CEATEC2020「スタートアップとの向き合い方~モデル契約書策定の裏側~」
契約書の重要性 オープンイノベーションを円滑に進めるには
特許庁企画調査課は、2020年10月20日から23日にかけてオンラインで開催された「CEATEC 2020」にて、カンファレンス「スタートアップとの向き合い方~モデル契約書策定の裏側~」を実施。今年6月に経済産業省と特許庁が作成・公表した「オープンイノベーション推進のためのモデル契約書ver1.0」を題材に、本モデル契約書作成の舞台裏、実際に見聞きした経験談を交えて、オープンイノベーションを推進する鍵を知財・法務の観点からディスカッションした。
モデル契約書はなぜ作られたのか
冒頭では、特許庁 オープンイノベーション推進プロジェクトチーム長の小松 竜一氏が登壇。「モデル契約書はなぜ作られたのか」と題し、モデル契約書の制作の背景および概要を解説した。
まず、モデル契約書が作られたのか背景として、日本のオープンイノベーションに潜む問題を説明。令和1年に実施された公正取引委員会の実態調査により、中小企業やスタートアップの知財が搾取されている数多くの事例が報告されたという。これを受け、令和2年4月の未来投資会議に安倍総理からの要請により、日本のオープンイノベーションに潜む問題点を解決する具体的な対応策を整理したガイドラインを作成する方針が示されたのが始まり。同時に経団連のスタートアップタスクフォースからもモデル契約書に盛り込む内容や関係者に求める行動について提言がなされた。
特許庁と経産省との共同事業として策定された「研究開発型スタートアップと事業会社のオープンイノベーション促進のためのモデル契約書ver1.0」には、秘密保持契約、PoC契約、共同研究契約、ライセンス契約のそれぞれの契約時に起こりうる問題への具体的な対応策が示されている。本モデル契約書は6月30日に公表され、特許庁の「オープンイノベーションポータルサイト」から各モデル契約書や解説書がダウンロードできる。モデル契約書は、今後さらにバージョンを重ねていく予定だ。
トークセッション「【実録】スタートアップとの向き合い方~モデル契約書策定の裏側~」
続いて、トークセッション「【実録】スタートアップとの向き合い方~モデル契約書策定の裏側~」を実施。登壇者は、モデル契約書の作成に携わった「オープンイノベーションを促進するための技術分野別 契約ガイドラインに関する調査研究」委員会メンバーである、弁護士法人内田・鮫島法律事務所 代表パートナー弁護士・弁理士の鮫島 正洋氏、アステラス・ベンチャー・マネジメント 社長の丸山 和徳氏、ピクシーダストテクノロジーズ株式会社 代表取締役COOの村上 泰一郎氏の3名。「コロナ禍におけるオープンイノベーション」、「オープンイノベーションは日本の競争力を強化するか」、「オープンイノベーションにおける契約書の重要性とは」、「モデル契約書の特徴と込めた思い」、「スタートアップに求めること、大企業に求めること」の5つのトピックについて議論した。
最初のトピックは、「コロナ禍におけるオープンイノベーション」。
緊急事態宣言下では、一時的にスピードが落ちたものの、オープンイノベーションの活動は、概ね止まってはいないようだ。むしろ、オープンイノベーションのテーマとして、感染症対策やBCP対策、DX関連が増えてきているという。治療薬など新薬の研究開発も進められているが、丸山氏によれば、病院への負荷を避けるために臨床研究が制限される部分が課題だ。
「オープンイノベーションは日本の競争力を強化するか」というトピックでは、鮫島氏は「イノベーションを起こせない企業は、この先20年後、30年後存続できないという経営課題を抱えています。片やスタートアップは単独でグローバルの展開は難しい。本来、大企業とスタートアップの組み合わせは非常に相性がいいのです」と断言。丸山氏も「製薬業界では新しい科学技術やソリューションを自社だけで提供できると考えている会社はない。パートナーを得て研究開発を進めているのが実情」と同調した。村上氏は、「コロナ禍のように大きな変化が起きたときこそ、ベンチャーの対応は早い。大企業側がうまく取り込んで活かしていける仕組みができれば競争優位性を生み出せるチャンスになるのでは」と述べた。
続いて3つ目のトピック「オープンイノベーションにおける契約書の重要性とは」。
鮫島氏は、「2つの異なる事業体がコラボするにはルールを決めなくてはいけない。昔の元請け下請けの関係ではルールを明文化する必要はなかったのかもしれないが、今のベンチャーには第三者の投資が入っており、契約書という形式でルールをきちんと明文化する必要があります」と契約書の重要性を説明。丸山氏は、ベンチャーとの契約書実務を担当していた経験から「本社側の法務部門との間に立ち、先方からの契約の提案をどこまで取り入れられるのか。ベンチャー側よりも、社内の調整が大事です」とコメント。村上氏は、「スタートアップにとって、契約は設計したビジネスモデルを実装すること。大企業とはお互いに世界感が違うため交渉には大変な部分がありますが、契約がないと社会実装されないのだから、なくてはならないものです」と語った。
4つ目のトピックでは、今回のモデル契約書に込めた思いをそれぞれ紹介した。
「もともとはベンチャー支援のプロジェクトですが、あまりにベンチャー側に偏ったものになると、大企業が反発して使ってくれなくなってしまう。そのあたりの調整が難しかったですね。活発な議論の甲斐あって、バランスがとれたものが出来つつあると思います」(鮫島氏)
「例文を並べるだけではどれが当てはまるのかわかりにくい。今回のモデル契約書は、具体的なシナリオに基づいて条文とのつながりを示せたのが良かったと思っています」(丸山氏)
「これまではオープンイノベーション向けのひな型がなくて、契約書を作り合意する段階で非常に時間がかかっていました。モデル契約書があれば、一気にスピードも上がるでしょう。また、両社がWin-Winになるように、協業によって生み出される事業価値を最大化するための文脈を示すことに特に尽力しました」(村上氏)
大企業とベンチャーでは、お互いの立場の違いから相手側の要求の意図が分かりづらいことがある。今回のモデル契約書ver1.0には逐条解説があり、その文言をなぜ入れなければならないのか、お互いのリスクについても理解が深められる内容になっている。
最後の質問は「スタートアップ、大企業に求めること」。
「オープンイノベーションはスピード勝負。そのスピードを契約締結プロセスで止めては絶対にいけない。企業の知財法務の方には、オープンイノベーションにおいては、リスクをとってスピードを維持することも重要な要素であることを学んでほしい」(鮫島氏)
「研究の現場で作られる技術の価値を活かすことが何よりも大切。その技術をできるだけ役立てられるように社内を啓蒙し、うまく契約の形に落とし込むことが大企業側の交渉担当者に求められる役割だと思います」(丸山氏)
「オープンイノベーションをもっと促進して大きなバリューを生み出してほしいし、生み出していきたい 。スタートアップと大企業はお互いに、より柔軟・迅速に取り組んでもらいたいです」(村上氏)
週刊アスキーの最新情報を購読しよう
本記事はアフィリエイトプログラムによる収益を得ている場合があります