「日本発SMART Medtechスタートアップに聞く IoT/ハードとしての先端医療機器開発最前線」レポート
スタートアップのリアルな声から見えた「医療ハードウェア開発にこそグローバルなチャンスあり!」
ASCII STARTUPが主催するハードウェアとIoTプロダクト関連事業者の展示交流・ビジネスセミナーイベント「IoT H/W BIZ DAY 2020」より、「日本発SMART Medtechスタートアップに聞く IoT/ハードとしての先端医療機器開発最前線」と題したカンファレンスの内容を紹介する。医療機器やヘルスケア分野では、IoTを取り入れたデバイスやサービスの開発がスタートアップ中心に進められている。本プログラムではデジタルを活用した新たな医療機器の開発に様々な方向から取り組むスタートアップを登壇者に招き、医療の現場や導入での苦労といったリアルな話題をパネルディスカッションを交えながら議論した。
カンファレンスは、デジタル聴診デバイス「ネクステート」の開発で注目される シェアメディカル 代表取締役 CEOの峯 啓真氏、ロボットやAI、IoTシステムを研究開発するハタプロ 代表取締役の伊澤 諒太氏、次世代尿検査サービスの開発に取り組むヘルスケア IoT企業Bisuの共同創業者兼CEOのDaniel Maggs(ダニエル・マグス)氏が参加。司会進行役はASCII STARTUPの北島 幹雄が担当した。
すでにある質素な技術を使い、とにかく早く商品化
シェアメディカルの峯氏がデジタル聴診器(ネクステート)の開発に取り組んだのは、知人の医師から「診療で使う聴診器で耳が痛く拷問のようだ」という切実な悩みを聞かされたのがきっかけだった。医師のアイコンともいえる医療機器だからこそ、デジタル化するという発想がありそうでなかった。
機能としてはシンプルで、既存の聴診器にデバイスを付けて微弱な聴診音(生体音)をデジタルで飛ばして聴けるようにする。それだけでは単なるアナログの延長にすぎないため、USBでデジタル出力したり、呼吸や心音を強調するモードを搭載した。いわゆる“フルーガル・イノベーション”と呼ばれる、すでにある質素な技術を使いとにかく早く商品化したのだ。
「ハードウェアとしては最初から完成品に近いが、高度な技術を使っていないので、早く作って既成事実を積み上げることで投資家を納得させようと考えました」(峯氏)
そのやり方が結果的に医療現場のイノベーションにつながった。2019年の発売から1年を迎えた時にコロナウイルスの感染が拡大し、医師が患者に触れず聴診できるネクステートの導入が進んだ。聴診器を患者自身が身体に当て、医師はヘッドホンで音を聴くといった新しい使い方があちこちで始まり、製品を成長させるだけでなく、医療現場のイノベーションにもつながった。
汎用だがソフトウェアで様々なサービスが提供できるAIロボット
2010年創業のハタプロはロボットやAI、IoTシステムを開発し、2016年にNTTドコモと業務提携している。AIをベースにしたソフトウェアやロボット・ハードウェアを複数の企業に提供し、ベネッセや日本航空、リクルートらと共同開発事業も行っている。AI開発での実績を元に日常生活の中にある、あらゆるものをロボット化していくという考え方で事業を展開し、サービスをOEMで提供するなどしている。
主力商品である小型のコミュニケーションAIロボット「ZUKKU(ズック)」は、マイクやスピーカー、画像認識など機能はシンプルだが、AIをベースにしたソフトウェアで様々なサービスが提供できる。介護や医療施設などにも導入され、販売台数は4万台を越える。「ZUKKUのようなロボットは、海外では大手製薬会社やシリコンバレーの先進企業が注力しているが、日本で製品化されたのはZUKKUが初めて」(伊澤氏)
ビジネスとしてはIoTでつながっていれば形はロボットではなく、鏡やテーブルでもかまわない。すでに家電や家具、住宅、自動車などの業界との連携も進んでおり、今後はヘルスケアとメディカル領域への拡大に力を入れる。
ユーザーが利用しやすいサブスクリプション型尿検査サービス
日本と米国にオフィスがあるBisuは2015年に創業され、日常の健康管理に関わるあらゆるニーズに対応する医療サービスの提供に取り組んでいる。開発中の尿検査サービス「Bisu」は、使い捨ての検査スティックに尿を直接つけてデジタルデバイスに挿し込むと検査結果がスマートフォンで表示される。
デジタルを使う尿検査サービスは複数あるが、Bisuは簡単で衛生的なうえ、省電力で毎日正確なデータを収集できる。プロトタイプ開発から量産段階に入った機器は検査精度が高く、健康診断以外に栄養状態や疾病の予兆などいろいろな診断ができる。ユーザーが必要な検査を利用しやすいように、サブスクリプションで月額2000円前後の利用料にすることを想定している。
「まずは英語圏に向けて栄養検査サービスからスタートします。人間以外に大型犬の健康診断や、おむつで検査できるようにするなどいろいろなアイデアを考えています」(マグス氏)
医療向けのハードウェアを開発するスタートアップにとって市場は追い風
後半は3者によるパネルディスカッションが行なわれた。
ヘルスケア分野への参入について伊澤氏は、ものづくりの会社として世の中の役に立ちたいという思いがあり、「医療関係者からZUKKUに搭載されたAI画像認識などの機能が、フレイル対策に応用できる可能性があるのではないかと言われた」ところから取り組みを始めたと言う。マグス氏も「社会へ役立つビジネスを考える中で、Fitbitをはじめとする健康デバイスの人気の高まりを見て、それらに代わる新しい視点で健康を支援しようと考えた」と話す。
医療機器の開発はハードルが高いが、独自性が高いがゆえに世界でやっていることはだいたい同じで、課題も共通している。また、オンラインで完結するよりハードウェアを見て、使い方を想像してもらうことでビジネスのチャンスが広がることがあると言う。
医療機器の開発は大手と組んで展開するのがセオリーだが、著名な医師や大学病院を巻き込むとかえってそれが他の導入で障壁になることがある。実際に製品を使ってもらってファンになってもらうやり方がいいのではないかという意見で、3者とも共通していた。
さらに3者で共通していたのが「簡単なものを作ることこそ、難しい」という意見だった。複雑で高度な技術だから価値があるというわけではなく、どのように価値のある技術にしていくかがスタートアップにとっては重要だと話す。
「ハードウェアを作ることが突破できればどんなベンチャーも参入できるかもしれない」という峯氏は、自身の経験から「医療業界から見れば難しい課題も、IT業界から見ればすぐに解決できるようなものもある。そうしたニッチなニーズは大手が参入しにくいのでチャンスになる」と話す。むしろハードルになるのは売り方で、発注先の条件に合わせるため、FAXをわざわざ購入して対応したという話も出た。
マグス氏は「医療向けハードウェアの開発では、規制当局とのやり取り、エビデンスの収集、量産設計の3つが重要だ」と話す。自社のサービスはウェルネス向けから始めるが、それに合わせた仕様では今後、医療向けに使ってもらえないので、どう設計していくかが開発では難しいところだという。
医療機器を開発する上で大きな課題になるのが医療業界独自の規制である。ネクステートの場合は聴診器の身体に当てる部分は既存の規制をクリアした商品を使い、消耗品にあたるゴムの部分をデジタルデバイスにすることですぐさま現場で使ってもらうことができた。こうした規制が緩和されれば事業が展開しやすくなることから、デジタル庁の設立などで規制緩和が進むことに期待しているという。
マグス氏はブランディングのデザインも大事で、メイドインジャパンのブランド力はまだ高く、グローバルな成功もできると考えていることを日本法人を展開する理由の一つに挙げている。
伊澤氏は「医療現場はイノベーションを必要としていることから、医療向けのハードウェアを開発するスタートアップにとって市場は追い風状態にあり、それもハタプロのような医療業界以外からの参入がチャンスがあるかもしれない」と話す。
パネルディスカッションから見えてきたのは、医療機器ハードウェアを開発するスタートアップにとって今はグローバルで大きなチャンスがあるということだ。そして、成功するにはいかに現場の課題を捉え、ニーズに合わせた製品を早く開発して信頼を得ていくかが大事だと言えそうだ。
■お知らせ
ASCII STARTUPは2021年11月19日(金)、IoT、ハードウェア事業者に向けた、オンラインカンファレンス「IoT H/W BIZ DAY 2021 by ASCII STARTUP」を開催します。視聴は無料で、申し込み先着300名様に特典の送付を予定しています。下記チケットサイトよりお申込みください。
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