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〈前編〉アニメの門DUO 数土直志氏×まつもとあつし対談

アニメ市場は拡大も「アニメ格差社会」が発生か!?

2021年02月11日 18時00分更新

コロナ禍が「ライブエンタメ」を直撃

まつもと それからもう1点、「ライブエンターテイメント」について。これまでのアニメ産業レポートでも、ライブが伸びているということが繰り返し指摘されてきました。ところがこのコロナ禍で180度変わってしまいました。しかも最近のアニメ作品ではライブと連動した企画が増えています。どのような影響が出てくるのでしょうか?

数土 Blu-rayやDVDが以前ほど売れないこの時代にアニメはどうやって生き残るのかと考えたとき、1つは海外も含めた「配信権の販売」、そしてもう1つが「メディアミックス」です。従来からメディアミックスには多様な手段がありましたが、最近はライブイベントやコラボカフェといったリアルに視聴者が消費するスタイルが増えています。ここに収益の活路を見出していた作品は今後どうするのか?

まつもと 当然、企画を変えざるを得ないとお考えですか?

数土 一番気になっているのが、このコロナ禍がどこかで終わったとしても、たとえば劇場に物販を設けて長蛇の列を作るとか、あるいはAnimeJapanみたいに東京ビッグサイトを満員にするとかして「熱気があって人気がある」ということを「演出」することができないのではないか、と思っています。この点を制作サイドはどう考えているのかです。

まつもと アニメ業界はイベントの配信化に素早く対応しましたよね。結果、これまではBlu-rayに封入されている抽選券を使わないと参加できなかったイベントにも配信で参加できるようになりました。私はリアルイベントになかなか参加できない働き方をしているのですが、配信イベントなら参加できることに気づきました。そして実際に参加してみると、その内容が豪華なことに驚きました。忙しい声優さんたちが2時間も3時間も語ってくれるのですね。

数土 従来のイベント開催の考え方は「大きな箱を用意して空席が目立つのも問題だから、買えない人が出ても小さい箱を満員にしよう」だったと思います。それが配信化で「見てくれる人には全員見てもらおう、そこから人気を広げていこう」という考え方に変わっていくのかもしれません。

まつもと そういったイベントの変化がアニメの企画そのものに影響を与えていくことは間違いありません。ただ、かつて『震災の影響を結構受けているな』という作品が東日本大震災からだいぶ経ってから登場したことを考えると、「アフターコロナを見据えたビジネスモデルがベースのアニメ作品」を我々が目にするのは2~3年後でしょう。

数土 長期的に考えると、現在アイドルアニメの企画を新たに、とは言い出しにくいと思うんですよ。イベントもできないのにアイドルアニメなの?と。すると一時的にアイドルアニメがスッと減るかもしれない。でも2年後はもうコロナがなくなっているかもしれないから、じつはそのときにこそアイドルアニメがあったほうがいいのかもしれないですけれど。

まつもと 本当に読めないですよね。完全に生活習慣が変わってしまうかもしれないし、ワクチンを接種した途端みんな何事もなかったかのように元の生活に戻ってしまうかもしれない。

数土 そうですね。あまり気づかれないですが、社会的環境とかビジネス環境って、作られるアニメ作品に相当影響を与えていると思うんです。SFとかファンタジーは、Blu-rayやDVDをポンと買ってくれる人はいなくなって一時期辛かったですが、いまはアメリカの配信会社がワッサワッサと買います。異世界系なんかも大人気ですよね。

まつもと 数土さんはSci-Fi系――1980年代から90年代半ばくらいまでの「日本風のSF」みたいな作品――が海外のファンにウケているし、ニーズもあると以前から仰っていましたよね。現在のコロナ禍で制作力も限られるなか、日本のアニメは日常系からそういった方向へシフトしていく傾向があると。

<後編はこちら>

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