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感染症などの早期発見に役立つ

深部体温で体調変化やの疾患の前兆を捉えるウェアラブルセンサー

2020年10月29日 11時00分更新

 経済産業省が、ハードウェアをはじめとした独自のプロダクトの量産に向けたスタートアップ支援「Startup Factory構築事業」。そのなかで、昨年度からスタートした「グローバル・スタートアップ・エコシステム強化事業費補助金(ものづくりスタートアップ・エコシステム構築事業)」の本年度採択事業者が、執行団体である一般社団法人 環境共創イニシアチブ(SII)による審査の結果、9つの事業者が選ばれた。

 そこで6回に渡り、採択された6つの事業者をピックアップ。「スタートアップ×ものづくり」の意気込みや課題、将来の展望について伺った。3回目の今回は、深部体温を継続的に計測することで、体調変化やの疾患の前兆を捉えることも可能になる株式会HERBIOのおへその周辺温度を計測するウェアラブルセンサー。CEOの田中彩諭理氏にお話を伺った。

皮膚温度ではわからない体内深部の体温の変化を捉える

お話を伺ったCEOの 田中彩諭理氏

 新型コロナウイルス感染症の拡大により、普段から体温を測ったり店舗やイベント会場などに入る際に検温したりするなど、生活行動の変化が起こっている。一般的に体温を測る場合は脇が多いが、赤外線照射やサーモグラフィー、腕に付けるウェアラブルデバイスなど、多種多様の方法がある。

 しかし、それらはどれもほぼ皮膚表面の温度を計測するもの。気温や発汗などによって微妙にズレが生じてしまう。そのため、より正確な体温を知るためには直腸などで深部体温を計測する必要があり、その体温の変化を調べることで体の異常がわかるといわれている。

 「私が、このウェアラブルセンサーを作ろうと思ったキッカケは、介護生活をしていた祖父が感染症にかかっていることに気づかず、肺炎で他界してしまったことと、自分自身が体調管理のために基礎体温を測っていたのですが、なかなかうまくいかなかったことです。これらのことから体温の重要性に気がつき、体温計のウェアラブルの必要性を感じました」と株式会社HERBIOのCEO 田中彩諭理氏は会社設立のキッカケを語った。

 2017年9月に会社を設立するが、その1年前から体温の研究を専門にしている早稲田大学人間科学学術院助教の丸井朱里氏と、特許化やどうすればものづくりを実現できるかの基礎研究を実施。「発熱にはパターンというものがあります。その発熱パターンは、病気によって違うということが昔から言われていました。深部体温を連続計測することで、病気や感染症の兆候がわかるのでは?と言われています。」(田中氏)。

 なぜこれまでウェアラブル体温計がなかったのか。その原因の1つは、研究と現場、ハードウェアの担当者が分断していて、医学的研究のニーズを掌握ができていなかったこと。そしてもう1つが、体温計が医療機器ということで参入障壁が高く、大手企業がシェアを占めており、誰も入っていけなかったためだという。

 製薬会社や研究機関で、特に薬の効果や研究効果によって体温変動が現れたりするにも関わらず、それをなかなか確認できないのが現状だった。深部体温を安定的に測る場所となると直腸になるため、継続的に手軽に計測することができず、製薬や商品開発に活かせなかった。そのため、ウェアラブル体温計のニーズは高いとしている。

 田中氏は「AIの活用とウェアラブルという概念は比較的新しい分野なので、ウェアラブルがないと研究できない、逆に研究がないとウェアラブルができないという、卵が先か鶏が先かというところでした」とし、前職までの経験を活かしつつ研究・現場・ハードウェアが一貫して見られる人材を確保。そして、おへそに装着するウェアラブルセンサーを開発した。

誰もが体調の変化を捉えて判断できる時代へ

直径4cm程度のサイズで、測定時間は約30時間~35時間。待機時は約50時間持つ。約1時間でフル充電される

 プロトタイプは、裏面にあるシリコンシールで装着し、腹巻やベルトで装着するもの。おへその中は、皮膚の中で唯一汗をかかない場所であり、安定的に温度変化を外環境にさらされずに診られるという。最近、おへそ周辺温度の計測ウェアラブルセンサーの特許査定が認められた。

 基本的には就寝中に装着するもので、着け心地もそれほど悪くなく気にならないとのこと。1分から10分ごと(分単位)で計測でき、医療機器として認可されることを目指して開発している。

 「直腸に6cm程度入れたときの体温と、おへそで計測したときの値が、最低値のタイミングや上昇・下降の推移が近いことが確認されています。現プロトタイプは就寝中など安静時の計測のみですが、今回ものづくりスタートアップに採択いただき、体動センサーと体温の両方がわかるような設計を進めています」(田中氏)。

 現在は、iOSのみ対応でスマホと連動させることで、体温変化を記録。アプリケーションはB2B用パーソナルヘルスケアレコーディングアプリが利用でき、iOSの体温ウェアラブルデバイス、管理用ダッシュボードとして被験者の体温の管理も可能だ。

 すでに製薬会社や研究機関、教育機関などに機器を貸し出しており、薬の効果や研究効果によって体温変動を把握することはもちろん、疾患と体温との相関がなされていない領域に関しても研究していくという。製薬研究機関としては、このウェアラブルセンサーを使うことで新たな発見につながったり、新薬の開発をより細かくできたりすることを期待している。

 また、深部体温が睡眠と関係があることから、基礎研究なども実施していく予定で、体温を軸にした目的別アルゴリズムの開発や体調管理のパーソナライズ化、生活習慣のアドバイスなど、専門医の方々と連携しながらより良いものを開発していくという。

 そしてエコシステムを構築し、一般ユーザーにも体調不良の早期発見につながり、誰が診ても体温変化を把握でき、医療関係者が診断できるような、人々の安心安全につながるシステムの提供を目指している。「在宅介護や在宅看護を安心して行なえたり、遠隔診療によっていつでも相談できるようなシステムを構築するには、バイタルデータの安定性は必須です。地域による医療格差の減少にもつながるはずです」と田中氏は語った。

 新型コロナウイルス感染症においても、軽症者が急に重篤化するケースもある。体温を随時継続的に管理することで、遠隔でも前兆を捉えることができれば、少しでも早く対策治療が可能になるはず。現時点では一般的には利用できないものの、将来の感染症対策の1つとしても、このデバイスが必ず役に立つことだろう。

 最後に田中氏は「このウェアラブルセンサーによって、病気の有無や睡眠の状況、その日の体調を一元管理できるほか、自分自身のセルフケアと医療とをつなぐ架け橋的な存在になれることを期待しています。さまざまな分野から共同研究してくださる方々と、今後も幅広くコラボしていきたいと思っています。ご興味のある方はぜひご連絡ください」と語った。

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