角川アスキー総合研究所は10月22日、「スマホでのコンテンツ視聴に占める広告の比率調査」および「ブラウザーアプリによるウェブ表示速度の調査」を実施し、その結果を取りまとめて発表した。
新型コロナウイルス感染症流行の影響による外出自粛などによって、国内のインターネットのデータ転送量は、月によっては例年よりおよそ5割増加した(米アカマイ・テクノロジーズ調べ、2020年4月)。インターネットのデータ転送量には、コンテンツのデータだけでなく広告のデータも含まれ、その広告データの通信料金も、ユーザーが負担していることになる。そこで今回、ウェブをスマートフォンから利用する際のデータ転送量のうち、広告データがどの程度の比率を占めているのかを調査した。
調査は、スマートフォン(iPhone)のウェブブラウザーでアクセスできる主要な15のコンテンツサイトに実際にアクセスして、コンテンツを表示した際の全体のデータ転送量と、広告ブロックツールで広告を非表示にした際のデータ転送量を計測。その差を広告のデータ転送量と推計して、結果を集計した。また、画像や動画など、転送されたデータの詳細な内訳も分析した。そして、新しい「iOS14」より、iPhoneでも標準ブラウザーをユーザーが変更できるようになることから、ウェブブラウザーアプリによる表示速度の違いについて実測する調査も、併せて実施した。結果の要点は以下の通り。
調査結果の要点
・スマホでコンテンツを視聴する際の、データ転送量のおよそ4割が広告
今回調査した15の主要なコンテンツサイトの多くで、そのデータ転送量の半分以上を広告が占めていた。調査した15サイトの単純平均では、全データ転送量のうちおよそ44%が広告と推計される。これらの結果と、データ通信量の単価やウェブ、SNS、動画サイト、メールといった項目ごとの利用時間・データ転送量等から類推すると、4人家族全員がスマートフォンを持っている場合、月々のデータ通信料金のうちおよそ2900円ぶんを広告のデータ転送に費やしていることになる。
・画像データが主体だが、データ転送量全体では動画広告の比率が高い
データ転送量の内訳を見てみると、多くのコンテンツサイトは、JPEGやPNG、GIFといった画像データで広告が構成されている。一方、動画共有サイトや一部のポータルサイトではMP4動画が広告として表示され、そのデータ転送量が大きいため、広告のデータ転送量全体では、動画広告がかなりの比率を占めていると考えられる。
・ブラウザーアプリによって広告表示量およびウェブ表示速度は異なる
iPhoneで動作するウェブブラウザーアプリはすべて、同じ「WebKit」というレンダリングエンジンを採用している。しかし、今回調査した結果、広告の表示の有無などによって表示速度はかなり異なり、主要コンテンツサイトの表示速度では「Brave」が最速となった。
(1)「スマホでのコンテンツに視聴に占める広告の比率調査」結果
1-1.主要コンテンツサイトの、実際のコンテンツと広告の推計データ転送量
iPhoneの、標準状態のブラウザーアプリ「Safari」で15の主要なコンテンツサイトにアクセスした場合と、広告ブロックツールをインストールしてアクセスした場合のそれぞれについて、データ転送量の測定結果をグラフにした。広告ブロックツールで除外された双方のデータ転送量の差分を、今回は広告として推計している。
結果からは、コンテンツサイトのジャンルによる傾向が見て取れる。まず、Yahoo! JAPANやgoo、livedoorといったポータルサイト、そして動画共有サイト(YouTube)では、広告のデータ転送量がコンテンツと同等か、それ以上を占めている。
一方、Amazonや楽天といったショッピングサイトは、ポータルサイトに比べると広告のデータ量の占める比率が小さくなっている。ただし、今回の調査では、広告ブロックツールで除外されたものを広告として推計している。このため、実際には広告費をショッピングサイト側に支払って商品等を掲載していたとしても、広告ブロックツールで除外できないために、広告として推計できていない可能性もある。
上記とは反対に、第三者の広告が本来ないはずのNHKのサイトで、広告ブロックツールで除外されるものがあるため、0.54MBを広告と推計している。またこれらのことから、視認できる広告があるにも関わらず、その大半を広告ブロックツールで除外できないFacebookのようなサイトは、今回の調査では対象外としている。
そのほか、天気予報/災害情報では、いずれもデータ転送量の6割程度が広告だった。グルメ/レシピでは、レシピサイトのクックパッドとグルメ情報サイトの食べログとでも、コンテンツ・広告比率は大きく異なった。
今回の調査で、主要各コンテンツサイトの推定広告データ転送量の比率を単純平均すると、全体のデータ転送量に対する広告データの比率は44.1%となった。どのサイトにどれほどアクセスしているかによって、実際の広告データの転送量は変わるが、概ね4割は広告が占めていると推計できる。
これらの結果と、総務省情報通信政策研究所の「情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査」による用途ごとのインターネット利用時間、データ通信料金の単価の推計などから、仮に一家4人が全員スマートフォンを利用している場合、基本料金を除く月額データ通信料金の合計額およそ1万2027円のうち、およそ2880円を広告に支払っている計算となる。定額制の料金体系が大半であるため、広告を遮断してもその額を単純に節約できるとは限らないが、広告に費やしているユーザー側のコストに関するひとつの目安となる。
1-2.主要コンテンツサイトの、広告ブロックあり/なしそれぞれでのデータ転送量の詳細
広告も含んだコンテンツ全体データ転送量(広告ブロックなし)と、コンテンツのみと推計されるデータ転送量(広告ブロックあり)のそれぞれの内訳について、コンテンツサイトごとに分析した。
以下のグラフからは、多くのコンテンツサイトでは広告と推計されるデータ転送量のうち、JPEG等の画像のデータ転送量が比率として多く、画像による広告が主体となっていることが見て取れる。その一方、YouTubeはもちろん、一部のポータルサイトでは、MP4動画による広告が表示される。Yahoo! JAPANだけでも広告と推計されるMP4動画が26.7MBもあるため、比率ではなく量としては、広告のデータ転送量のかなりの比率を動画広告が占めていると考えられる。
なお、これらの結果は、今回の調査手法による、今回調査時点でのコンテンツや広告の表示内容によるものなので、何らかのキャンペーンでちょうどサイト上に多くの広告が表示される、あるいはよりデータ転送量の多い広告にターゲティングされるなど、その時点での状況やユーザーの行動によって大きく変化する。以下の詳細分析は、代表的と思われる1回のアクセスの内容分析であるため、複数回アクセスした平均値である1-1の調査結果とは、データ転送量が異なる。
■動画共有サイト
・YouTube
YouTubeは、広告ブロックのなし/ありに関わらず、データ転送量はほぼすべてMP4動画で構成される。次に比率が高いのはJavaScript、そしてJPEG画像となるが、MP4に比べるとごくわずかなデータ量だった。広告をブロックすると、そのぶんのMP4データが転送されなくなるが、他のファイル形式の構成やデータ転送量にはほぼ変化はなかった。
■SNS
Twitterのデータ転送量は、JPEGとPNG、2種類の画像データがほぼすべてだった。Twitterは140文字以下のテキストでやりとりするコミュニケーションツールとしてスタートしたが、現在では画像が主体になっていることがわかる。広告ブロックなしでは画像のデータ転送量がわずかに増加するため、広告ツイートもテキストだけでなく、画像が中心だと思われる。なお、今回の調査手法では投稿された動画は再生していない。
■ポータルサイト
・Yahoo! JAPAN
Yahoo! JAPANは、広告ブロックなしでのアクセス時、MP4動画が26.7MBと、データ転送量の大きな比率を占めている。そして広告をブロックするとMP4が集計されなくなることから、そのMP4のほぼすべてが広告であると推計できる。調査時にどういった広告が表示されるか、どんなキャンペーンなどが実施されているか等に大きく左右されるが、他のサイトに比べると、動画広告の比率が顕著に高くなっている。
・goo
gooは、コンテンツ・広告ともに、JPEG画像が最も大きな比率を占めていた。広告ブロックなしでのアクセス時のほうがJPEGの転送量が1MB強多いのと、またJavaScriptの転送量が顕著に多いことから、画像データとそれを表示するためのJavaScriptが、広告のデータ転送量の多くを占めていることがわかる。
・livedoor for スマートフォン
今回の調査で、コンテンツに対する広告の比率が最も高いのがlivedoor for スマートフォンで、全体のデータ転送量のおよそ92%が広告と推計される。スクロールするにつれて広告が表示されたり、ページ下段に常にGIF画像のバナー広告が表示されたりといったサイトの構造が、今回の調査方法では広告比率が多いと計測された要因だった。その内訳からは、MP4動画もあるが、JPEGやGIF等の画像による広告が多いことがわかる。
■ショッピングサイト
・Amazon
Amazonは広告ブロックの有無によるデータ転送量の差が小さく、WikipediaとNHKを除けば、広告と推計されるデータ転送量の比率が最も小さいサイトだった。広告かコンテンツに関わらず、そのデータ転送量の大半は、JPEGによる商品画像とそれを表示するためのJavaScriptが占めている。
・楽天市場
楽天市場も広告ブロックの有無による転送量の差が小さく、今回の調査では広告と推計できる部分は少なくなっている。構成要素が主にJPEG画像とJavaScriptという点もAmazonと同様だが、GIFやPNGといったJPEG以外の画像のデータ転送量がAmazonに比べて多いこと、一方でHTMLが少ないことが特徴。
■ニュース/生活情報
・日本経済新聞 電子版
日本経済新聞は広告ブロックありの場合、つまり実際のコンテンツのみの場合はJPEG画像とHTMLで構成されている。広告ブロックなしとの差分では、JPEG画像とJavaScriptのデータ転送量の差が大きいため、JavaScriptで画像を表示する広告が多いことがわかる。
・NHK
NHKのサイトには、第三者の広告が表示されたりはしないが、広告ブロックツールで除外されるものが若干あるため、データ転送量に差が出ている。サイト上のコンテンツは、地上波と同時配信中の映像を除けば画像とテキストから成るため、データ転送量もそれらが多くなっている。
・日本気象協会 tenki.jp
日本気象協会サイト(tenki.jp)は、広告と推計されるJPEG画像とJavaScriptのデータ量が、コンテンツのそれよりも大幅に多くなっている。とくにJavaScriptが、広告ブロックのなし/ありの差分で約2.2MBとなっており、広告データのうちの大きな比率を占めていることがわかる。
・ウェザーニュース
ウェザーニュースは広告ブロックありの場合、実際のコンテンツと推計されるデータ転送量でPNG画像が主体と、他のコンテンツサイトとは大きく異なる。広告ブロックなしではJavaScriptの比率が最も高くなっていて、次いでJPEG画像、PNGはその次となるため、広告データはJavaScriptとJPEG画像で構成されていることがわかる。
・クックパッド
クックパッドは、広告ブロックなしではHTMLおよびJavaScriptの占める比率がかなり高くなった。また広告ブロックありに比べてJPEG画像が約1MB多く、GIF画像も集計されることから、本文中やページ下段に常に表示されるバナー広告などを、それらの画像データやHTML、JavaScriptで表示していることがわかる。
・食べログ
食べログもJPEG画像が主体のサイトで、比率としてはクックパッドよりも広告のデータ転送量は少なく見えるが、そもそも全体のデータ転送量は食べログがクックパッドのおよそ5倍あるため、およそ1.8MBのJavaScript、およそ1.4MBのJPEG画像など、広告データの転送量は食べログのほうがクックパッドよりは多くなる。
■その他
・Wikipedia
Wikipediaの場合、今回の広告ブロックツールで除外されるデータがなく、広告が実際にゼロと推計される(寄付を乞うバナーがよく表示されるが、今回それは広告として除外されなかった)。全体的なデータ転送量としては、JavaScriptとHTMLが中心で、そこに画像ファイルが付くかたちとなる。
・価格.com
価格.comのデータ転送量も、JPEGとJavaScriptが主体だ。全データ転送量のおよそ半分が広告と推計されるが、その広告も、ほぼJPEG画像とJavaScriptで占められていると考えられる。
(2)「ブラウザーアプリによるウェブ表示速度の調査」結果
iOS 14で、標準のウェブブラウザーアプリを変更できるようになったことで、iPhoneでもAndroidと同様に、ユーザーが自分の使い方に合うウェブブラウザーアプリを選べるようになる。そこで、今回調査対象とした主要コンテンツサイトのそれぞれに、主要なウェブブラウザーアプリでアクセスした場合の表示速度を調査した。
動画共有サイト以外の主要コンテンツサイトに対して、「Safari」「Google Chrome」「Firefox」「Brave」「Smooz」「Firefox Focus」「Opera Touch」の、主要な7つのウェブブラウザーアプリで、標準状態のままアクセスし、実測した平均表示速度の合計は、下のグラフのようになった。なお、表示速度を調査するに際して条件を揃えるのが難しいTwitterは対象から除外した。
iOS上で動作するウェブブラウザーアプリは、すべてWebKitという同じレンダリングエンジンを使用しているが、今回の調査結果からは、同じエンジンを使用していても、表示速度にかなりの差が出ることがわかった。
合計表示速度が最も速かったのは、15のウェブサイトを1分05秒69で表示した「Brave」で、次いで「Firefox Focus」「Opera Touch」となった。これらのウェブブラウザーには、標準で広告ブロック機能が装備されているため、大半の広告が表示されない。データの転送・画面の描画が、調査(1)にある広告ブロック時のデータ転送量に近い量ですむことが、表示が速かった要因のひとつと考えられる。
なお、YouTubeで、各ウェブブラウザーで3本の動画を再生してみた時間を合計してみると、下のグラフのようになった。各々2回実施した結果だが、その時点でどういった内容・長さの広告が表示されるかによって大きく左右されるので、必ずしも厳密な結果とは言えないが、「Opera Touch」、次いで「Brave」と、上記コンテツサイトと同様の傾向が見て取れる。
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