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なぜイノラボと東大がタッグを組むのか〈後編〉

私たちが解決するのは「2030年の日本」に潜む課題だ

2020年09月17日 11時00分更新

2020年の情報環境デザインスタジオで与えられた課題と学生からの提案を公開!

―― 今年、イノラボとコラボを進めている情報環境デザインスタジオでは、ステップ1で、どのような課題が出たのでしょうか?

寺田 情報環境デザインスタジオでは、小林博樹先生と佐々木遊太先生が学生たちに課題を出しました。その課題内容は以下のようになります。

課題内容
 東日本大震災が発生してから時間が経過するとともに、福島の被災地の現状を伝えるメディアが少なくなり、正確な情報や新しい情報に触れる機会が少なくなっている。地域住民も不安を抱えており、浪江町住民は懇談会(引用情報)で「世界中の人々に原発事故の悲惨さや放射線の正しい知識を広めて欲しい。そうすれば偏見やいじめはなくなるだろう」と発言している。被災地の現状を伝えるメディアが少なくなり、地域住民の中には大震災の記憶が薄らぐことで疎外感を感じている人も少なくない。

 チェルノブイリ原発事故報告書は、今回のような原子力災害はローカルな問題として矮小化するのではなく、グローバルな国際社会全体の問題として取り組んでいく必要があると述べている。現状は被災市町村レベルの問題になっている。この震災はすでに解決したものではなく、現在も進行形の問題であると改めて地域外の人々へと発信し、問題の解決に資する研究活動が必要である。

スタジオ概要
 本スタジオでは、パーソナルコンピュータを活用し、映像、音響、デバイス、通信といったデジタルメディアについて、簡単な実装を行いながらそれらの性質・特徴を把握する。それらを活用し、忘れ去られつつある震災の出来事と被災地の現状を広く共有し、上記で指摘している「地域住民の疎外感」をやわらげるデジタルコンテンツを立案・プロトタイピングする。

 なお、上記の課題は浪江町を大きなテーマとして掲げていますが、小林研究室の通常のプロジェクトとは別に運営されているものです。この課題に対して、各学生が自分で考え出した提案は以下の通りです。

■東日本大震災の記憶がない世代の子どもたちを対象に、遠隔操作ロボットを使った宝探しゲームの中でもどかしさを表現する「Beyond the Barriers」

「Beyond the Barriers」

■被災地に行ったことがない人を対象に、自分が「自分の世界」と認識しているレイヤーと、浪江町のレイヤーとのリンクを作る「Memory Rails」

「Memory Rails」

■帰還困難区域をよく知らない人を対象にした、「帰りたいのに帰れない」ランゲーム「家に帰ろう~go home~」

「家に帰ろう~go home~」

■一見何もない光景を、音遊びを通してインパクトのあるものとして残す「何もない」

「何もない」

■みんなが持っている「大切な故郷」をベースに、身体の動きに合わせてつながりを意識できる空間をつくる「つながる」

「つながる」

■浪江町の風景が映る窓を日常の中に設置し、さりげない気づきを促す「ゲリラまど」

「ゲリラまど」

■相互理解のため、心拍音を使って思いを伝え合う「しんぱくシンパシー」

「しんぱくシンパシー」

■帰還困難区域の人や現在進行形で何かを待っている人に、「待った甲斐があった」を伝えるブラウザ「待ち遠しい」

「待ち遠しい」

■LGBTsの人たちが匿名性を保ちつつカミングアウトでき、その存在を知らせる「虹色の街灯」

「虹色の街灯」

■被災地の復興状況の情報を可視化し、「被災地の状況を明瞭に伝えるメディアの提案」

「被災地の状況を明瞭に伝えるメディアの提案」

 これから最終発表会が行なわれ、ステップ3へと進むアイデアが決まります。新型コロナの影響で、予定より1~2ヵ月遅れていますが、学生からはユニークな提案が多数出てますので、最終発表会が楽しみですね。

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