスタートアップの知財が搾取される怖れがあることから、契約のひな型がほしいという要望が出てきた。2020年4月の経団連スタートアップ制作TFの提言では、モデル契約書に加えて、大企業やスタートアップを含めた関係者に求める行動についても言及。第37回の未来投資会議では、安倍総理から問題事例とその具体的改善の方向や独占禁止法の考えを整理したガイドラインの作成」の方針が示され、経済産業省は公正取引委員会との共同事業としてモデル契約書を作成・公開している。

 ガイドラインの作成には、公正取引委員会の実施調査報告で明らかになった知財搾取事例などをもとに作成され、NDA契約、PoC契約、共同研究契約、大企業主催のオープンイノベーションプログラムなど、さまざまなケースでの契約上の問題に対して、トラブルを回避するための方法が具体的に示されている。

 ハードウェアスタートアップの成長には、知財や契約の問題を避けては通れない。中小企業やベンチャーの経営や知財に関する課題の相談窓口として、全国都道府県に「知財総合支援窓口」が設置されている。また、営業秘密・知財戦略相談窓口では、対面、電話、ウェブ、メールで営業秘密に関するアドバイスが受けられる。困ったことがあれば、まず、こうした行政の支援を活用してほしい。

 また、特許庁のスタートアップ向けサイト「IP BASE」では、知財アクセラレーションプログラムIPASの最新情報、先輩スタートアップの知財戦略事例集、スタートアップ支援に意欲のある知財専門家の検索、スタートアップ向け知財セミナー・勉強会、知財専門家へのオンラインQ&Aといったコンテンツを配信している。IP BASEのメンバーに無料登録すると、知財専門家の検索、Q&Aへの質問、勉強会への参加が可能だ。現在、スタートアップはもちろん、多くの大手企業や弁理士、弁護士が会員登録しており、出会いの場としても活用できる。興味のある方は、メンバー登録してみては。

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