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お掃除ロボット「ルンバ」もALifeの系譜から生まれた!

「ありえたかもしれない生命」を探るALife研究が、都市を生き物に変える

2020年12月25日 11時00分更新

構成論的なアプローチで「生命とは?」に接近するのがALife

―― ALifeとは何か、なかなか一言では難しいと思うんですが、一般の方に説明する場合はどうしたらいいでしょうか?

青木 すごく乱暴に言うと遺伝的アルゴリズムをはじめ、生命の進化を応用した技術が世の中に登場しつつあるとは思いますが、それはある意味、工学的な一例に過ぎません。

 先ほど申し上げた通り、生命とは何かをいわゆる生物学的なアプローチで進めると、還元主義的に分解していき、1つ1つの機能を見極める方向に向かうと思います。一方、人工生命は構成論的アプローチです。全体を作り、作ったものの動きや現象を調べて、生命とは何かに接近しようとしている分野なのです。

 また、関わっている人たちが非常に学際的です。言語、ロボティクス、進化など広い分野の研究者が集まっています。そして研究者だけでなく哲学者やアーティストなども加わっていることも特徴的ですね。

―― とても幅広い分野なのですね。ではALifeはどこを目指しているのでしょうか?

青木 ALife、人工生命はいわゆる生命単体だけではなく、集団でしか見えてこない現象を探ろうという方向もあります。人工生命という言葉だけを聞くと、人工的に生命を作るのが最終目的であるかのように誤解されますが、タンパク質に依存しない生命もありうるだろうし……非常に広く探求している分野なのです。ALifeの研究者である升森さん、いかがですか?

升森 目的は、生命一般的な理解をしたいということですね。この場合の生命とは、たんぱく質などで構成されているものに限りません。コンピューター内で存在する情報で表現されている生命でもよいのです。キーワード的に言えば「Life-as-it-could-be」、日本語で「あり得たかもしれない生命」。そういった広い意味での生命の原理を探求したい、というのが大前提にあります。

青木 いまある生命というのは、大量絶滅を5回繰り返した末のものです。つまり偶然性がかなり残ってしまっていて、いまいる生命が本当に生命の本質なのか、偶然なのかよくわかりません。そこで、生命を構成論的に作ることによって、本質的なものが見えてくるかもしれないと。

 そして要素還元主義的では、分離されてしまうと現象が消えてしまうものがありますよね。たとえば、コミュニケーションは人間が2人いることによって初めて生まれます。そういうものも生命の現象の1つとして捉えてもよいはずです。

お掃除ロボット「ルンバ」もALifeの系譜から生まれた!

―― ALifeの考え方が実際に社会で使われている例を教えてください。

青木 まずALifeの系譜の1つとして遺伝的アルゴリズムがあります。また、映画「ロード・オブ・ザ・リング」のモンスターがいっぱい動くCGシステム、あれを作ったMASSIVEのファウンダーはALifeの研究者です。ALife研究者たちが生命を探求してきた視点は、いわゆるコンピューターサイエンティストとは異なるアプローチなので、まったく新しいシステムなどが生まれやすいのだと思います。

 そして有名なのはお掃除ロボットのルンバですね。正確に言うと、歴史的にはALife学会が立ち上がる前の研究ですが、ALifeのコミュニティーの一員だったロドニー・ブルックス(iRobot創業者)が生み出したという点ではALifeの流れを受けているかなと思います。

 あとディープラーニング×遺伝的アルゴリズムに関しても、機械学習の手法の1つであるNEATはALifeコミュニティーのケン・スタンレー――Uber AI Researchのファウンダーの1人です――が生み出した仕組みです。

 ALifeをもとにしたシステムや製品は、コア技術のみで完結するのではなく、適応するための環境を含めて作っていくアプローチが設計思想として盛り込まれていたり、センシングして情報入力を受けたロボットが環境を変える、ないしその環境からフィードバックを受けて動く、というような全体性を含んだ設計がすごく強いというか、ALifer特有の考え方なのかもしれません。ちなみにALifer(エーライファー)っていうのは……。

―― もしかして、ALifeを研究している人たちの名称ですか。

青木 はい、ぜひ広めてください(笑)

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