詐欺迷惑電話は世界共通の悩み
創業者が語る迷惑電話撃退アプリ「Whoscall」が世界中でダウンロードされるワケ
2020年に迷惑電話25億件、詐欺電話2.8億件を識別
迷惑電話撃退アプリ「Whoscall」
2015年から5年連続で「App Store」のベストアプリに選ばれている迷惑電話フィルタリングアプリ「Whoscall」をご存じだろうか。全世界で8000万ダウンロードを超える人気アプリで、2020年には福岡市と連携して「Beyond Coronavirus(=コロナを乗り越える)」という実証実験も行なっている。
開発しているのは2010年に創業した台湾のベンチャー企業「Gogolook」。世界で16億件もの電話番号データベースを持ち、これまでに60億回もの電話番号を識別してきた実績がある。
2020年11月には福岡市にGogolook株式会社を設立し、本格的に日本で活動することになった。今回は、「Whoscall」を開発した経緯からアプリの特徴、グローバルで利用される背景などについて、Gogolook共同創業者/CTOのレイニー・ソン(宋政桓)氏と、Whoscall研究開発および日本でのサービス展開担当であるジェイ・チャン(張仕杰)氏にオンラインでお話を伺った。
共同創業者が電話詐欺に遭いそうに
それが開発のきっかけとなった
Gogolookは台湾に本社を持つベンチャー企業で、迷惑電話撃退アプリ「Whoscall」を開発・提供している。設立は2010年で、レイニー氏はジェフ・クオ(郭建甫)氏、ジャッキー・ズン(鄭勝丰)氏と共同創業した。
3人は台湾の国立清華大学で出会った友人同士だ。皆、卒業したら起業したいと考えており、在学中に様々なビジネスコンテストに出場し、そこで知り合ったという。レイニー氏は卒業後、NEC台湾現地法人のシステムエンジニアとなり、2年後に大学院を卒業したジェフ氏たちと一緒に起業することになった。
スタートアップとしてチャレンジする社会問題を探していた時に、ジェフ氏が電話の詐欺に引っかかりそうになったそう。何らかの懸賞に当選したという連絡が来たのだ。その時は、ネットで検索して被害を回避できたが、他の人も同様の詐欺に困っているだろう、と気づきを得た。そこで3人は、迷惑電話撃退アプリを開発することにしたという。
「最初は、電話番号を検索するAndroidアプリを作ってリリースしました。すると、多くの人が知らない番号からの着信に対して、恐怖心や煩わしさを感じているということや、一方で病院や予約確認など、重要な着信の可能性を考慮すると、無視することもできないという実情もあることがわかったんです。これは台湾に限った話ではなく、世界中で既に社会問題化していることに気付き、「Whoscall」というアプリを本格的に開発し始めました」(レイニー氏)
アプリをリリースした翌年には、元GoogleのCEOであるエリック・シュミット氏から評価され、2013年にはLINEの親会社(2021年1月現在)でもある韓国NAVERから出資を受けた。その後も、Google PlayやApp Storeでベストアプリ賞を相次いで受賞し、アプリは成長を続けた。
現在、台湾はもちろん韓国や香港、タイ、マレーシア、ブラジルなどでそれぞれ100万ユーザーを超えており、グローバルで活用されているアプリになったが、レイニー氏はこうも話す。「私たちは急激な成長をしていると言われますが、実はそうではありません。むしろ、サービスの性格上、個人情報の保護やユーザーの安心・信頼の獲得が何よりも重要なので、10年もの時間をかけてやっとここまで来られた、と思っています」
各国で異なるニーズと利用法
話題の天才IT大臣ともコラボ
お膝元の台湾では詐欺防止相談ホットラインというサービスがあり、この運営機関と密に連携している。さらには、話題の天才IT大臣のオードリー・タン氏(唐鳳)氏と連携し、コロナ禍で増加した迷惑電話を防ぐという実績もあげた。
オードリー・タン氏が開発した供給システムで、台湾の国民はネットでマスクを予約して受け取ることができた。しかし、行政側はこの手続きの中で詐欺が起きることを心配したそうだ。たとえば「登録を間違えています」や「マスクを受け取れません」といった虚偽の連絡が来るかもしれない。そこで台湾国内での普及率50%以上を誇る「「Whoscall」を利用し、詐欺電話をシャットアウトしたのである。逆に、政府からの連絡はきちんとそれとわかるようにした。この件で、オードリー・タン氏は「コロナ詐欺防止とフェイクニュースの予防に協力してもらい、Whoscallに感謝しています」と語っている。
ほかにも、台湾ではクレジットカードやローン、結婚相談所の営業電話といった迷惑電話も多いそうだ。選挙に熱心な国なので、選挙時期になると「○○を支援してください」といった電話がかかってくることもあるという。もちろん、これらも「Whoscall」でフィルタリングできる。
このようにGogolookは台湾をはじめ、各国の行政や警察組織と連携して詐欺問題に取り組んでいるので、最新の詐欺の手法にいち早く対応し、加えて「Whoscall」ユーザーからの報告やアプリ内で検索された電話番号の検索結果をAIに機械学習させることでアプリ開発に役立てているのだ。
東アジア最大のデータベースで
世界各国の迷惑電話に対応できる
グローバルに展開している「Whoscall」だが、国によって使われ方が違うのも興味深い。たとえば、ブラジルでは借金している人にかかってくる返済催促の電話が迷惑電話として分類されているため、頻繁にブロックリストを更新するのが当たり前になっているのだ。それらの電話をシャットアウトするために「Whoscall」が活用されているという。
また、香港ではアプリをそれほどアクティブには起動していないそうだが、その代わりに自動ブロック機能を使っている人が多く、迷惑電話を自動的に撃退している。逆に言えば、「Whoscall」への依存度が高いということでもある。
最近は香港や台湾だけでなく、日本在住の中国人への迷惑電話も増加しているという。「日本に住んでいる中国人をターゲットにした「海外・中国語詐欺」という手口があります。中国語で「大使館の者ですが、書類が届きました」とか「ビザの関係でちょっとお話が」という切り口で詐欺を仕掛けてくるのです」(レイニー氏)。もちろん、これらも「Whoscall」で防ぐことができるとのこと。
このように「Whoscall」が迷惑電話を判別できるのは、約16億件にものぼる東アジア最大のデータベースを保有しているから。実際、日本国内の詐欺電話のうち、海外からの着信は20%にのぼり、2020年10月には25%に達したそうだ。
新型コロナウイルスの影響もあり、詐欺電話は増加の一途を辿っている。2020年、「Whoscall」はなんと25億回もの迷惑電話・SMSを識別し、2.8億回の詐欺電話・SMSをフィルタリングした。このことにより、どれだけの被害を回避できたのだろうか。社会問題を解決する素晴らしいプロダクトだと言える。
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