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プロトタイプでの走行実験を展開

鉄道の10分の1で安く早く作れる、安全な都市交通システム:自走式ロープウェイ「Zippar」

 Zip Infrastructure株式会社は、自走型搬器をベースにした新しい交通インフラ「自走式ロープウェイ(Zippar)」を開発する2018年設立のスタートアップ。従来の鉄道や地下鉄に比べて、約10分の1のコスト・期間で建設でき、都市部の渋滞解消や新興国のインフラ整備として期待される。代表取締役社長の須知 高匡氏にZipparの開発の背景と低コスト・短期間で建設可能な理由を伺った。

自走式ロープウェイで都市部の交通渋滞を解消

 都市部の交通集中は世界共通の課題だ。市民の利便性はもちろん、経済損失も大きい。かつて交通渋滞を解消するには、鉄道や地下鉄といった都市交通システムを整備するのが王道だったが、財政に余裕のない新興国や地域公共団体は、大量輸送可能な鉄道を簡単にはつくれない。

 とくにネックとなるのがコストの部分だ。これらの建設、特に用地取得には膨大なコストがのしかかる。「1kmあたり、地下鉄では約100億円超のコストがかかりますが、これらの多くは用地取得に対する費用となっています。これらの課題を解決するためのアイデアが我々が新たに作る自走式のロープウェイ『Zippar』です」(須知氏)

 Zipparの特徴は、既存の道路上に建設できること。地上5メートルほどの高さを4~8人乗りのポッドが走行し、トンネル内も走れる。モノレールには、頑丈で大きな支柱の建設が必要だが、Zipparはポッドが小さいため、高速道路上の看板程度の支柱があれば問題ないという。

 既存の道路に支柱を立てるだけであれば、用地買収や大きな工事もいらない。そのため、建設費用は1㎞あたり10億~20億円を想定しており、地下鉄の約10分の1のコストでつくれるそうだ。停留場は既存の駅ビルや学校、病院などの既存施設に設置すれば、駅舎を建設しなくても済み、利便性も高い。

安定性に優れた2本のロープで支えるタイプ。自走式なのでロープは固定、分岐やカーブも自在

既存の建物に設けられた簡易停留所のイメージ

 想定時速は約36キロ、1時間に600人~3000人の輸送が可能で、バスと地下鉄のあいだを補完するようなイメージだ。都市部の新交通としてはLRT(Light Rail Transit:次世代型の路面電車)が注目されているが、より安価に建設でき、道路の上を通るため、渋滞にも影響されない。またZipparは各車両の内部にバッテリーを設置するので、電車のような電線やパンタグラフのメンテナンスがかからず、運用コストも抑えられるという。

 既存のロープウェイと違いポッドによる自走型なのでロープは固定されたままで、分岐やカーブも自在だ。コロナ禍では公共交通での移動に不安があるなか、Zipparは1車両の乗車人数も少ないので感染対策としての安心もある。

 そもそもこのような自走型ロープウェイ自体は1960年頃から存在したが、当時はディーゼルエンジンで稼働するもので、エンジンの振動が大きく、乗り心地も悪いうえに、メンテナンスコストもかかっていた。新交通としての活用が現実味を帯びてきたのは、ドローンと同様、バッテリーとモーターの進化によって軽量化されたことが大きく、現在は海外でも自走式ロープウェイの開発は盛り上がりつつある。

 須知氏らが今開発中の自走式ロープウェイは、風の影響はあるとはいえ、モーターによる機械的な振動はわずかで、線路上を走る電車よりも圧倒的に音も静かになるそうだ。

2020年からプロトタイプでの走行実験をスタート

 須知氏は、慶応大学在学中にロボットサークルに所属。ロボットコンテストに出場するためロープで走行するロボットを製作したのが起業のきっかけだ。

「せっかく開発したロボットをコンテストだけで終わらせずに実用化したいと考えるようになり、もともと趣味でもあった交通分野とロープ走行の技術を合わせた交通インフラの開発を始めました」(須知氏)

 最初は手のひらに乗る小さなモデルから開発を始まり、現在は神奈川県近郊で山を借りて、1人乗りリフトで走行実験を始めたところ。今後、分岐やカーブ、長距離での試験走行を重ねていく計画だ。併せて、国土交通省からの認可を受けるために準備を進めている。

 だが本格的な走行試験には、500×100メートルの場所が必要だ。実証実験は2022年から予定しており、実験場を提供してくれる自治体を募集している(参照:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000002.000058405.html)。

 直近では、大阪・関西万博のアクセス手段として2025年の開通が目標。まずは国内で一路線、その後は海外展開を目指している。

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