第11回 豊洲の港から presents NTTデータ グローバルオープンイノベーションコンテスト(後編)
地域経済、中小企業を助ける新しい働き方ギグワークに期待
2020年10月28日、第11回 豊洲の港から presents NTTデータ グローバルオープンイノベーションコンテストの日本選考会が行われた。今年は13ヵ国で選考会が開催され、各地域での表彰企業は2021年1月29日に開催のグランドフィナーレへ出場した。
20社が登壇し、前回、「不注意運転を検知する運転手監視システムなど登場 第11回 豊洲の港から日本選考会」では前半10社のプレゼンを紹介したので、今回は後半8社と選考で勝ち残った優勝企業を紹介していこう。
医師の処方ミスを70~80%もの高確率で見つけ出す「MEDGUARD」
登壇したAESOP TechnologyのJeremiah Scholl氏は、処方ミスの問題を解決しようとしているスタートアップのChief Product Officerで、社名はAI-Enhanced Safety Of Prescriptionの頭文字を取っている。
アメリカでは誤った薬の投与で命を落としてしまうことが多発していることが社会問題になっている。原因はいろいろあり、患者の診断、年齢、性別に合わない薬を医師が処方箋に書いてしまうケースのほか、名前がよく似た薬と取り違えてしまったり、コンピュータの画面で違う薬をクリックしてしまったり、単なる知識不足のこともあるそう。
従来のシステムは、糖尿病にはインシュリンを、といった医薬品ガイドラインで医師が異なる処方箋を出そうとした時にはアラートを出すというものだった。現在の医療は複雑化し、従来のアラートの精度は10%以下だったそう。
機械学習が得意な分野なのに、データが分散されていて整理されておらず、個人情報なので学習に十分なデータにアクセスできないという課題があった。そんな時、同社の共同創業者のJack氏が台湾の13億件の処方箋データにアクセスできることになった。
クリーンルームでのアクセスだったので、データのダウンロードもアップロードもできない。そこで、Jack氏はその場でスクリプトを書き込み、結果を出力した。数年後、効果のある手法を見い出したJack氏はメタデータの抽出許可を得た。その後、アメリカのデータに適用し効果を出したそう。その時にできたのが「MEDGUARD」という製品だ。
意思決定システムで、不適切な処方を70~80%の精度で特定でき、リアルタイムで医師にアラートを出せる。さらに、医薬品や診断にレコメンデーションを出すことで、ワークフローも改善できる。台湾でも注目され、5つの病院で1日に1万件もの処方箋をモニタリングしているという。
電話営業やコールセンターのトークを見える化する「MiiTel」
株式会社RevCommパートナーセールスマネージャーの岩名地卓思氏がプレゼンした。2017年7月に設立された同社は、音声と人工知能を掛け合わせたプラットフォーマーを目指すスタートアップとなる。プロダクトは電話営業・コールセンターを人工知能で可視化する「MiiTel(ミーテル)」だ。
リリースして2年が経過し、ソフトバンクや富士通、Sansanなど業界や規模を問わず400社以上に導入されている。現在のユーザー数は約1万1000ID、累計コール数は約1900万件となっている。
電話応対では「ブラックボックス問題」が課題になっている。顧客と担当者が何をどのように話しているか分からないため、なぜ成約もしくは失注したのかがわからないのだ。結果的に、科学的ではない属人的な電話応対になってしまうという問題がある。
「MiiTel」は電話サービスではあるが、4つの機能で業務効率化を支援する。1つ目が全文文字起こしで、2つ目が話し方の特徴を定量評価するスコアリング、3つ目が行動分析とコーチング機能、4つ目が電話から営業までワンストップで支援する外部連携となる。
導入効果としては、ブラックボックスを解消することで、社内ノウハウを可視化し、コーチングにより営業トークの質が上がり、テレワークで働きやすい環境を構築し、生産性を向上できる。さらにはコストダウンとしては、電話機やPBXが不要で、教育コストも抑えられる。10桁の番号を押す架電工数やアフターコールワークも減らせ、電話料金も減るという効果も得られるなどメリットは大きい。
ヒット率の高いFAQでユーザーを助ける「Helpfeel」
13社目はNota,Inc CEOの洛西一周氏が登壇。どんな質問にも答えるスマートFAQ「Helpfeel」を紹介した。
どこのウェブサイトにもFAQが用意されているが、実際は75%のユーザーが問題を解決できていないという。例えば、Facebookでグループを作りたいので「グループ 作り方」で検索して何も出てこない。Amazonで送られてきた商品が動かなかったので「動かない」と検索したら、アプリが開かない、クラッシュするという回答が出てきたそう。
「この課題を解決するために、我々は「Helpfeel」というサービスを作りました。意図予測検索という独自の検索アルゴリズムによって、ヒット率98%という高い自己解決率となっています」(洛西氏)
この意図予測検索はユーザーの質問を50倍に拡張した質問予測パターンを作って、ユーザーのあいまいな悩みや要求を解決しているという。開発したのは、同社CTOでもある慶應義塾大学の増井俊之教授。
異なる言葉でも質問の意図が同じであれば、同じ回答ページが開くのが特徴となる。そのため高い解決率を実現でき、その後の問い合わせ件数も減らせるというメリットがある。スライドでは、「Helpfeel」の導入前が1945件で、導入後は64%削減の698件というグラフが提示された。さらに、新規ユーザーの定着率の向上にも寄与したという。
一般ユーザーや消費者に向けた「公開FAQ」だけでなく、オペレーターなどに向けた「マニュアル型FAQ」、大企業が社員向けに用意する「社内FAQ」にも対応している。
オンラインの会話を分析しコミュニケーションの質を向上する「I'mbesideyou」
14社目は株式会社I'mbesideyou 代表取締役社長の神谷渉三氏。神谷氏はコロナに対応した社会インフラを作るため、NTTデータを退職して起業した。
オンラインでは、1人1人の表情や反応が読みづらく、コロナ禍における課題となっている。そこでI'mbesideyouはこのコロナ時代のペインをゲインに変えるサービスを提供する。
オンライン上の表情や顔の向き、視線、音声などで解析し、相手をより深く理解できるようにする。反応から相手の個性を理解し、ベストなコミュニケーションに近づけられるという。
事例としてはオンライン家庭教師サービス「BANZAN」が紹介された。生徒数が増えて人の目で確認できなくなっており、生徒と家庭教師の相性判定もできていなかった。
I'mbesideyouをZoomにリンクさせるだけで、翌朝から自動的にレポートが届くようになる。レポートには前日に行われたすべての授業からマネジメントが必要なアクションだけが表示される。スライドでは、連絡なし遅刻をしたとか、ほとんど話していないとか、「受からない」「ふざけるな」といったNGワードを発したという行為が検出されていた。逆に、生徒の表情がとても良くなった、といういいパターンもあった。
アラートになURLが付いており、クリックすると該当箇所が頭出しで再生されるので、どんな文脈でNGワードを言ったのかがすぐにわかるようになっている。
最適な講師と生徒をマッチングし、AIでコミュニケーションの質を担保することで、顧客のロイヤリティが向上し、解約率の低下や口コミによる新規顧客獲得という競争優位性が生まれるという。
AIでトークの構造を解析する「UpSighter」
15社目はコグニティ株式会社基盤事業部部長の田中友理氏がプレゼン。営業や接客などのあらゆるビジネスコミュニケーションをAIで解析をして、どのような話し方をしているのかフィードバックレポートにまとめるサービスを提供している。
同社は2013年に創業し、創業当社から完全在宅勤務制を導入しており、世界各地で190名の従業員が働いているそう。その知見を活かし、ウィズコロナにおいてリモートワークを支援するサービスを手がけているという。
「UpSighter」というAIトーク解析エンジンにアプリで音声を録音したり、音声ファイルをアップロードするとビジネスコミュニケーションを数値やグラフで定量化してくれるというものだ。
一般的なAIでは単語の量や声のトーン、スピードなどしか分析できないのだが、「UpSighter」では独自技術により、トークを主観理由や主たる話題、客観根拠、具体説明に分類し、構成を分析できるのが特徴だという。
「1万6000件のデータベースを持っているので、どんな会話でも100%分解できます」と田中氏。
みずほ銀行の導入事例では、新入社員100名の集合研修時にロールプレイを録音し、次の集合研修でレポートを使ったフィードバックとディスカッションを行なったそう。コロナ禍では集合できなかったが、録音やビデオ会議で活用したという。
保険の請求漏れをなくしつつ保険代理店も支援する「保険簿」サービス
16社目は株式会社IBのCEO 井藤健太氏。井藤氏は大学時代に保険業界の研究に取り組み、保険乗合代理店や損害保険会社などを経て、2018年、保険の請求漏れをなくすというミッションを持ってIBを創業した。
保険加入者が請求できるはずの保険に気が付いておらず、そもそも請求していないケースがあるそう。認知症や重症で自ら請求できる状態でなかったり、払い込みを終了し契約の存在を忘れていたり、難しい特約やクレジットカードの付帯保険などの知識が足りなかったすることが原因だ。同社の推計では年間約1.6兆円の請求漏れが発生しているそう。
現在は、コロナなどの影響で保険業界は転換期を迎えているという。今後、保険代理店が生き残るためには、売り手本位から顧客に寄り添っていくスタイルに変化しなければならない。
そこでIBでは保険代理店向けに「保険簿forBusiness」、コンシューマ向けに「保険簿」の二つのツールを提供する。ユーザーは保険簿アプリで保険証券をカメラで撮影すると自動でデータベース化し、請求できる保険を教えてくれる。
「保険簿forBusiness」はLINEのようにQRコードでユーザーとつながることができ、「保険簿」アプリに登録されている他社の保険情報まで確認できるようになる。
30社ほどに導入されており、契約者との接点を活かしたクロスセルや紹介が生まれているという。
ギグワークで中小企業の人手不足を解消する「spotgig」
17社目はアクシスモーション株式会社代表取締役CEO 田中祥司氏が登壇した。同社は地域金融機関とギグワーク連携を目指す地域経済活性化プロジェクトを推進している。
ギグワークは対面で役務を提供するのが特徴。オンライン上で役務を提供するクラウドソーシングでは、エンジニアなど一部職種に限られてしまうのが課題となっている。その点、ギグワークであれば、事務や営業、経理などの幅広い職種でマッチングできるというメリットがある。
プロジェクトの着想背景は、人口減少に伴う人手不足。2030年には600万人もの人手不足が予測されている。地域金融機関も、定年退職に伴う勤労者との接点喪失や融資先中小企業の人手不足といった課題を抱えている。
この課題を解決するため、主婦や定年退職者、介護退職者、自営業やといった地域に眠る労働力を掘り起こし、中小企業の人手不足を解消するという。すでに「spotgig」というサービスを提供し、累計登録者数は2万5000人、累計利用社数850社、月間マッチング件数は2万件になっているという。
優秀な営業マンの手法を可視化する営業アシスタント「VYMO」
18社目はVymo Japan株式会社代表取締役 河上勝氏。同社はパーソナルセールスアシスタント「VYMO」を提供している。
「実は過半数の営業マンは予算を達成できていません」と河上氏。加えて、企業がSalesforceのようなCRMを導入することで、営業マンは毎日レポートを求められるようになった。優秀な営業マンほど、そのレポート作業を後回しにするそう。
実際、CRMに入力していない独自の顧客データを持っている営業マンは69%、CRMに不完全な顧客データを入力している営業マンは88%もいるそう。きちんとCRMを利用している営業担当者は30%と以下になっているという。
「VYMO」では、AIによって優先すべき顧客を提案したり、訪問の抜け漏れを通知することで営業活動のパフォーマンスを向上させてくれる。電話履歴や会議、訪問先の打ち合わせを検知するので、それぞれを記録する手間を省いてくれるのもポイント。マネージャーには各メンバーの情報が通知され、適切なタイミングでアドバイスを与えるように推奨してくれる。さらには、できる営業マンの行動パターンを学習し、全員にフィードバックしてくれる。
優勝したのは「Mira Robotics」と「アクシスモーション」
全18社がプレゼンし、その中から翌日に受賞企業が発表された。共通テーマで優勝したのは、「Mira Robotics」。ビルメンテナンスサービス業の深刻な人手不足をヒト×ロボの分業モデルで解決するビルメンテナンス向けアバターロボット「UGO」を開発している企業だ。選考理由は以下の通り。
「まだ限定的だが、アームがありそれを遠隔制御できる点は非常に興味深い。用途が無限大なのが良いと思う」
「スマートビルにおけるメンテンナンスや防災・セキュリティにおける協業を想定したい」
個別テーマで受賞したのは「アクシスモーション」。同社は地域金融機関とギグワーク連携を目指す地域経済活性化プロジェクトを推進している。選考理由は以下の通り。
「地域の社会課題に資すると考える。お客様からのニーズはある領域」
「課題はあるが突き抜けたサービスが世の中にない状態のため一緒に手を組んでデファクトを取れると面白い」
「信金から先の中小企業に向けたポータルサービスコンテンツの1つとしても取り込める(スケールする)可能性がある」
さまざまな領域で、多様な課題を解決すべく、18社の熱いプレゼンが行なわれた。実証実験段階のスタートアップから、すでに多数の企業に導入されている企業までバリエーション豊かだったが、どこも将来爆発的にスケールしそうな課題と市場にチャレンジしていて面白かった。
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